カテゴリー別アーカイブ: 人工知能

AIエージェントが半数の仕事を置き換える、同時に新たな職種が生まれる、AGI経済で生き残るためのスキルは「AGIトラスト最高責任者」

人間の知能を上回るAIモデルAGI(Artificial General Intelligence)は今年から来年にかけて市場にリリースされる。これに先駆け、今年はAIエージェントの導入が急拡大し、企業はビジネスプロセスを自動化し業績を伸ばしている。同時に、AIエージェントは人間に代わり仕事を遂行するため、多くの職種がAIで置き換わる。米国でレイオフが静かに拡大しており、社員の間で不安が広がっている。一方、AIエージェントやAGIにより新たな職種が生まれると期待される。AGI経済の大量失業時代を生き延びるためにはどんなスキルを習得すべきか議論が白熱している。

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ハイテク企業のレイオフが進む

ハイテク企業を中心にレイオフの波が広がっている。今年は現時点までで、154社で74,408人が解雇された。Microsoftは5月に6,000人を削減し、6月には更に9,000人をレイオフすると発表した。Googleは昨年、AI事業にリソースを集中するため、30,000人をレイオフすることを公表した。自動車メーカーのFordは、ホワイトカラーの半数の仕事を削減すると述べ、市場に動揺が広がっている。(下のグラフ、レイオフのトレンド、赤色の棒グラフが解雇された人数を示す)

出典: Layoffs.fyi

AIファースト雇用

主要企業が人員を削減する理由は、AIエージェントの導入で、ビジネスプロセスを自動化するためである。AIエージェントが人間の仕事を代行でき、採用停止やレイオフの波が広がっている。スタートアップ企業の多くは「AIファースト雇用」という制度を導入し、採用で人間よりAIを優先する手法を実践している。Eコマースサービス会社「Shopify」は新規採用において、人間ではなくAIを導入する政策を取る。AIが職務が実行できないときに限り、人間の採用を許可する。募集要項には人間ではなくAIを採用することが記載される。

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AIで置き換わる職種

AIにより多くの職種が置き換わるが、その中心はホワイトカラーの仕事となる。事務職、顧客サポート、パラリーガル(法律事務職員)、マーケティング、アナリストなどがAIで置き換わる。特に、エントリーレベルの職種がAIで置き換えられるという傾向を示している。仕事の経験が薄い大学新卒者が多大な影響を受けている。米国は6月が大学卒業のシーズンで、今年は新卒者の多くが就職できないという事態が発生し、甚大な社会問題となっている。

マクロな雇用情勢

AIにより大量の職種が置き換えられるが、同時に、これを上回る数の新たな職種が生まれる。世界経済フォーラムは最新のレポートで、2030年までの五年間のグローバルな雇用情勢についての予測を公表した(下のグラフ)。これによると、世界の労働者12億人の22%が影響を受け、AIやその他の技術で900万人が失業するが(左端、紫色の部分)、1100万人が新たに就職する(右端、緑色の部分)と予測している。AIエージェントやAGIにより多くの雇用が生み出されることを示している。

出典: World Economic Forum

新たに生まれる職種:最高経営責任者

米国においてAIエージェントやAGIが普及することで、新たに生まれる職種についての議論が広がっている。AIエージェントによりビジネスが自動化されるが、モデルは人間の管理の下で職務を実行し、それを管轄するスキルやアウトプットを人間の嗜好に沿うよう最適化する役割が求められる。AIエージェントは指示された内容に従って、コンテンツを生成し、また、タスクを実行する。一方、社員は仕事をこなす役割から、仕事を管理する役割に遷移する。社員は数多くのAIエージェントを監視し、AIのアウトプットを検証し、公平で正確に職務を実行していることを監査する役割に代わる。人間は数多くのAIエージェントを運用管理する「最高経営責任者」の役割となる。

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新たに生まれる職種:AIシステム責任者

AIエージェントなど自律的なAIシステムが社会に普及し、アルゴリズムが独自の判断でビジネスを遂行する。この環境では、AIエージェントの実行結果を最終的に誰が保証するのかが問われる。AIシステムがバイアスなく公正に稼働していることを検証する監査の職種が必要となる。また、AIシステムの判定ロジックなど、その挙動を企業経営者などに説明する”トランスレータ”が必要になる。更に、AIエージェントが生成したドキュメントやプログラムが正しいことを確認しこれを保障する職種が生まれる。監査法人が企業経営が公正に行われていることを監査するように、AGI経済ではAIモデルを監査する職種が創設される。

新たに生まれる職種:AIテックサポート

AIエージェントが正常に稼働し、問題があればこれを解決するAIエージェント専用のテックサポートが生まれる。この職種は責任範囲が広く、AIエージェントのシステム設計やインテグレーションのほかに、トラブルシューティング、AIエージェントを最適化するためのファインチューニングなどの職務が必要になる。AIシステムが正常に稼働していることを監視し、問題があればトラブルシューティングを行うAIテックサポートがシステムの運用を陰で支える。

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新たに生まれる職種:AIデザイナー

AIエージェント・AGIの時代は、AIがコンテンツを生成し、そのテイストを人間が決定する役割分担となる。人間はクリエイティブを生み出すのではなくそのデザインを担う。具体的には、製品開発においては、AIエージェントがコーディングなどのプログラム開発を担い、人間はアーキテクチャやインターフェイスなどのハイレベルの設計を司る。また、プロモーションビデオの生成では、AIがコンテンツを生成するが、人間は映画監督となり企業のビジョンにマッチした色付けをする。人間がコンセプトやアーキテクチャを創造し、AIエージェントがそれに従って作業を実行するプロセスとなる。

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大量失業時代を生き延びるために

AIエージェントやAGIにより大量の失業者が生まれることは確実で雇用対策が求められる。UBIなどの生活保障に加え、新たに創設される職種に適用するため、社員のリスキリングが極めて重要なステップとなる。ポストAGIエコノミーでは、仕事の形態が大きく変わり、社員はAIエージェントやAGIを管理運営する最高責任者となる。これら新たに生まれる職種に対応するため、企業や個人は新たなスキルを獲得する必要がある。別の観点からは、AIによる大量解雇の時代で生き残るためには、AGI経済で生まれる新たなスキルを先読みし、これらを獲得することがカギとなる。

Anthropicは自動販売機を管理するAIエージェントを開発、実証試験では赤字となったが、、、次世代モデルは小売店舗の経営者を置き換える

Anthropicは自動販売機を管理するAIエージェント「Claudius」を開発し実証試験を実施した。AIエージェントが自動販売機の経営者となり、在庫の管理、商品の仕入れ、顧客サポート、会計管理などを実行した。一か月間にわたり運用した結果、会計収支は赤字となった。このトライアルを通し、AIエージェントの課題が明らかになり、Anthropicは問題点を解決することで、次世代モデルは小売店舗の経営者の能力を獲得できるとの見通しを明らかにした。AIエージェントが店舗経営者を置き換え、ビジネスの自動化が進むが、失業問題が現実の課題となる。

出典: Anthropic

エコノミックAIエージェント

Anthropicは経済分野におけるAIエージェントの能力を測定するためにこのプロジェクトを開始した。自動販売機を管理するモデル「Claudius」を開発し、AIエージェントが管理者となり、商品の発注から顧客サービスまで、物理社会におけるタスクを実行する。AIエージェントは、Anthropicの中規模モデル「Claude Sonnet 3.7」をエンジンとし、事前に設定されたプロンプトに従ってタスクを実行する。AIエージェントは数週間にわたり連続で稼働し、ビジネスを自律的に遂行する機能が試された。

自動販売機とAIエージェント

この実証試験では、自動販売機をAnthropicのオフィスに設置して、社員が顧客となるシナリオで実施された(下の写真)。自動販売機にはiPadが搭載され、セルフチェックアウトの形式で商品を販売する。社員はソーダなどの商品を取り出し、それをタブレットでチェックアウトする。この自動販売機はスタートアップ企業「Andon Labs」が開発したもでの、AIエージェントの機能を検証するために使われる。

出典: Anthropic

AI自販機システム構成

AIエージェントは人間に代わり自動販売機の運用を管理する(下の写真)。具体的には、AIエージェントは商品の在庫を監視し、点数が少なくなると卸売業者に商品を発注する。実際には、AIエージェントがメールを生成し、これを業者に送信する。これを受けて業者は商品を配送し、専任スタッフがこれを自動販売機に補充する。また、AIエージェントは社員とコミュニケーションツール「Slack」で会話することができる。これは顧客サービスの一環で、AIエージェントは社員の要望を聞き、新商品を取り揃えるなどの業務を実行する。AIエージェントは要望を受けた商品を取り扱っている業者を検索し、そこに商品を発注し支払い処理を実行する。

出典: Anthropic

ベンチマーク結果

一か月間の実証試験を通して、AnthropicはAIエージェントの機能を把握することができた。AIエージェントは店舗管理者として必要な基本的な能力を有していることが分かった。AIエージェントは検索エンジンなど外部のツールを使い業務を遂行した。社員の要請を受けて新商品を仕入れる際に、AIエージェントはインターネットで検索し、商品を取り扱う卸売り業者を見つけ、商品を仕入れた。また、AIエージェントは顧客サポートで、在庫がない商品については、プレオーダを設定するなどの機能を示した。

問題点が明らかになる

同時に、AIエージェントの問題点も明らかになった。最大の課題は経営者としての財務管理能力で、AIエージェントはコストと売り上げによる利益を生み出すスキルが十分でない。 AIエージェントは一か月間のトライアルにおいて、業績は定常的に下がり、最終的に収支は25%のマイナスとなった(下のグラフ)。また、損失が急拡大するインシデントが発生した(下のグラフ、右端)。これは社員からの要請を受けて、AIエージェントは商品を仕入れそれを販売したが、販売価格はコスト以下で、赤字の取引となった。また、AIエージェントはネゴに弱いという側面も明らかになった。社員との交渉で値引きのためのクーポンを発行したが、値引き金額が大きく赤字での販売となった。

出典: Anthropic

AIエージェントの改良技術:プロンプト

AnthropicはAIエージェントの問題点を把握することができ、これらの機能を改良するプロジェクトを進めている。AIエージェントにより自動販売機の運営が赤字になったのは、システムプロンプトが関与しており、この技法の開発を進めている。システムプロンプトとはAIエージェントのミッションを定義する機能で、このケースでは自動販売機を管理する手順などが記載されている(下の写真、一部)。具体的には、「自動販売機のオーナーとなる。商品の販売で利益を上げることが任務」などと規定されている。検証の結果、このシステムプロンプトの体系や定義が不十分であることが判明し、プロンプトの構造のやプロンプトの記述の改良を進めている。

出典: Anthropic

AIエージェントのファインチューニング

AnthropicはAIエージェントをファインチューニングし、また、使えるツールを増やすことで、ミドルクラスの経営者レベルのスキルを獲得できるとの見通しを示した。ファインチューニングとはモデルを業務に特化したデータで再教育する手法となる。このケースではAIエージェントを強化学習(Reinforcement Learning)の手法を使い、経営スキルを教えることになる。人間はビジネススクールで経営を学ぶが、AIエージェントは損益のシグナルを報酬とし、事業が成功するスキルを獲得する。また、AIエージェントは「メモリー」の容量に制約があり、CRM(顧客管理システム)を導入し顧客サポートを改善する。更に、利用できる外部ツールの種類を増やし、AIエージェントのビジネスロジック機能を強化する。

小売店舗の自動化と失業問題

次世代のAIエージェントは人間に代わり小売店舗の経営を担うことになる。小売店舗は無人化を進めており、セルフチェックアウト店舗が増えている(下の写真、Amazon Goの事例)。無人店舗をAIエージェントが管理することで、小売事業が格段に自動化される。同時に、小売店舗の管理者がAIエージェントに置き換えられ、雇用問題が現実の課題となりその対策が求められる。AIモデルは仕事の一部を置き換えるが、AIエージェントは社員を代行することになり、雇用対策が喫緊の課題となる。

出典: Forbes

MetaはAI開発が難航し最大の危機に直面、スーパーインテリジェンス研究所を設立し立て直しを図る、著名研究者を競合他社から引き抜き推論機能を強化

Metaは会社創業以来の危機に直面している。MetaはAI最新モデル「Llama 4」を投入したが、ベンチマーク性能は先頭集団に及ばず、AI開発での出遅れが顕著になった。ハイエンドモデル「Behemoth」は出荷時期が延伸され、開発が不調であることを裏付けている。CEOのMark ZuckerbergはAI開発体制を一新し「スーパーインテリジェンス研究所」を創設した。スタートアップ企業Scale AIを買収し、また、OpenAIなどから著名研究者を引き抜き、研究体制を大幅に強化した。(下の写真、スーパーインテリジェンス研究所のイメージ)

出典: Generated with Google Imagen 4

MetaのAI開発が難航

MetaはAIモデル「Llama」を開発し、そのコードや重みをオープンソースとして公開してきた。初代のLlamaからLlama 3はトップレベルの性能を示し、開発コミュニティで幅広く使われている。しかし、Metaは今年4月にLlama 4をリリースしたが(下の写真)、ミッドレンジモデル「Maverick」はOpenAIやGoogleの対抗モデルと比較して、推論機能が大きく劣ることが明らかになった。また、実社会でのベンチマーク「LM-Arena」では30位の成績で、トップグループからの出遅れが顕著となった。

出典: Meta

スーパーインテリジェンス研究所

Zuckerbergはこれを重大な危機と認識し、MetaのAI開発体制を一新し、「スーパーインテリジェンス研究所(Superintelligence Labs)」を設立した。研究所のミッションは次世代モデルの開発で、人間の知能を凌駕するスーパーインテリジェンスを開発する。MetaはAIスタートアップ企業「Scale AI」に143億ドル投資し、創業者のAlex Wangを研究所の代表に任命した。また、OpenAIやGoogleから著名研究者を引き抜き、AI開発のドリームチームを結成した。

出典: Generated with Google Imagen 4

スーパーインテリジェンス研究体制

スーパーインテリジェンス研究所はCEO直属組織で、所長のWang(下の写真右側)がZuckerberg(左側)に直接レポートする。現在、コアの研究者の数は50名と言われるが、Zuckerbergは業界の著名研究者をアグレッシブに採用している。MetaはOpenAIの主要研究者にオファーを出し、採用ボーナスとして1億ドルを提示したとされる。この他に、Google、Perplexity、Safe Superintelligenceの研究者の採用を試みている。

出典: Stocktwis / CNBC

採用された研究者のプロフィール

実際に採用された研究者の経歴を見ると、Metaの次世代モデル開発の戦略を読み取ることができる。MetaのAI開発が難航している理由は推論モデルで、このノウハウを持つ研究者を重点的に採用している。更に、MetaはスマートグラスをAIで強化することでインテリジェントなウエアラブルを製品化する。このため、ビジョン・トランスフォーマなどマルチモダルの研究者を数多く採用した。また、所長のWangはデータやインフラの第一人者で、推論モデル開発で必須となる教育データ生成のノウハウを持つ。

スーパーインテリジェンス研究所の開発テーマ

スーパーインテリジェンス研究所のミッションは人間の知能を凌駕するAIモデルを開発することにある。技術的には、上述の推論機能を強化するため、強化学習(Reinforcement Learning)や思考の連鎖(Chain of Thought)が研究テーマとなる。また、AIが実社会とインタラクションするために「世界モデル」を開発する。世界モデルとはAIシステムが3D物理社会のコンテキストを理解し、次の挙動を予測する能力となる。スーパーインテリジェンスに加えロボティックにおける重要な基礎技術となる。また、人間の知能を上回るAIシステムを安全に制御するために、セーフティ技術の開発が必須となる。(下の写真、Metaの本社キャンパス)

出典: Meta

オープンソース戦略の見直し

MetaはAI開発におけるオープンソース戦略の見直しを進めている。MetaはLlamaシリーズをオープンソースとして公開することで、コミュニティのAI開発を支え社会に多大な貢献をしている。一方、高度なAIをオープンソースとして開発することで、マイナスの面が顕著になってきた。特に、推論モデルにおいてこれをオープンソースとして公開すると、AIの思考プロセスが開示され、開発競争において不利になる。また、スーパーインテリジェンスなど高度なモデルを公開することは敵対国や攻撃団体に悪用されるリスクが高まり国家安全保障の重大な問題となる。Metaはスーパーインテリジェンスにおけるオープンソース戦略の見直しを進めている。

LeCunとの関係

MetaのAI開発が低迷した理由の一つにYann LeCun(下の写真)のインテリジェンス開発に関するビジョンが影響している。LeCunはMetaのAI研究所「Fundamental AI Research (FAIR)」(現在は「Meta AI」)の所長としてAI開発をリードしてきた。LeCunは人間の知能に匹敵するAGI開発に懐疑的なポジションを取り、いまの言語モデルを拡張してもAGIには到達できないと考える。Metaが独自の手法を探索している間に、OpenAIやGoogleは言語モデルや推論モデルを拡張しAGIを目指し大きな成果を上げている。ZuckerbergはLeCunの手法と一定の距離を置き、スーパーインテリジェンス研究所を設立し次世代モデルの開発にリソースを投入する。

出典: Meta

臨戦態勢で先端技術を開発

AI先進モデルの開発ではアルゴリズム、データセンタ、データがコア技術となり、研究開発の成否を握る。アルゴリズムにおいては、先端モデルの開発に従事している研究者は20人程度と言われている。これら最先端研究者がOpenAIやGoogleで次世代モデルを生み出している。MetaがOpenAIから数多く研究者を引き抜いたが、OpenAIもGoogleから研究者をスカウトした。Zuckerbergは参謀本部(War Room)を創設し、ここで臨戦態勢でAI開発を推進する。Metaはトップ集団に追い付くことができるのか、スーパーインテリジェンスの開発が注目される。(下の写真、MetaデータセンタのNvidia GPUクラスター)

出典: Nvidia

AIが爆発的に進化する「シンギュラリティ」の圏内に突入!!人類が滅びるか繫栄するかの岐路に直面

OpenAIのCEOであるSam Altmanは、AIが爆発的に進化する「シンギュラリティ(Singularity)」の圏内に突入したとの見解を示した。シンギュラリティは知能の爆発とも呼ばれ、AIが暴走し、人類が滅びるストーリーとして描かれる。しかし、Altmanは、AIを人間の価値に沿ったモデルにし、また、AIを一部の人物や企業や国家が独占することなく、人々がこの恩恵を公平に享受できれば、豊かな社会を実現できるとのビジョンを示した。世界は後戻りできないポイントを超え、人類が滅びるか繫栄するかの岐路に直面している。

出典: Generated with OpenAI o3

シンギュラリティとは

「シンギュラリティ(Singularity)」とは技術的な特異点を示す用語となる。AIにおける特異点とは、技術が指数関数的に成長し、人間の知能を大幅に凌駕するポイントを指す。シンギュラリティは二種類あり、「ハード・シンギュラリティ」と「ソフト・シンギュラリティ」に分類される。前者は、AIが爆発的に進化し、人間が制御することができず、AIが暴走する社会となる。これは「知能の爆発」とも呼ばれ、SF映画で描かれるシナリオとなる。一方、後者は、AIの技術は急速に進化するが、人間がAIを制御する技術を開発することで、AIの恩恵を享受できる社会が生まれるとのシナリオとなる(下の写真、ソフト・シンギュラリティのイメージ)。

出典: Generated with OpenAI o3

穏やかなシンギュラリティ

OpenAIのCEOであるSam AltmanはAIに関するビジョンを発表し、社会は既にソフト・シンギュラリティの圏内に入っているとの見解を示した。Altmanはソフト・シンギュラリティを「穏やかなシンギュラリティ(Gentle Singularity)」と表現し、AIの恩恵を享受できる豊かな社会が生まれると予測する。世界はイベントホライゾン(Event Horizon)を超え、もう後戻りはできず、シンギュラリティに向かって進んでいる。(イベントホライゾンとはブラックホールで使われる用語で、重力が大きく光でも脱出することができない領域を指す。)

シンギュラリティのロードマップ

Altmanはシンギュラリティに向かったロードマップを示し、AIが生み出す新しい社会観を解説した。

  • 2025年:エージェントが人間に代わり仕事やタスクを実行する。例えば、エージェントがエンジニアに代わりプログラムを開発する。
  • 2026年:AIが科学技術において新たな論理を生み出す。現行のAIは人間が生み出した論理をベースに新技術を生み出すが、新世代のAIは人間に代わり新しい論理を生み出す。
  • 2027年:ロボティックスが急進しロボットがロボットを製造する(下の写真)。ハードウェア開発でもシンギュラリティが生まれる。
  • 2030年代:知能とエネルギーが無尽蔵な社会となる。AIのコストが劇的に下がり、電気料金程度となり、知能を豊富に使うことができる。
出典: Generated with OpenAI o3

科学技術の進化が加速

既にAIにより大きな恩恵を享受しているが、これからAIにより重大な発見が相次ぎ、社会が大きく変化する。今はAIを医療技術に応用し、メディカルイメージングをAIで解析することで、がんを高精度に検知する。これからは、AIで医療技術の開発期間が劇的に短縮され、がん治療薬が登場する。また、現在はAIがエンジニアに代わりプログラミングを実行するが、これからはAIがソフトウェア全体を開発し、AIが会社を設立しそれを運用する時代となる。

社会へのインパクト

高度なAIにより技術が急進し、社会に多大な恩恵をもたらすが、社会構造は大きく変わる。AIが人間に代わり仕事をするため、殆どの職がAIで置き換わることになる。一部の職種がAIに奪われるのではなく、殆どの職が無くなる。しかし、シンギュラリティ時代には新たな職種が生まれ、仕事に関する価値観が大きく変わる。社会や経済の変化は急で、人々はこれを理解し、新しい環境に適用できるまでには時間を要す。産業革命など、過去の事例が示すように、人々は長い年月を経て新し環境に適用していく。

新時代のAIに求めらること

AIが社会に恩恵をもたらすことを担保するためには、技術面と政策面で新たなメカニズムが求められる。技術面では「アラインメント(Alignment)」で、AIが人間の価値に沿って稼働するための技術の開発が求められる。高度なインテリジェンスを制御する技法の研究開発が重要なテーマとなる。政策面では、AIの恩恵が一部の人物や会社や国家に集中することなく、人々がこれを享受するための政策や枠組みが必要となる。

2035年の社会像

高度なインテリジェンスにより社会が大きく変わり、Altmanは2035年までに達成される技術を予測している。一つは、高エネルギー物理学の急速な進展で、核融合発電が現実のものとなる。これにより、クリーンなエネルギーが大量に生成され、地球温暖化の抑止に大きく貢献する。また、インプラントにより人間の頭脳がエンハンスされる。インプラントでは脳にチップを埋め込むが、物性物理学のブレークスルーで、大量のデータを送受信できるようになる。(下の写真、2030年代には人類が他の惑星への移住を始める。)

出典: Generated with OpenAI o3

シンギュラリティの議論

Altmanは、AIが爆発的に進化するシンギュラリティに突入したが、AIが人類を滅ぼすのではなく、知識とエネルギーが無尽蔵な豊かな社会が生み出されるとの見方を示した。市場では様々な意見があり、Altmanの予測はOpenAIのマーケティング戦略であるとの反応も少なくない。また、懐疑派は現行の技法を拡張してもシンギュラリティに到達できないとの考え方を示している。「穏やかなシンギュラリティ」を生み出せるのか、市場で議論が白熱している。

トランプ氏はサイバーセキュリティを強化する大統領令に署名、規制や義務を軽減するが基礎技術はバイデン政権の政策を踏襲、関税政策で混乱するなかIT政策では論理的な指針を示す

トランプ大統領令は6月6日、サイバーセキュリティを強化するための政策に関する大統領令(Executive Order)に署名した。大統領令はバイデン政権の大統領令を修正するかたちで制作され、過度な規制や義務を軽減し、サイバーセキュリティの基礎技術の開発を強化する。最大の脅威は中国とし、サイバー攻撃を防御するため技術開発に関するアクションを規定した。トランプ政権はサイバーセキュリティ政策についてバイデン政権の方針を大きく変更すると述べているが、実際に大統領令を読むと、技術開発については多くの部分を継承している。

出典: Getty Images

サイバーセキュリティ大統領令の概要

トランプ政権の大統領令(EO 13800)はオバマ政権の大統領令(EO 13694)とバイデン政権の大統領令(EO 14144)を修正する構造となっている。大統領令はサイバー攻撃への耐性を高めるために各省庁が取るべきタスクを定めている。対象は、ソフトウェア、AI、量子技術で、安全技術の開発を強化するためのアクション項目と開発スケジュールが規定された。特に、NIST(National Institute of Standards and Technology、国立標準技術研究所)が重要な役割を担い、このプロジェクトの中心組織となる。

出典: The White House

最大の脅威は中国

大統領令は中国(People’s Republic of China)が米国にとって最大の脅威になるとの認識を示している。中国が米国政府や民間企業に対し継続してサイバー攻撃を展開しており、最大の脅威となり、ロシア、イラン、北朝鮮がこれに続く。この情勢の下で、大統領令は国家のデジタルインフラやサービスを守るためのサイバーセキュリティ技術の開発を規定する。対象は、ソフトウェア、量子技術、AIシステムなどで、これらの分野で安全技術を強化するための具体的なアクションを定めている。

ソフトウェア

大統領令はセキュアなソフトウェアを開発するためのフレームワークの開発を規定している。このフレームワークは「Secure Software Development Framework」と呼ばれ、バイデン政権下で商務省配下のNISTが開発したもので、大統領令はこれをアップデートして機能を強化することを求めている。大統領令はアクションのスケジュールを定めており、フレームワークの初版を2025年12月1日にリリースし、その後120日以内に最終版を公開することを規定している。

量子技術

大統領令は量子コンピュータの登場に備え、暗号化技術を強化することを求めている。量子技術の開発が進み、量子コンピュータにより現在利用している暗号技術が破られることになる。この量子コンピュータは「cryptanalytically relevant quantum computer (CRQC)」と呼ばれ、暗号技術を強化する必要がある。既に、米国政府は量子コンピュータに耐性のある暗号技術「post-quantum cryptography (PQC)」の開発を進めている。大統領令はこの研究開発を強化し、安全技術の適用を推進するためのアクションを定めた。具体的には、2025年12月1日までにCISA(Cybersecurity and Infrastructure Security Agency、サイバーセキュリティ・社会基盤安全保障庁)を中心にPQCの製品カタログをアップデートし、連邦政府内でPQCの導入を推進する。

出典: NIST

AIシステム

大統領令はAIシステムのセキュリティを強化することを規定している。AIシステムはサイバー攻撃を防御するツールとなり、同時に、AIシステムがサイバー攻撃への耐性が低いという課題を抱えており、この二つの側面を強化するためのアクションを規定している。AIシステムはサイバー攻撃を検知するための有効な防衛技術で、大統領令は連邦政府の研究成果を大学研究機関に公開することを求めている。また、AIシステムはサイバー攻撃に対する脆弱性を含んでおり、この情報を省庁内で共有することでサイバーセキュリティを強化することを規定している。NISTなどが中心となり、これらのアクションを2025年11月1日までに完了する。

過度な負担の軽減

大統領令は同時に、サイバーセキュリティに関する過度な規制条項を削除した。その事例がデジタルIDで、バイデン政権はこの技術の開発普及を規定した。トランプ政権の大統領令はこの規定を削除し、このプロジェクトを停止した。デジタルIDとは電子証明システムで、運転免許証など証明書をデジタル化するプログラムとなる。具体的には、州政府がデジタルな運転免許証を発行するプログラムを支援し、また、連邦省庁で電子証明システムを開発運用することを規定した。トランプ政権は、このプログラムは過度な負荷をかけるとしてこの条項を停止した。

出典: The White House

サイバーセキュリティの組織体制

大統領令の実行にあたってはNIST(国立標準技術研究所)やCISA(サイバーセキュリティ・社会基盤安全保障庁)が中心組織となり他の省庁をリードしていく。NISTは商務省配下の組織で、計量学、標準規格、産業技術の育成などの任務を担ってる。NISTはAIの研究や標準化を進め、信頼されるAIが経済安全保障に寄与し、国民の生活を豊かにするとのポジションを取る。CISAは国土安全保障省配下の組織で、連邦政府のサイバーセキュリティの司令塔となり、サイバー攻撃を防衛する役割を担う。

セキュリティ政策ではバイデン政権の指針を踏襲

トランプ大統領は強硬な関税政策を打ち出し、世界経済に大きな影響を与え、投資やビジネスにおける不確実性が異常に高まっている。これに対しセキュリティ政策は、規制緩和を大きな柱とし、技術開発を推進する構造となっている。バイデン政権の政策から大きく転換するとしているが、公表された大統領を読むと、修正はマイナーチェンジに留まり、基本指針を継承している。IT政策では理にかなった政策を打ち出し、過去の研究成果が継承されている。