カテゴリー別アーカイブ: 遺伝子解析

米国政府は23andMeの遺伝子解析による乳がん検査を認可、消費者はがん発症リスクを知り健康管理

アメリカ食品医薬品局 (FDA、Food and Drug Administration) は23andMeに対し、遺伝子解析で乳がん発症のリスクを検査することを認可した。これにより消費者は、乳がんを発症するかどうかを知ることができるようになった。FDAがこの手法を認可したことで、米国では個人向け遺伝子解析サービスが急拡大する勢いとなってきた。

出典: VentureClef

23andMeの遺伝子解析サービス

FDAから認可を受けたのはMountain View (カリフォルニア州) に拠点を置く23andMeというベンチャー企業で、個人向け遺伝子解析サービスを提供している (上の写真)。23andMeは、遺伝子配列の変異から被験者がどんな病気を発症するのかを予測し、米国医療市場に衝撃を与えた。しかし、FDAは2013年、予測精度が十分でなく、消費者が不要の手術を受けるなど危険性が伴うとして、業務停止命令を出した。このため、23andMeは医療解析サービスを中止し、人種解析サービスに特化して事業を進めてきた。

FDAから認可を受ける

その後23andMeは事業内容を改良し、2017年4月、FDAは10種類の病気に限り遺伝子解析サービスを認可した。ここにはパーキンソン病やアルツハイマー病が含まれており、消費者は病気を発症するリスクを把握できるようになった。これに続き、2018年3月、FDAは乳がんや子宮頸がんに関する遺伝子解析サービスを認可した。病院では乳がんのスクリーニングで遺伝子解析が使われているが、消費者は23andMeのサービスを使ってがん発症のリスクを知ることができるようになった。

BRCA1とBRCA2遺伝子

乳がん検査では「BRCA1」と「BRCA2」という遺伝子(下の写真)を解析する。BRCA1とBRCA2は共に、ガン発症を抑える機能を持ち、がん抑制遺伝子 (Tumor Suppressor Gene) と呼ばれる。BRCA1とBRCA2は傷ついた遺伝子を修復するためのたんぱく質を生成する。しかし、BRCA1とBRCA2がダメージを受けると、この修復機能が影響を受け、がん発症のリスクが高まる。特に、女性の乳がんと子宮頸がんの発症が高まる。男性にも関与ており、前立せんがんの発症リスクが高まる。

出典: Wikipedia

遺伝子変異とリスク

BRCA1とBRCA2の遺伝子変異ががん発症のリスクを高めるが、これらはAshkenazi Jewish (ユダヤ人のグループ) に多く見られる。このグループの40人に一人がこの遺伝子変異を持つとされる。また、この遺伝子変異を持つ女性の45-85%が70歳までにガンを発症するともいわれている。女優Angelina JolieはBRCA1の遺伝子変異が見つかり、予防のために両乳腺を切除する手術を受けたことを公表した。このニュースのインパクトは大きく、BRCA遺伝子変異と乳がんの関係が認識され、遺伝子検査への関心が高まった。

遺伝子解析の限界

BRCA1とBRCA2に注目が集まっているが、これらの遺伝子変異が検出されなければガン発症のリスクがゼロになるというわけではない。23andMeが試験する範囲は限られており、がん発症リスクをすべて網羅するものではない。BRCA1とBRCA2の遺伝子変異の数は1000を超えるが、23andMeはこのうちの三つを対象に検査する。また、がん発症はライフスタイルとも大きく関係しているが23andMeはこの要素は勘案していない。乳がん発症の原因は数多いが、23andMeはその中で代表的なBRCA1とBRCA2に特化してリスクを評価している。

解析結果をどう解釈すればいいのか

このように遺伝子解析は複雑で完全なものではなく、23andMeから受け取るレポートをどう解釈すればいいのか、消費者から戸惑いの声が聞かれる。これに対して、CEOであるAnne Wojcickiは、ブログの中で、解析結果の活用方法を述べている。23andMeの遺伝子検査は「病気を診断するものではなく」、また、「病被験者が検査結果を見て医療方針を決めてはならない」としている。つまり、検査結果の解釈については、病院の医師などに相談し、判断を仰ぐべきとしている。また、23andMeは、遺伝子解析専門のカウンセラー(Genetic Counselors)に相談してアドバイスを受けることを推奨している。

遺伝子解析専門カウンセラー

遺伝子解析専門カウンセラーとは馴染みのない名前であるが重要な役割を担っている。病院の医療チームの一員で、遺伝子疾病 (Genetic Disorder) に関し、患者にカウンセリングする職務である。サンフランシスコ地区では多くの病院で遺伝子解析専門カウンセラーを置いており患者をサポートしている (下の写真、大手病院Kaiser Permanenteの事例)。個人向け遺伝子解析サービスが急増する中、解析結果を解釈する仕事が増えている。カウンセラーは、遺伝子解析結果を被験者に分かりやすく説明し、必要であれば専門医を紹介する。

出典: Kaiser Permanente

病院の先生は否定的

病院の医師の多くは消費者が独自に遺伝子解析を受けることに対し否定的な考えを持っている。病院では家系に乳がんの病歴がある患者に限り遺伝子解析などでスクリーニングテストを実施している。この条件に該当しない患者が遺伝子検査を受けることは実用的でなく、また、心理的な負担が大きいとしている。

もし遺伝子変異が見つかると

医師の考え方とは裏腹に、多くの消費者が既に23andMeの遺伝子検査を受けている。今までは、BRCA1とBRCA2に関する解析結果は被験者に通知されなかったが、FDAの認可を受け、23andMeはその結果を会員に順次通知する。この結果、発がんリスクが高いと判定された被験者は、23andMeの指針に沿ってカウンセラーや病院の医師の診察を受けることになる。女性の場合は乳がんなどで、男性の場合は前立せんがんが対象となる。

解析と治療のギャップ

これから相談を受ける医師がどのように対応するのかは見通せないが、病院で詳細な検査を実施し、定期的にスクリーン検査を受けることなどが予想される。このように23andMeは遺伝子解析結果を示すにとどまり、その後の医療措置はカウンセラーや医師に任された形となっている。消費者としては両者の間に大きなギャップを感じ、サービスが完結していないとも感じる。

出典: 23andMe

未完のサービスであるが

未完のサービスであるが消費者の間で遺伝子解析サービスの利用者が急増している。23andMeで遺伝子検査を受け、アルツハイマー病を発症するリスクが高いと診断された消費者は、介護保険を購入する動きが急拡大している。病気のリスクを把握し、それに応じてライフプランを修正する人が増えている。消費者は自分の将来の健康状態を知りたいという欲求が強く、問題を抱えながらも、個人向け遺伝子解析サービスが急成長している。

我々のIQは遺伝子変異で決まる、インテリジェンスを形成するDNAが特定された

やはりIQは遺伝で決まる。DNAとインテリジェンスに関する大規模な臨床試験が実施されその結果が公表された。それによると52の遺伝子がインテリジェンス形成に関与している。

出典: Suzanne Sniekers et al.

大規模な研究

研究結果は「Genome-wide association meta-analysis of 78,308 individuals identifies new loci and genes influencing human intelligence」として科学雑誌Natureに掲載された。 (上の写真)。今までも遺伝子とインテリジェンスに関する調査が実施されたが有効な結論は得られていない。今回の研究はそれを大規模に展開し遺伝子とインテリジェンスの関係を特定することができた。

遺伝子変異と身体特性の関係

研究は遺伝子変異が身体特性にどう影響するかを把握する手法で進められた。この手法はGWAS (Genome-Wide Association Studies) と呼ばれ、遺伝子特性 (Genotype) と身体特性 (Phenotype) の関連性を把握する。ここでは遺伝子特性としてSNP (Single-Nucleotide Polymorphism) が使われた。SNPとはゲノム塩基 (C、T、A, G) の配列で一塩基が変異した多様性を指す。身体特性ではIQテストなどで被験者のインテリジェンスのレベルが測定された。これらSNPとIQの間に相関関係が認められるかどうかが評価された。

解析結果

研究では78,308人の被験者の1200万個のSNPが解析された。その結果336個のSNPがインテリジェンスに関与していることが分かった。これらのSNPは染色体 (Chromosome) の18か所で特定され、その半数は22の遺伝子の中にある。つまり、22の遺伝子が人間のインテリジェンスの形成に関連することが分かった。

52の遺伝子がインテリジェンスに関与

更に、この研究では上記のGWASに加え、遺伝子の中の複数変異と身体特性の関係についても解析された。この手法はGWGAS (Genome-Wide Gene Association Studies)と呼ばれインテリジェンスに関与する47の遺伝子を特定した。合計で69 (22+47) の遺伝子が特定されたが17の遺伝子は両手法で重複しており、差し引き52 (69-17) の遺伝子がインテリジェンスに関与していると結論付けた。

インテリジェンスを形成する理由

これらの遺伝子がインテリジェンスを形成する生物学的メカニズムについては分かっていない。しかし、それに関連する興味深い解析を示している。遺伝子はたんぱく質を生成するためのプログラムとして機能し、遺伝子のタイプにより異なるたんぱく質が生成される。心臓や血管や脳や神経や皮膚などは特定タイプの遺伝子で作られる。GTEx Data and Analysisというツールに遺伝子IDを入力すると生成される組織 (Tissue) のタイプが分かる。

出典: Suzanne Sniekers et al.  

遺伝子は脳の組織を生成

研究で特定されたインテリジェンスに関与する遺伝子をこのツールで調べたところ、この中の14の遺伝子は脳のたんぱく質を生成する機能を持つことが分かった。具体的には大脳皮質 (Cortex)、海馬 (Hippocampus)、小脳 (Cerebellum) などを生成する機能を持つ。インテリジェンスに関与する遺伝子の多くは脳を生成する機能と関係する。 (上の写真は遺伝子とそれが生成する人体組織の種類のマトリックス。横軸が遺伝子の種類で、縦軸はそれらが生成する組織を示す。赤色の枠は両者に強い関係があることを示す。)

遺伝子と社会的立場

更に、遺伝子と社会的立場や健康との関係も解析された。特定された52の遺伝子と最も相関関係が高いのが学歴であることが分かった。特定の遺伝子変異が教育レベルに強く影響することが科学的に証明された。更に、喫煙者がタバコを止めることができるのはこれら遺伝子が関係していることも判明した。また、これらの遺伝子はアルツハイマー病の発症を抑制する効果があることも報告されている。

Nature vs Nurture

インテリジェンスは遺伝すると経験的に感じているが、この論文はこれを科学的に証明した。一方、インテリジェンスは社会生活の過程で習得できることも経験しており、我々は遺伝が全てではないとも感じている。これは「Nature vs Nurture」といわれる考え方で、人間の特性は遺伝かそれとも育ちかという議論がある。今ではNatureとNatureの両方が関与するという意見が大勢を占め、インテリジェンスは遺伝子と教育が絡み合って決まると解釈されている。

IQと学習のバランス

実際にGoogleがこれを職場で実践している。Googleは社員に求められる能力を、「Intellectual Humility (知性に謙虚)」と「Learning Ability (学習能力)」としている。知性に謙虚であるとは、仕事はインテリジェンスだけで解決できる訳ではないということを示す。知性に頼り過ぎると失敗から学習する能力が不足し、意見が異なると激しい議論に発展し、建設的な展開が期待できないとしている。後者の学習能力とは新しいものを学習する能力で、状況を素早く把握し、幅広い情報を取りまとめ、柔軟に考察する能力と定義している。Googleは採用対象大学を少数のエリート校に限っていたが、最近ではその幅を大きく広げた。Googleの事例が示すように、また我々が直感的に感じているように、IQと学習のバランスが成功のカギとなる。

DNA検査が保険会社を脅かす!消費者はDNA検査で病気発症のリスクを把握し介護保険を購入

米国政府は個人向けDNA解析サービスを禁止していたが、企業側の努力が実り今年5月に解禁となった。消費者はDNA解析サービスで病気発症のリスクを把握できるようになった。いま、アルツハイマー病を発症するリスクが高いと診断された消費者が介護保険を購入する動きが広がっている。保険加入にあたり保険会社はアルツハイマー病の検査をするが問題は検知できない。リスクの高い加入者が増え続け保険会社は事業の見直しを迫られている。

出典: VentureClef  

遺伝子解析サービスの誕生と事業停止命令

DNA解析サービスを運用していた23andMe (上の写真) は2017年5月、FDA (アメリカ食品医薬品局) からDNA検査事業を再開することを認められた。同社はMountain View (カリフォルニア州) に拠点を置くベンチャー企業で、2007年から個人向けDNA解析サービスを提供してきた。遺伝子配列の変異から被験者がどんな病気を発症するのかを予測するサービスで米国医療市場に衝撃を与えた。しかし、FDAは2013年、23andMeの予測精度は十分でなく、また、消費者が結果に応じて不要の手術を受けるなど、危険性が高いとして事業停止を命じた。

事業再開にこぎつける

23andMeはFDAとの協議を重ねたが合意に至らずサービス休止に追い込まれた。その後、勧告に従い機能改良を進め、FDAは10種類の病気に限りDNA解析サービスを認可した。条件付きであるが23andMeは事業を再開することができた。10種類の病気の中にはパーキンソン病やアルツハイマー病が含まれている。

介護保険を購入

いま米国ではDNAを解析してから保険に加入する消費者が増えている。米国の主要メディアがレポートしている。ミシガン州に住む女性はDNA解析結果「APOE-e4」という遺伝子変異があることを把握した。APOE-e4はアルツハイマー病を発症するリスクを押し上げる効果がある遺伝子変異である。この女性は母親もアルツハイマー病を患ったこともあり介護保険を申し込んだ。保険会社は女性の健康状態を把握するため、アルツハイマー病などの検査を実施したが問題はなかった。女性は現在は健康な状態であり介護保険を購入することができた。

遺伝子変異と発病の関係

アルツハイマー病の発症はAPOEという遺伝子が関与していると言われている。APOEはたんぱく質 (Apolipoprotein E) を生成する遺伝子でコレステロールや脂質を制御する機能がある。APOEは三つの変異がありそれぞれe2、e3、e4と呼ばれ、この中でe4がアルツハイマー病の発症を促進するといわれている。これがAPOE-e4でこのタイプの遺伝子を持つと病気発症の確率が最大で10倍 (85歳の男性のケース) になる。

出典: 23andMe  

これをどう解釈すべきか

しかし、APOE-e4がアルツハイマー病を引き起こすメカニズムは分かっていない。また、病気発症は性別、年齢、家族の病歴、食事、知的活動などに依存する。このため23andMeはAPOE-e4がアルツハイマー病を引き起こす要因とは断定できないとしている。その一方で臨床試験による統計データを示し、APOE-e4を持つ人は病気発症の確率が大きく上がるとも説明している。被験者としてはこの説明をどう解釈すべきか困惑するのが実情である。DNA解析サービスはまだ解決すべき難しい問題を含んでいる。

病気発症のリスク

米国では550万人がアルツハイマー病を発症し、その半数が介護施設に入所し治療を受けている。今まで個人向けDNA解析サービスは禁止されていたため、消費者は病気のリスクを知ることはできなかった。しかし、23andMeのDNA解析サービスが解禁となり、アルツハイマー病の検査を受診できるようになった (下の写真)。解析結果をどう解釈すべきか難しい問題はあるものの、多くの人がアルツハイマー病を含む病気のリスクを検査している。

出典: 23andMe  

遺伝子解析サービスと保険購入

DNA解析結果と保険購入に関し興味深いレポートが公開された。Harvard Universityによる研究で、APOE-e4遺伝子変異を持つ人は他に比べ保険を購入している割合が6倍になっている。アルツハイマー病発症のリスクを把握し、将来に備えて保険を購買していると思われる。レポートはアルツハイマー病以外の病気のリスクも分かるとDNA検査を受ける人が増えると予測している。このため病気発症のリスクを把握した消費者が保険を購入する動きが広がると、保険会社は事業を存続できないことになる。

保険会社はDNA解析サービスを採用

一方で、米国の保険会社はDNA解析を積極的にビジネスに取り入れる動きも始まった。大手生命保険会社MassMutualは2017年5月、DNA解析サービスに保険の適用を始めた。加入者はHuman Longevity Inc (下の写真) のDNA解析サービス「HLIQ Whole Genome」を格安で受診できる制度を導入した。Human Longevity Incは被験者の全遺伝子を解析するサービスを提供しており、健康の状態、病気にかかるリスク、薬の作用の仕方、遺伝子病、身体特性などを詳細に把握することができる。

加入者の健康を促進

このサービスは未来の人間ドックとも呼ばれDNA解析サービスの在り方を示している。受診者は身体情報を把握できるだけでなく、Human Longevity IncのDNAデータベース構築に寄与し、ひいては医学研究に貢献できるとしている。一方、保険会社はHuman Longevity Incから個人情報を入手することは無いとしている。つまり、健康状態に応じて保険条件を変えることはなく、加入者がこのサービスを通じ健康を保つことが目的としている。ひいては保険会社のコストが下がることとなる。

出典: Human Longevity Inc

公平なルール作りが始まる        

健康保険に関してはMassMutualのようにDNA解析サービスを格安で提供し被保険者の健康を維持する動きが広がっている。一方、前述の介護保険については、DNA解析結果により保険条件を調整する方向に進む気配がある。アルツハイマー病発症のリスクが高い人とそうでない人が同じ保険料を支払うのは不公平との議論もある。DNA解析サービスが米国社会で広まる中、保険会社と政府機関は公平なルール作りが求められている。

米国で白人至上主義団体の活動が拡大、しかしDNA解析により活動家の多くは純粋な白人でないことが判明

米国で白人至上主義団体による抗議活動が激化している。バージニア州シャーロッツビルでは白人至上主義者がクルマで反対集団を襲撃し死者と多数の負傷者がでる惨事となった。白人至上主義団体や極右団体が台頭し社会に不安が広がっている。同時に、DNA解析サービスの普及で白人の定義が明確になり白人至上主義の価値観が揺らいでいる。

出典: Google  

DNA解析サービスの結果は

白人至上主義 (White Supremacy) 団体の活動が拡大する中、活動家はDNA解析サービスを利用し自身が純粋な白人であることを確認する動きが始まった。純粋な白人であると思っていた活動家がDNA解析を受けると白人以外の人種が混ざっていたというケースが相次いで報告されている。活動家の多くは”白くない”という事実が判明しそのアイデンティティが揺らいでいる。

白人至上主義者の研究

この事実はカリフォルニア大学ロサンジェルス校のAaron PanofskyとJoan Donovanの研究で明らかにされた。研究結果は「When Genetics          Challenges a Racist’s Identity: Genetic Ancestry Testing among White Nationalists」として公開された。この研究は白人至上主義者の交流サイト「Stormfront」を追跡調査したもので、ここに投降される記事からDNA解析に関連するものを抽出し内容を分析したものとなっている。活動家の多くがここで意見を交換するが最近ではDNA解析に関する書き込みが目立っている。

純粋な白人は少数

論文によると白人至上主義者は純粋な白人であることを確認するために23andMeなどを利用してDNA解析による家系解析検査 (genetic ancestry test) を受けている。しかし、純粋な白人であることを確認できたのは1/3に過ぎず、残りの2/3は異なる人種が混じっていると報告している。純粋な白人でないと判定された人たちはこの結果をどう受け止めるべきか葛藤が続いている。

研究結果の具体的な事例

その一人がノースダコタ州に住むCraig Cobbという男性である。DNA解析サービスを受けたが、その結果ヨーロッパ人種 (European) である割合は86%で残りの14%はアフリカ人種 (Sub-Saharan African) であることが分かった。Cobbはテレビ番組に出演し独自の意見を展開した。この結果を受け入れることはできず「統計エラー」であると述べている。また「DNA解析技術はジャンクサイエンス」で「結果は仕組まれたもの」と奇異な解釈を示した。Cobbは黒人から友達と呼ばれ握手を求められるがこれを断るシーンも放送された。また、別の会員は「鏡を見て白人に見えれば問題ない」とか、「テスト結果ではなく本人の心情が重要」などと苦しい見解が目立っている。

出典: 23andMe  

23andMeの人種特定サービス

23andMeは遺伝子による人種特定サービス「Genetic Ancestry Composition」を展開している。被験者のルーツを辿るサービスでDNAを解析して人種を特定する。被験者の多くは複数の人種から構成されこのサービスはその割合を示す (上の写真)。対象となる人種の区分は「European」、「South Asian」、「East Asian & Native American」、「Sub-Saharan African」、「Middle Eastern & North African」、「Oceanian」の六種類からなる。日本人は「East Asian」に区分され、ここには「Japanese」の他に、「Korean」、「Yakut」、「Mongolian」、「Chinese」が含まれている。(Yakutとはロシア連邦サハ共和国に居住するヤクート族。)

世界の国々からサンプルを収集

23andMeは人種を特定するために被験者の遺伝子と特定地域に住んでいる人の遺伝子を比べる手法を取っている。まず、世界の国々からサンプルを集め人種と遺伝子を関係づけたデータベース (Referenceと呼ばれる) を生成する。被験者の遺伝子をReferenceと比較して人種を特定するプロセスとなる。Referenceの総数は10,000を超えるが、その多くは外部研究プロジェクト (スタンフォード大学のHuman Genome Diversity Projectなど) 結果を引用している。これに加え、23andMe会員のデータも利用している。

白人至上主義とは

白人至上主義は過去のものと思われていたが日々のニュースで登場する回数が増えた。白人至上主義とは白人が他の人種より秀でているというイデオロギーで白人が社会をコントロールすべきという考え方を示している。色々な団体があるがクー・クラックス・クラン (Ku Klux Klan) が有名で今でも活動を続けている。

南北戦争と関連する

米国の白人至上主義は南北戦争 (Civil War) に関連している。エイブラハム・リンカーン (Abraham Lincoln) は大統領になる直前、奴隷制度の拡大を禁止した。南部11州はこれに反対しアメリカ合衆国を離脱し独自にアメリカ連合国 (Confederate States of America) を設立した。連合国は1861年、サウスカロライナ州のサムター要塞 (Fort Sumter) を攻撃し南北戦争が始まった。連合国の大統領がJefferson Davisで、連合国軍を指揮した将軍がRobert E. Leeであった。連合国は合衆国に敗れ1865年に戦争は終わった。

連合国の彫像を撤去

戦争には敗れたものの、連合国を回想する目的でJefferson DavisやRobert E. Leeの彫像が数多く建立された。一方、人権団体からこれらは人種差別を象徴するとして彫像を撤去する声が高まり、各州や市は撤去作業に向けて動き出した。シャーロッツビル市はRobert E. Lee将軍の彫像 (先頭の写真) を撤去することを表明し、これに反対する白人至上主義団体は彫像を守るために集会を開き、これが惨事につながった。

歴史の解釈は難しい

この衝突を繰り返さないため他の州や市はJefferson DavisやRobert E. Leeの彫像の撤去作業を急いでいる。人種差別を象徴するシンボルは公の場には相応しくないというのがその理由である。一方、識者の中にはアメリカの歴史を後世に伝えるため、暗い事実を葬り去るのではなく過去の教訓として残すべきという意見も少なくない。事実、米国の国会議事堂 (United States Capitol) には50州を象徴する彫像が100体展示されている (下の写真)。ここにはJefferson Davis (ミシシッピー州を代表) とRobert E. Lee (バージニア州を代表) も含まれており、撤去すべきかどうかその取扱いについて議論が続いている。

出典: National Statuary Hall  

白人至上主義者はアイデンティティが揺らぎ活動が減衰するのか

白人至上主義団体や極右団体の活動が活発になっている理由はトランプ大統領のポジションが影響している。トランプ大統領は白人至上主義団体の過激な活動に寛容な態度を見せており、これが活動を暗に支持していると受け止められている。抗議活動には参加しないもののこの動きを支持するグループが存在しこれがトランプ大統領の支持基盤となっている。トランプ政権のもとで極右勢力が広がるのか、それとも白人至上主義者はアイデンティティが揺らぎ活動が減衰するのか、その動きが注目されている。

中国で100万人のDNAを解析するプロジェクトが始まる、遺伝子と病気の関係をAIで解明

中国は世界のDNAシークエンシング工場としてヒトや動物や植物の遺伝子配列を解き明かしてきた。いま中国は遺伝子配列を読み取るだけでなく、その結果をAIで解析しライフサイエンスの分野で世界をリードしようとしている。米国では既にIBMやGoogleが取り組んでいる研究テーマであるが中国はこれを大規模に展開する。

出典: iCarbonX  

遺伝子データをAIで解析

その先端を走るのがShenzhen (中国・深圳) に拠点を置くベンチャー企業iCarbonXだ。馴染みが無い会社であるがiCarbonXは医療データを解析するAIプラットフォームを開発している。iCarbonXは中国において今後五年間で100万人の遺伝子データを収集する計画を明らかにした。収集した遺伝子データをAIで解析し病気や健康に関する様々な知見を得る。解析結果は専用アプリで消費者にフィードバックされ、健康な生活を送るためのアドバイスが示される。

個人データを大規模に低価格で収集

iCarbonXは2015年にJun Wang (上の写真) により創設された。WangはBGI (旧称Beijing Genomics Institute) のCEOの職を辞してiCarbonXを立ち上げた。BGIは世界最大規模のDNAシークエンシングセンターで遺伝子配列解明に寄与してきた。今ではライフサイエンスの先端技術を開発している。米国では既にIBMやGoogleが同様な研究を展開している。しかしiCarbonXは中国においては遺伝子情報を含む個人データを大規模に低価格で収集できると述べている。プライバシー保護に関する規制が緩やかなことがビジネスの優位点となる。

今年最も注目されているベンチャー企業

iCarbonXは今年最も注目されているベンチャー企業で累計で6億ドルの出資を受けている。企業時価総額は10億ドルを超え中国のエリートAI企業として評価されている。投資企業にTencentが含まれており2億ドルを出資している。Tencentは中国最大のソーシャルメディア企業でメッセージングサービス「WeChat」を運用している。TencentがiCarbonXに出資するのは奇異に感じるがその背景にはWeChatなどソーシャルメディアにログされている個人データを活用する狙いがある。個人のソーシャルデータを遺伝子データと組み合わせAIで解析することで分析精度が向上することが期待される。

遺伝子解析の限界

IBMを含む米国のAI企業は遺伝子解析の臨床試験を展開しているが期待していた成果が得られていない。遺伝子変異と病気発症の関係を研究しているが両者の間に強い相関関係を見つけることに苦慮している。つまり、病気を発症する遺伝子変異を突き止められないでいる。このためiCarbonXは従来の手法に加え被験者の生体検査を実施し精度の高い情報を得ることを計画している。

出典: iCarbonX

生体検査とは

具体的にはiCarbonXは被験者の生体検査として血液中のたんぱく質量の変化やメタボリズムを測定し、脳のイメージングデータを使う。またウエアラブルのバイオセンサーで血糖値をモニターする。更に、スマートトイレで尿と便に含まれるバイオマーカーを収集する。これら生体検査データと医療情報と遺伝子情報を組み合わせAIで解析することで健康管理に役立つ情報を抽出する。

専用アプリ「Meum」

iCarbonXのサービスは専用アプリ「Meum」から利用する (上の写真)。消費者はMeumに食事内容やエクササイズに関する情報を入力する。更に、身体情報やバイタルサインを入力する。AIはこれら入力情報と上述の遺伝子情報と生体情報を解析し、アプリは健康や病気に関連する情報を表示する。具体的には食事の内容、就寝時間、必要なエクササイズなど健康な生活を送るためのアドバイスを表示する。

ヘルスケア関連企業七社と提携

iCarbonXはヘルスケア関連企業七社と提携しこれら企業の技術を活用する (下の写真、米国企業を中心に構成されている)。これは「Digital Life Alliance」と呼ばれ医療データを遺伝子解析と結びつけ健康に関する新たな知見を得るための企業連合として機能する。具体的には提携企業は個人の健康や病気の状態を特定する指標を提供する。iCarbonXはこれら指標を活用してビッグデータからノイズを排除し高精度で有益な情報を検知できるシステムを開発する。

出典: iCarbonX  

ライフサイエンス先進国に転身  

Googleのライフサイエンス部門Verilyは健康な人体を定義する「Baseline Project」をスタートし1万人の参加者から個人の身体情報と医療情報を収集する。収集した情報と遺伝子情報をAIで解析し健康な人体を把握する。これに対しiCarbonXは100万人規模で実証実験を展開する。遺伝子配列などデータ量が格段に大きい情報を解析するためにはAIアルゴリズムの教育で大量のデータを必要とする。人口が多く遺伝子情報が使われることに対する抵抗感が柔らかい中国はライフサイエンスで大きく前進することが予想される。中国は世界のDNAシークエンシング工場からライフサイエンス先進国に転身しようとしている。