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トランプ大統領のAIアクションプランで米国AI産業が激変!!OpenAIはGPT-5を連邦政府に無償で提供、モデルをオープンソースとして公開

ホワイトハウスは2025年7月、AI基本政策「AIアクションプラン(AI Action Plan)」を公表し、トランプ大統領は三つの大統領令に署名した。AIアクションプランと大統領令は三つの指針から構成され、AI開発の加速、インフラの整備、技術の標準化で、これを達成するためのアクション項目を規定する。OpenAIはAIアクションプランに沿って新たな事業戦略を相次いで発表した。GPT-5を連邦政府に無償で提供し、モデルをオープンソースとして公開した。米国AI企業はAIアクションプランに準拠するため事業戦略を大きく転換し、トランプ大統領の影響力の甚大さを映し出した。

出典: Generated with OpenAI GPT-5

AIアクションプランと大統領令

AIアクションプランはトランプ政権のAI基本政策を規定したもので、AI技術革新の加速、AI開発のためのインフラ整備、技術の標準化の三つの基軸からなる。トランプ大統領はAI基本政策に関する三つの大統領令に署名し、米国政府の新たなAI政策が起動した。AIアクションプランを制定した背景には中国との技術競争がある。トランプ政権はAI開発を1960年代の宇宙開発競争に例え、米国が勝利しなければならないとしている。

出典: Generated with OpenAI GPT-5 

連邦政府にAI導入を指示

トランプ政権はAIアクションプランで連邦政府に最新のAIモデルを導入することを求めた。AIによりワークフローを自動化し、内部プロセスを効率的に運用し、事務処理を軽減することを目的とする。これを受けて、General Services Administration (GSA)が連邦政府の窓口となり、このプログラムを実行する。GSAは連邦政府の独立機関で物品やサービスの調達など総務の業務を担う。

OpenAIの新戦略

トランプ政権のAIアクションプランに沿って、OpenAIは8月6日、AIモデルを連邦政府に無償で提供することを発表した。OpenAIはGSAと提携し「ChatGPT Enterprise」を来年一年間1ドルで提供する。ChatGPT Enterpriseは企業向けのライセンスで、チャットモードでAIモデルを使うサービスとなる。OpenAIは最新モデル「GPT-5」をリリースしており、連邦政府はこのモデルを無償で使うことができる。OpenAIとしては、フリーミアムのモデルで、無償でChatGPTを導入し、その後、有償モデルに切り替える狙いがある。

出典: Generated with OpenAI GPT-5

AIモデルの安全基準

AIアクションプランは連邦政府がAIモデルを導入する際に守るべき安全基準を規定している。AIモデルが安全基準に準拠していることを条件に導入を認める構造となる。具体的には、AIモデルは「Truth-Seeking(真実を探求)」し、「Ideological Neutrality(イデオロギーに中立)」であることが要件となる。前者は、モデルの出力が正確で事実に基づいており、意図的にミスリードしないことを規定する。後者は、モデルが政治的にまた文化的に特定の方向に偏らないことを求めている。リベラルにバイアスするAIは「Woke AI」と呼ばれ、安全基準は中立なポジションを取ることを求めている。

出典: Generated with OpenAI GPT-5

調達規定の制定

大統領令は連邦政府がAIモデルを購入する際の調達規定「Procurement Rule」を制定することを求めている。調達規定には上述の安全基準が含まれ、また、モデルのセーフティ規格などが設定される。大統領令は行政管理予算局(Office of Management and Budget 、OMB)に対し、具体的な調達規定を120日以内(2025年11月まで)に制定することを求めている。更に、国立標準技術研究所(National Institute of Standards and Technology 、NIST)に対して、モデルの安全性を評価する技法の開発を求めている。これは国家安全保障の観点から、CBRNE(下の写真)やサイバー攻撃に関する危険性評価技法の開発を求めている。

出典: Generated with OpenAI GPT-5 

OpenAIがテストケース

OpenAIがAIアクションプランに沿って連邦政府にAIモデルを提供する最初のケースとなり、業界から注目されている。OpenAIはOMBにより制定される調達規定に従って安全なモデルを納入することが求められる。具体的には、OpenAIは調達規定に従ってAIモデルを検証し、その結果をドキュメントにまとめて提出し、OMBによる評価を受けるプロセスとなる。

規制緩和と安全規格

トランプ政権はAIモデルの安全評価に関する規制を緩和したが、実際には独自のルールに従って安全性を確認する作業が求められる。OMBの調達規定がリリースされるまでは安全評価のプロセスは不明であるが、バイデン政権から制約が大きく緩和されるわけでは無い。AIモデルの出力精度が問われ、CBRNEやサイバー攻撃などモデルの安全性を検証する義務が課される。

オープンソース

AIアクションプランはAI開発企業にモデルをオープンソースとして公開することを求めている。スタートアップ企業やアカデミアはオープンソースを使うことで研究開発を加速する。また、オープンソースは米国の価値を内包するシステムで、これをグローバルに展開することで、”アメリカンAI”の普及を目指す。具体的には、ビジネスや基礎研究における国際標準規格をアメリカの技術で構築し、トランプ政権はグローバルな覇権を握ることを目論んでいる。

OpenAI gpt-oss

これに呼応してOpenAIは8月5日、オープンソースモデル「gpt-oss」を公開した。OpenAIはこれを「Open-Weight Reasoning Model (オープンウェイトの推論モデル)」と呼び、「gpt-oss-120b」と「gpt-oss-20b」の二つのモデルを投入した。オープンソースであるが性能は「o3」レベルで高機能なオープンソースとなる。OpenAIはビジネスモデルを大転換し、クローズドソースとオープンソースのハイブリッドな事業戦略を取る。

出典: OpenAI

トランプ政権のAI規制

OpenAIに続き、GoogleとAnthropicも行政管理予算局のベンダーリストに追加され、AIモデルを連邦政府に供給することが認められた。これら企業はAIモデルを倫理的に運用することを誓約し、また、連邦政府の安全基準に準拠することを確約した。OMBのルールブックが安全審査のガイドラインとなり、これに準拠することが求められる。OMBのルールブックは120日後にリリースされる予定で、これが米国の事実上の安全基準となり、トランプ政権下でAI規制の条件が確定する。

OpenAIは最新モデル「GPT-5」を投入、AGIではなくコスパを極めた先端モデル、コーディングとAIエージェントがキラーアプリ

OpenAI は8月7日、最新モデル「GPT-5」をリリースした。GPT-5は高度な機能を持つAGIではなく、コストパフォーマンスを重視する実用的なモデルとなった。GPT-5は言語モデルと推論モデルが統合され、統合インテリジェンス(Unified Intelligence)を構成する。GPT-5は推論機能が大きく進化し、コーディングとエージェント機能が突出したモデルとなる。コーディング機能は業界トップの性能を持ち、プロンプトだけでソフトウェアを開発でき、GPT-5がオンデマンドでアイディアを製品にする。

出典: OpenAI

GPT-5の概要

GPT-5はOpenAIのフラッグシップモデルで高度な機能を搭載し業界トップの性能を実現した。アーキテクチャの観点からはGPT-5は単一のシステム「Unified System」でプロンプトの内容に応じて最適なモジュールが選択され回答を生成する。具体的には、ChatGPTインターフェイス(ブラウザー)においては、ルーター(Router)が入力されたプロンプトを解析し、「GPT-5」か「GPT-5 Thinking」のモジュールを選択する。前者はチャットモデルで高速で回答を生成し、後者は推論モデルで思考を重ねて回答を生成する。

モデルの選択

実際に、GPT-5を使う際にマニュアルでモデルを選択するオプションが提供されている(下の写真)。ChatGPTの初期画面で「GPT-5」か「GPT-5 Thinking」を選択する。使ってみると、GPT-5はチャットモードで瞬時に回答を生成する。GPT-5 Thinkingは考察を重ね高品質な回答を生成する。GPT-5 Thinkingを標準的に使っているが、使用量に制限があり(200メッセージ/週、Plusユーザ)、上限に達するとGPT-5 Thinkingの小型モデル(Mini)にダウングレードされるので注意を要する。

出典: OpenAI

開発者向けの機能

OpenAIは開発者向けにAPIを公開しており、プログラムからAPI経由でGPT-5の機能を呼び出す。上述のChatGPTのインターフェイスとは異なり、開発者向けには四種類のモデルを提供している。推論モデルがベースで三つのサイズから成り(下の写真)インテリジェンスを提供する。APIはモデルの規模で区分され、標準モデル「gpt-5」から中型モデル「gpt-5-mini」から小型モデル「gpt-5-nano」となる。また、GPT-5チャットモードは「gpt-5-chat」として提供されている。プログラムからこれらのAPIにアクセスしGPT-5の機能を利用する。

出典: OpenAI

パフォーマンス

OpenAIはGPT-5の性能を公表し前世代モデル「GPT-4o」や「o3」から数学や科学やコーディングの性能が大きく向上したことをアピールした。一方、OpenAIはGPT-5と他社製品の比較については発表しておらず、業界での位置づけを掴むことができない。一方、AI解析企業が主要各社のベンチマーク結果を統合して公開している(下のグラフ)。これによるとGPT-5はxAI Grok 4を抜いてトップの成績となった。これに、Google Gemini 2.5 ProとAlibaba Qwen 3が追随する構図となる。

出典: Artificial Analysis

コスト

OpenAIはGPT-5の利用価格を低く設定し業界を驚かせた。GPT-5は業界でトップの性能を持つが、価格は極めて低く設定され(下の写真、API使用料金、100万トークン当たりの価格)、コストパフォーマンスを重視した製品となった。コーディング機能においてはAnthropic Claude 4.1が対抗機種となるが、GPT-5の価格はこのモデルの1/10に設定されている。

出典: OpenAI

コーディング

OpenAIは発表イベントにおいて、GPT-5は極めて高度なコーディング機能を持つことをデモで実演した。GPT-5にメールアプリを制作するよう指示すると、AIがプログラミングを実行し、メールアプリを開発した。プロンプトでメールアプリのワイヤーフレーム(下の写真)を入力し、「このデザインに従ってメールアプリを開発」と指示すると、GPT-5はコーディングを開始した。

出典: OpenAI

ソフトウェア・オンデマンド

ここでは、一番人気のAI開発環境「Cursor」が使われ、この背後でGPT-5がプログラミングを実行した。上述のプロンプトの指示に従って、メールアプリが生成された(下の写真)。GPT-5はシンプルなモデルだけでなく、フロントエンドとバックエンドにまたがる、複雑なプログラムを生成することができることが示された。GPT-5は言葉だけでアプリを生成することができ、Sam Altmanはこの手法を「Software on Demand(ソフトウェア・オンデマンド)」と命名した。

出典: OpenAI

エージェント

GPT-5はエージェント機能が拡張されベンチマークで高い性能を示した。エージェント機能においては、インストラクションに従う機能やツールを使う機能が格段に向上した。OpenAIはエージェントモデル「GPT Agent」をリリースし利用が広がっている。また、スタートアップ企業はGPT-5をエージェントのエンジンとして採用し高度なモデルを開発している。(下の写真、AIエージェントのトップ企業Manusの事例、背後でGPT-5が稼働している)

出典: Manus

進化を感じにくい製品

GPT-5はコーディングやエージェントの機能が格段に進化しこれらの製品のエンジンとして利用が急拡大している。また、GPT-5はバイオサイエンスやファイナンスにおけるバックボーンとなり新薬開発などで活躍が期待される。GPT-5はPhDクラスのインテリジェンスを持ち、研究者やエンジニアにとって同僚のような存在となる。しかし、一般消費者はコーディングやバイオサイエンスの研究とは縁遠く、GPT-5に大きなメリットを感じることができないことも事実である。GPT-5は産業向けAIシステムとしての色彩が濃厚になり、一般消費者から遠ざかりつつある。

OpenAIのAIエージェント「ChatGPT Agent」は一般社員レベルのスキルを持つ!!LAオリンピックの旅行計画を指示すると結果をスライドに纏めて報告

OpenAI は7月17日、高度なAIエージェント「ChatGPT Agent」をリリースした。AIエージェントはツールを使う機能と高度な推論機能を搭載し、人間に代わり複雑なタスクを実行する。会社においては、企業の財務分析を実行し、その結果をエクセルシートに纏めて報告する。実際に使ってみると、ChatGPT Agentは汎用性が高く使いやすいインターフェイスとなっている。LAオリンピックの旅行計画の立案を指示すると、ChatGPT Agentは関連情報を収集し、その結果をパワーポイントのスライドに纏めて報告した。今年はAIエージェントの技術が格段に進化し、ついに人間のレベルに到達した。

出典: Generated with OpenAI DALL·E

ChatGPT Agentの概要

市場で多くのAIエージェントが開発されているが、ChatGPT Agentは最も高機能なモデルとなる。複数の機能を統合した構成で、指示されたタスクを実行するために、ウェブサイトを閲覧する。高度な推論機能を持ち、収集したコンテンツを解析し、分析結果を報告する。企業の事務職のような存在で、エントリレベルの仕事を自律的に実行する。

システム構成

ChatGPT Agentは、言語機能「ChatGPT」と推論機能「Deep Search」とツールを使う機能「Operator」が融合したモデルとなる。推論機能「Deep Search」は人気の機能であるが、ウェブサービスにアクセスすることができず、活動範囲が限定されていた。これに、ツールを使う機能「Operator」を融合することで、汎用性の高いAIエージェントが生まれた。

ChatGPTを使ってみると

ChatGPT AgentはChatGPTにAIエージェント機能が付加された形で、初期画面で「Agent」のボタンをオンにして使う(下の写真、最下部)。タスクをプロンプトとして入力し、AIエージェントに仕事の内容を指示する。タスクが起動すると仮想マシンのモニターが表示され、AIエージェントの仕事のステップを見ることができる(下の写真、青枠の部分)。ここでは「LAオリンピックの旅行計画書の立案」を指示した事例で、AIエージェントがオリンピック公式サイトなどにアクセスし、その内容を読んでいることが分かる。

出典: VentureClef

報告書の作成

ChatGPT Agentは指示されたタスクを実行し、処理が完了するとスマホアプリにその旨を通知する。このケースでは完了までに1時間を要し、その結果をブラウザーに表示した。処理結果をパワーポイントに纏めて報告するよう指示したので、LAオリンピックの旅行計画をスライド形式で表示した(下の写真)。グラフィックスやグラフなどを含めビジュアルな報告書となった。

出典: VentureClef

報告書を読むと

ChatGPT AgentはLAオリンピック旅行計画書を8ページのスライドに纏めて報告した。プロンプトで「日本チームがメダルを獲得する試合を中心にプランを作成」と指示したので、野球やゴルフやスケートボードなどを中心に日程が組まれた。また、ホテルの推奨や移動手段に関するアドバイスを求めたので、AIエージェントは「LA市内では交通渋滞が予想され、レンタカーではなく公共交通機関を利用するよう」回答した。この報告書は旅行計画の枠組みとして使うことができ、これをベースに最終スケジュールを纏め、フライトやホテルやオリンピックのチケットを予約する手順となる。(下の写真、報告書の纏めのページ、試合や移動手段に関する推奨)

出典: VentureClef

企業における利用形態:データサイエンス

ChatGPT Agentは企業におけるデータ解析で高い能力を発揮する。ChatGPT Agentは企業の財務分析を実行し、その結果をエクセルシートに纏めて報告する。実際に、ChatGPT Agentにサンフランシスコ市の5年間の財務状況を分析するよう指示すると、AIエージェントは市が公開している様々なドキュメントを探し出し、これらの情報を解析する。実行過程はChatGPT Agentの仮想コンピュータの中で実行され、利用者はAIエージェントの作業進捗状況を把握できる。(下の写真、青色のボックス)

出典: OpenAI

解析結果をスプレッドシートに纏める

ChatGPT Agentは長時間、自律的に稼働し、利用者はタスクを指示した後は、パソコンから離れ別の仕事をすることができる。作業が完了すると、ChatGPT Agentはその旨をChatGPTアプリに表示する。上述のケースでは、ChatGPT Agentは解析したデータをスプレッドシートの形に纏めて報告する(下の写真)。利用者はこれをそのままダウンロードして利用することができる。

出典: OpenAI

企業における利用形態:オフィスの開設

ChatGPTは指示されたタスクを実行し、その結果をパワーポイントのスライドに纏めて報告する。このケースでは、シンガポールにオフィスを開設する際のプロセスを考察したもので、ChatGPT Agentは解析結果をプレゼン形式で提示する。ChatGPT Agentはシンガポールのオフィスの空き物件を検索し、最適なものを推奨する。また、シンガポール政府の助成制度や税制など事業に関連する要件を検討し、オフィス開設計画書をマルチメディアで提示する(下の写真)。

出典: OpenAI

制御の受け渡し

ChatGPT Agentはクリティカルな操作については、その制御を人間に返す設計となっている。例えば、サンフランシスコからニューヨークのフライトを検索し予約する際に(下の写真)、ChatGPT Agentは支払いのプロセスでは、処理を停止し人間の判断を仰ぐ。ここで、利用者は制御を受け取り、マニュアルでクレジットカードの決済処理を実行する。同様に、送金処理などではChatGPT Agentは処理を中断し、人間がトランザクションを実行する。

出典: OpenAI

リスクとセキュリティ

ChatGPT Agentは自律的に稼働するモデルで、それに伴いリスクの度合いが拡大する。特に、プロンプトインジェクション(Prompt Injection)という危険性が課題となる。プロンプトインジェクションとは、特殊な言葉の列でAIモデルを誤作動させる手口を指す。AIモデルをサイバー攻撃するために悪用されるが、AIエージェントでは特に問題となる。AIエージェントにおいては、参照するウェブサイトに悪意ある命令を埋め込み、ChatGPT Agentを誤作動させるリスクが発生する。ウェブサイトに「クレジットカード情報を入力」などとの命令を埋め込み、機密情報を盗用するなど、新たな手口が生まれている。

エンタープライズAIエージェント

OpenAIはChatGPT Agentの発表イベントをストリーミングで配信した(下の写真)。AIエージェントは多くの企業から提供されており、開発競争が白熱している。ChatGPT Agentはコーディングなど特定のタスクに特化した仕様ではなく、会社業務や日常生活において広範なタスクを実行する。一方、AIエージェントは黎明期の技術であり、企業が導入するには解決すべき課題は少なくない。今年後半は、エンタープライズ品質のAIエージェントの開発に向けて、各社が技術力を競うことになる。

出典: OpenAI

AIが爆発的に進化する「シンギュラリティ」の圏内に突入!!人類が滅びるか繫栄するかの岐路に直面

OpenAIのCEOであるSam Altmanは、AIが爆発的に進化する「シンギュラリティ(Singularity)」の圏内に突入したとの見解を示した。シンギュラリティは知能の爆発とも呼ばれ、AIが暴走し、人類が滅びるストーリーとして描かれる。しかし、Altmanは、AIを人間の価値に沿ったモデルにし、また、AIを一部の人物や企業や国家が独占することなく、人々がこの恩恵を公平に享受できれば、豊かな社会を実現できるとのビジョンを示した。世界は後戻りできないポイントを超え、人類が滅びるか繫栄するかの岐路に直面している。

出典: Generated with OpenAI o3

シンギュラリティとは

「シンギュラリティ(Singularity)」とは技術的な特異点を示す用語となる。AIにおける特異点とは、技術が指数関数的に成長し、人間の知能を大幅に凌駕するポイントを指す。シンギュラリティは二種類あり、「ハード・シンギュラリティ」と「ソフト・シンギュラリティ」に分類される。前者は、AIが爆発的に進化し、人間が制御することができず、AIが暴走する社会となる。これは「知能の爆発」とも呼ばれ、SF映画で描かれるシナリオとなる。一方、後者は、AIの技術は急速に進化するが、人間がAIを制御する技術を開発することで、AIの恩恵を享受できる社会が生まれるとのシナリオとなる(下の写真、ソフト・シンギュラリティのイメージ)。

出典: Generated with OpenAI o3

穏やかなシンギュラリティ

OpenAIのCEOであるSam AltmanはAIに関するビジョンを発表し、社会は既にソフト・シンギュラリティの圏内に入っているとの見解を示した。Altmanはソフト・シンギュラリティを「穏やかなシンギュラリティ(Gentle Singularity)」と表現し、AIの恩恵を享受できる豊かな社会が生まれると予測する。世界はイベントホライゾン(Event Horizon)を超え、もう後戻りはできず、シンギュラリティに向かって進んでいる。(イベントホライゾンとはブラックホールで使われる用語で、重力が大きく光でも脱出することができない領域を指す。)

シンギュラリティのロードマップ

Altmanはシンギュラリティに向かったロードマップを示し、AIが生み出す新しい社会観を解説した。

  • 2025年:エージェントが人間に代わり仕事やタスクを実行する。例えば、エージェントがエンジニアに代わりプログラムを開発する。
  • 2026年:AIが科学技術において新たな論理を生み出す。現行のAIは人間が生み出した論理をベースに新技術を生み出すが、新世代のAIは人間に代わり新しい論理を生み出す。
  • 2027年:ロボティックスが急進しロボットがロボットを製造する(下の写真)。ハードウェア開発でもシンギュラリティが生まれる。
  • 2030年代:知能とエネルギーが無尽蔵な社会となる。AIのコストが劇的に下がり、電気料金程度となり、知能を豊富に使うことができる。
出典: Generated with OpenAI o3

科学技術の進化が加速

既にAIにより大きな恩恵を享受しているが、これからAIにより重大な発見が相次ぎ、社会が大きく変化する。今はAIを医療技術に応用し、メディカルイメージングをAIで解析することで、がんを高精度に検知する。これからは、AIで医療技術の開発期間が劇的に短縮され、がん治療薬が登場する。また、現在はAIがエンジニアに代わりプログラミングを実行するが、これからはAIがソフトウェア全体を開発し、AIが会社を設立しそれを運用する時代となる。

社会へのインパクト

高度なAIにより技術が急進し、社会に多大な恩恵をもたらすが、社会構造は大きく変わる。AIが人間に代わり仕事をするため、殆どの職がAIで置き換わることになる。一部の職種がAIに奪われるのではなく、殆どの職が無くなる。しかし、シンギュラリティ時代には新たな職種が生まれ、仕事に関する価値観が大きく変わる。社会や経済の変化は急で、人々はこれを理解し、新しい環境に適用できるまでには時間を要す。産業革命など、過去の事例が示すように、人々は長い年月を経て新し環境に適用していく。

新時代のAIに求めらること

AIが社会に恩恵をもたらすことを担保するためには、技術面と政策面で新たなメカニズムが求められる。技術面では「アラインメント(Alignment)」で、AIが人間の価値に沿って稼働するための技術の開発が求められる。高度なインテリジェンスを制御する技法の研究開発が重要なテーマとなる。政策面では、AIの恩恵が一部の人物や会社や国家に集中することなく、人々がこれを享受するための政策や枠組みが必要となる。

2035年の社会像

高度なインテリジェンスにより社会が大きく変わり、Altmanは2035年までに達成される技術を予測している。一つは、高エネルギー物理学の急速な進展で、核融合発電が現実のものとなる。これにより、クリーンなエネルギーが大量に生成され、地球温暖化の抑止に大きく貢献する。また、インプラントにより人間の頭脳がエンハンスされる。インプラントでは脳にチップを埋め込むが、物性物理学のブレークスルーで、大量のデータを送受信できるようになる。(下の写真、2030年代には人類が他の惑星への移住を始める。)

出典: Generated with OpenAI o3

シンギュラリティの議論

Altmanは、AIが爆発的に進化するシンギュラリティに突入したが、AIが人類を滅ぼすのではなく、知識とエネルギーが無尽蔵な豊かな社会が生み出されるとの見方を示した。市場では様々な意見があり、Altmanの予測はOpenAIのマーケティング戦略であるとの反応も少なくない。また、懐疑派は現行の技法を拡張してもシンギュラリティに到達できないとの考え方を示している。「穏やかなシンギュラリティ」を生み出せるのか、市場で議論が白熱している。

アメリカ政府のAI政策が規制強化から開発促進に大転換!!OpenAIは一転してAIの規制緩和を求める、連邦議会は特区を設立しAI開発を後押し

アメリカ議会上院は公聴会を開催し、AI政策に関しOpenAI、AMD、Microsoftなどから意見を聴取した。公聴会の目的は、アメリカがAI開発で勝利するための政策の立案で、規制緩和、技術革新、中国との競争などで意見が交わされた。トランプ政権となり、アメリカ政府はAIの規制から推進に政策を一転した。OpenAIは、前政権では規制強化を求めたが、公聴会では一転して、規制緩和を主張した。連邦議会は開発特区(サンドボックス)を設立し、ここでAIをフリーハンドで開発させる構想を明らかにした。

出典: National Park Service

公聴会の概要

アメリカ連邦議会上院は、AI競争で勝利することをテーマ「Winning the AI Race: Strengthening U.S. Capabilities in Computing and Innovation」に公聴会を開催し、主要企業から意見を聴取した。公聴会には、OpenAIのSam Altmanなどが出席し意見を陳述した(下の写真)。AltmanはAI開発の規制を緩やかにすることを求めた。また、トランプ政権期間中に人間の知能を超えるAIモデルAGI(Artificial General Intelligence )が生まれるとの見通しを示した。公聴会の委員長であるTed Cruz上院議員は、新たなAI法案「AI Regulatory Sandbox」の構想を明らかにした。

出典: U.S. Senate Committee on Commerce, Science, and Transportation

単一の緩やかな規制

Altmanは連邦政府が全米をカバーする法令を制定し、緩やかなAI規制を実施することを求めた。現在は、全米50州が異なるAI規制法を制定し、開発企業はこの複雑な規則に準拠することを求められている。Altmanは、AI製品を出荷する前に安全検査を義務付けている現行法式は、企業の大きな負担となるとして、緩やかな規制を求めた。ただし、規制の内容については回答を控えた。

移民によるAI人材の確保

AltmanはAI研究者やエンジニアの採用を容易にするための政策を求めた。アメリカが科学技術で世界のリーダーとなっている大きな要因は移民政策にある。優秀な研究者やエンジニアがアメリカに移民し、ハイテク産業の基盤を支えている。AIにおいては、研究者やエンジニアがビザを取得するプロセスを簡素化することを要求した。

スケーリングとAGIの登場

Altmanはスケーリングの法則は継続しており、AIモデルのインテリジェンスは幾何級数的に向上しているとの見解を示した。AIモデルの教育プロセスにおけるスケーリングは緩やかになったが、インファレンスのプロセスでは実行時間を長くすると性能が向上している。また、AIモデルで特定の性能に到達するためのコストは1年ごとに1/10となり、インテリジェンスの価格が低下している。更に、AIモデルが人間レベルの知能に達成するための開発期間は急速に短くなっており、Altmanはトランプ政権期間内に「AGI」が登場するとの見解を示した。

製品出荷ロードマップ

AltmanはOpenAIの製品開発ロードマップを示し、今後3年以内にAIモデルで大きな技術進化があると述べた。OpenAIの製品リリース計画は:

  • 2025年:AIエージェント、実社会の複雑なタスクを処理するモデル、病院における予約業務など
  • 2026年:科学分野でブレークスルー、気候変動や医療などの分野でAIモデルの活躍が期待される
  • 2027年:ロボティックス、AIモデルを搭載したロボットの登場、工場など実社会で生産性が向上する

米国技術を世界に拡散させる

MicrosoftのBrad Smith社長はアメリカがAI競争で勝つためにはAIのイノベーションとエコシステムの両方が必要であるとの考え方を示した(下の写真)。エコシステムとは、インフラ、プラットフォーム、アプリから構成されるAIシステムの全体モデルを示す。AI競争を優位に展開するためには、これらをアメリカの技術で提供する必要がある。特に、アプリのレイヤーでは、AIモデルが世界各国に拡散(Diffusion)すること必須で、多くの人に利用されることで、最終的な勝利者となる。このために、政府は過度な輸出規制を導入するのではなく、最小の規制で製品拡散を後押しすべきとの見解を示した。

出典: U.S. Senate Committee on Commerce, Science, and Transportation

アメリカ連邦議会の構想

公聴会で委員長のTed Cruz上院議員はAI規制法に関する構想を明らかにした(下の写真)。この法案は「AI Regulatory Sandbox」と呼ばれ、AI開発における規制を最小限に留め、技術革新を後押しする構造となる。AI開発を推進するための特別地区「サンドボックス(Sandbox)」を制定し、企業はここで製品を最小の制限の元で開発する。サンドボックスは法令に関する特別なエリアで、企業は政府機関(連邦取引委員会や司法省など)から法的な責任を問われることなく、自由にAI開発を進める。これはインターネットが登場した当初のアメリカ政府の政策を模したもので、黎明期のAI技術の開発を民間企業や個人が自由に進められる環境を提供する。

出典: U.S. Senate Committee on Commerce, Science, and Transportation

公聴会を聴くと

公聴会はOpenAIがAI政策を大転換した場となった。2023年に開催された公聴会では、Altmanは政府が厳格なルールを設定し、AIを安全に開発する政策を提言した。今回の公聴会では一転して、ライトタッチ(Light-Touch)な規制を導入することを提言した。企業が幅広い自由度を持ち、技術革新を優先できる環境の整備を求めた。同時に、DeepSeekなど中国企業がAI技術を急速に伸ばしており、連邦議会は米国企業に開発のペースを速めることを迫っている。民間企業と連邦政府はAI競争で勝利することを共通の目標としており、アメリカはAIを規制する政策から、開発を促進する方向に進み始めた。