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在宅勤務の働きぶりを上司に代わりAIが監視、アルゴリズムに評価される時代が始まる

シリコンバレーで在宅勤務が定常化し、多くの社員はテレワークで仕事を進めている。企業は初めての経験である在宅勤務において、社員の仕事ぶりを把握することに苦慮している。このため、企業は在宅勤務評価ツールに着目し導入を始めた。特に、AIが管理職に代わり社員を評価する手法が注目されている。仕事の成果を公平に評価できると期待されるが、社員はAIに監視されることになる。

出典: Enaible

スタートアップが開発

このシステムを開発したのはEnaibleというスタートアップで、在宅勤務社員の生産性をAIで解析する。これは「AI-Powered Leadership」と呼ばれ、管理職向けのツールで、仕事の成果を人間に代わりAIが評価する(上の写真、左側)。また、社員の仕事ぶりに問題があれば、AIがこれを把握し、解決方法を提示する(上の写真、右側)。管理職はAIのアドバイスに沿って社員の生産性を上げる。

仕事の評価基準

AIは社員の仕事ぶりを解析し、その結果をスコアー「Productivity Scoring」で示す。スコアは三つの要素で構成され、社員は持てる能力を十分に発揮しているか(Capacity Utilization)、異なる仕事を満遍なくこなせるか(Consistence)、及び、他の社員にプラスに影響しているか(Quality Impact)が評価される(下の写真)。

出典: Enaible

問題点に対するアドバイス

AIは社員の生産性が低下していれば、仕事の進め方をアドバイスする。これは「Leadership Recommender」と呼ばれ、ワークフローの中のどのポイントで問題が発生しているかを掴み、仕事の効率を上げるためのアクションを示す。例えば、コールセンター業務で、AIは「Aさんは残業が多いが、これは朝の仕事で効率が上がっていないため」と分析する。管理職はAIの提言を受け、社員と会話して仕事の取り掛かりの効率を上げるように助言する。

AIの評価を活用する方法

管理職はAIが査定した社員の生産性スコアをみてチーム全体の仕事ぶりを把握する。生産性が高い社員にはそれに見合った報酬を出し、一方、生産性が下がった社員にはアドバイスをする。企業側としては生産性の高い社員を判別し雇用を続ける努力をするが、生産性が上がらない社員はレイオフの対象となる。生産性スコアが評価の基礎データとなり、個人の感情ではなく科学的な根拠で人事管理をすることができる。

導入事例

Enaibleによるとドバイ税関Dubai Customs Agencyとマーケティング企業Omnicom Media Groupがこのシステムを導入している。また、デルタ航空とヘルスケア企業CVS Healthがシステムの導入を検討している。Enaibleは2018年に創業した会社であるが、コロナの影響で在宅勤務が広がり、評価ツールへの需要が急増している。

AIに監視される社会に

在宅勤務で顔が見えない社員を如何に評価するかが課題になっているが、AIがその解として注目されている。一方、社員は自宅においてAIに常時監視されている状態となり、精神的なプレッシャーを感じる。また、個人の行動がAIにモニターされ、プライバシー保護の観点からも倫理的な問題がある。更に、機械学習の手法で社員の生産性を判定する際に、アルゴリズムのバイアスの問題も浮上する。社員の給与はAIの評価で決まり、企業はアルゴリズムが公平であることを説明する必要がある。

出典: ViewSonic

ツールなしで在宅勤務を運用できない

Enaibleはこれらの懸念に対して、ツールは社員を監視するものではなく、企業の人事管理ツールであると説明する。社員の行動をトラックするのではなく、成果だけを構成に評価するもので、在宅勤務体系を運用するには必須のツールとなる。いま、企業が再開し社員がオフィスに戻ってきているが、AI監視ツールはそのまま残るとの意見も聞かれる。オフィス勤務となってもAIが社員の仕事ぶりを評価することになり、人事制度そのものが大きく変わろうとしている。

【補足情報】

実装方法

Enaibleは社員が仕事の際に生成する大量のデータを解析して生産性を評価する。具体的には、社員が使っているツールのタイムスタンプをアルゴリズムが解析する。対象となるツールはメールの他に、Zoom、Slack、ブラウザーなど。Enaibleはクライアントのバックグランドで稼働し、社員がこれらのツールを使って仕事をした際に生成されるデータを解析する。

機械学習

Enaibleは収集したデータを機械学習アルゴリズム「Trigger-Task-Time」で解析する。これは各社員のワークフローを学習するメカニズムで、何がトリガーとなり、どのタスクを実行し、その作業時間を理解する。これでEnaibleは社員の仕事のスタイルを理解し、その社員の生産性スコア(Productivity Score)を算出する。

バラ色ではないシリコンバレーの在宅勤務、地方都市に移住すると給与が減る

米国で都市閉鎖が解除され経済活動が徐々に再開しているが、コロナと共棲するために、企業は在宅勤務を取り入れた企業戦略を策定している。多くの企業はオフィス勤務と在宅勤務を併用したハイブリッド勤務を導入している。また、企業は在宅勤務に最適なポジションを新設し、幅広く人材を募っている。在宅勤務がコロナ社会を生き抜くカギとなるが、企業の狙いは人材採用やオフィス費用削減にある。

出典: Facebook

Facebookの在宅勤務

シリコンバレーのIT企業は他社に先駆けて在宅勤務を採用した。Facebookの社員は在宅勤務を続けているが、CEOのZuckerbergはこれを正式な勤務形態とすると発表した。また、今後5 年から10 年のレンジで、社員の半数が在宅勤務となるとの見通しを示した。社員はオフィス勤務か在宅勤務かを選択でき、来年1 月までにこれを会社に通知する。

地方に移住すると給与が減る

在宅勤務を希望する社員は審査を受け、基準に沿っていると判断されるとこれが認められる。社員はシリコンバレーに住む必要はなく、他の地域に引っ越すこともできる。生活費の高いシリコンバレーから、郊外のサクラメントなどに引っ越しすることもできる。ただし、給与は当地の物価により調整され、郊外に引っ越しすると実質的に給与減額となる。

狙いは地方の人材採用

Facebookは今後の人材採用計画について明らかにした。在宅勤務を導入することで、シリコンバレーだけでなく、全米の主要都市で優秀な人材を採用できる。当面は、本社オフィスの近郊(クルマで4時間以内)で在宅勤務ができるエンジニアを採用する。次に、アトランタ、ダラス、デンバーで在宅勤務エンジニアを採用し、最終的には、カナダを含め全米の都市で採用を進める。つまり、Facebookは北米全域で優秀なエンジニアを雇い入れることを目論んでいる。更に、本社オフィススペースを縮小でき、Facebookは本社キャンパス増築計画を見直すとしている(先頭の写真、増築された本社ビル「MPK21」)。

Facebookの在宅勤務ツール

Facebookは在宅勤務が広がる中、新しいコミュニケーションツール「Workplace」を発表した。これは社員間でコラボレーションするためのツールで、共同の作業スペース「Group」、チャット「Chat」、ビデオ会議「Rooms」(下の写真)などから構成される。RoomsがZoomに相当する機能で、Workplace全体はSlackの対抗製品として位置付けられる。今月からサービスが開始され企業で導入が始まった。

出典: Facebook

社員全員が在宅勤務

コロナのパンデミック以前から在宅勤務を取り入れている企業は少なくない。その中で、Automatticは社員全員が在宅勤務をしている。Automatticはサンフランシスコに拠点を置く企業でブログソフトウェア「Wordpress」を開発している。世界75か国で1200人の社員がいるが、全員が在宅勤務をしている。オープンソース・ソフトウェアをベースにした製品を開発しており、社員は遠隔でコラボレーションし、プロジェクトがうまく進んでいる。(Automatticは数年前まで、サンフランシスコにオフィスを構えていた(下の写真)。社員は出社勤務か在宅勤務を選択できたが、出社する社員はわずかで、Automatticはオフィスを閉鎖した。)

人間関係が仕事のベース

しかし、Automatticはチームワークや社員同士の交流を重視しており、定期的に社員が集うイベントを開催し、チームスピリットを育んでいる。在宅勤務で仕事は進むが、そのベースは人間同士の信頼感や親近感である。顔を合わせたことのない社員と円滑に仕事を進めるのは難しく、このような場が必要になる。因みに、Automatticは世界のウェブサイトの35%で使われており、企業価値は30億ドルのユニコーンに成長している。

出典: Medium  

社員の反応

市場調査などによると、社員はオフィス勤務に戻りたい人と、そのまま在宅勤務を続けたい人に分かれる。在宅勤務を続けたい理由は、ワークライフ・バランスで、通勤時間がゼロとなり、家族と過ごす時間を持つことができる。また、上司や同僚との人間関係を気にしないで仕事をできストレスがたまらないという声も聞かれる。一方、オフィス勤務に戻りたい社員は、他の社員とのコミュニケーションや交流を求めている。また、クールなオフィス環境で働けることや、無料の食事やスナックなどがあることも魅力となる。更に、在宅勤務だと目立たなくなり、出世に影響することを心配する声も聞かれる。若い社員は出社勤務を望み、45歳以上の社員が在宅勤務を希望するとの調査結果もある。

在宅勤務に適した職種

多くの企業が在宅勤務専用のポジションを新設しているが、これを見るとテレワークに向いているのとそうでない仕事がある。在宅勤務に向いている職種としては、医療、情報通信、顧客サポートなどで、これらのポジションで募集枠が広がっている。ソフトウェアエンジニアはこのカテゴリーとなり、IT企業で在宅勤務が広がることを裏付けている。また、コロナの後で需要が増えた職種は教育関連で、学校がオンライン授業に移り、在宅勤務のインストラクターやアシスタントが求められている。

Googleは在宅勤務に慎重

多くの企業が遠隔勤務に移る中、Googleは慎重な姿勢を見せている。Googleは今月からオフィスを再開し、全体の10%程度の社員が職場に戻ってくる。ソーシャルディスタンシングをキープしながら仕事を再開するが、遠隔勤務は緊急措置であり、その延長は計画されていない。Googleは在宅勤務で生産性が上がるとは考えていない。クリエイティブな仕事は人間同士のインタラクションで生まれるとし、遠隔勤務でイノベーションを生むのは難しいと考える。今後、Googleは在宅勤務で生産性が上がり、問題を解決できるのか、データサイエンスの手法で検証するとしている。

出典: Google

新しい企業戦略

やはり、在宅勤務では社員の仕事をどのように評価するかが最大の課題となる。仕事の定義であるJob Descriptionを明確にし、仕事の成果を公平に評価する指標が必要になる。一方、在宅勤務が広がる中、それを支援するテクノロジーの開発も進んでいる。上司に代わりAIが社員の生産性を評価する方式も登場している。社員にとって在宅勤務というオプションは必ずしもバラ色ではないが、シリコンバレーの企業は新しい会社戦略を模索している。

米国の新型コロナワクチン開発戦略、ハイリスクな技術で2021年1月までに十分な供給量を確保

都市閉鎖を解除して元の生活に戻るためには新型コロナウイルスのワクチンが必須条件となる。世界各国でワクチンが開発されており、その数は130を超える。通常、ワクチン開発には長い年月を要すが、米国政府はこれを大きく短縮する作戦「Operation Warp Speed」を発表した。連邦政府は100億ドルの予算を組み、民間企業に資金を供給し開発を加速させる。

出典: CNN

Operation Warp Speedとは

トランプ政権は2020年5月、Operation Warp Speedを発表した。これはワクチン開発と量産体制を同時に進めるもので、開発されているワクチンの安全性と有効性の目途がついた時点で、ワクチンを製造し、提供時期を早めるというもの。複数のワクチンを対象に、臨床試験の最終結果が出る前に、先行して製造し、配布ロジスティックスを準備する。このため、ワクチン開発に失敗すると、先行投資した製造施設や作り置きしたワクチンは無駄となる。

開発中のワクチン

WHOは世界で開発されているワクチンを集約しウェブサイトで公開している。ここに開発中のワクチン情報が集約され、全体像を把握することができる。これによると130種類のワクチンが開発されており、その中で10種類が臨床試験の段階に進んでいる(下のテーブル、臨床試験に進んだワクチン)。

出典: WHO

米国政府が出資しているワクチン

Operation Warp Speedはこの中で有望なワクチンを開発している会社に資金を提供し、開発のプロセスを加速している。実際に、ワクチン開発プロジェクト5社に出資しており(下の写真)、その中で臨床試験に進んでいるのはModernaとAstraZenecaの2社となる。これら二社が本命で、米国のパンデミックを抑止する切り札と期待されるが、ワクチン開発が成功するかどうかは予断を許さない。

本命のワクチン

Modernaは米国企業でワクチン「mRNA-1273」を開発しており、4億3000万ドルの出資を受けている。Modernaは革新的なアプローチで、ウイルスのmRNA(Messenger RNA)を投与し、体内でウイルスを生成する手法を取る。また、英国製薬大手AstraZenecaはオックスフォード大学と共同で「ChAdOx1」というワクチンを開発しており、12億ドルの出資を受けている。オックスフォード大学は遺伝子情報からウイルスを生成し、これをワクチンとして使う手法を取る。

出典: U.S. Department of Health & Human Services

ワクチン開発で連邦政府の役割

ワクチン開発では米国保健福祉省配下のBiomedical Advanced Research and Development Authority (BARDA)が製薬会社に資金を提供しワクチン開発を支援する。BARDAはバイオテロや感染症パンデミックなどの緊急事態に対応するために、医療品を短期間で開発し、これを備蓄することをミッションとする。新型コロナウイルスのパンデミックがこのケースに当たり、ワクチンや治療薬などの開発や製造を加速するために民間企業を支援している。

Modernaの開発状況

Modernaは世界で最初に臨床試験を始めた会社で、現在は第Ⅱ相で、来月から第Ⅲ相に進む。Modernaはアメリカ国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)と共同で開発を進めており、Anthony Fauci所長は2020年11月から12月ころに1億ドースのワクチンを製造するとしている。臨床試験の結果を待たず先行して作り置きしておき、その頃までにはワクチンの有効性が判明する。もし、臨床試験をクリアできなかったら、作り置きしておいたワクチンは廃棄処分となる。

AstraZenecaの開発状況

BARDAは、英国企業AstraZenecaに最大12億ドル出資し、開発を支援するが、その見返りとして2020年10月までに3億ドースのワクチンの供給を受けると発表した。AstraZenecaチームの臨床試験は続いており、ワクチンは事前に作り置きしておくが、治験をクリアするとワクチンを接種できる。一方、開発に失敗するとワクチンは廃棄される。Operation Warp Speedはワクチンを選定する基準やワクチン評価に関する情報を公開しておらず、なぜけた違いに大きい資金を出資するのかについては明らかにされていない。

中国のワクチン開発状況

BARDAは世界の有望なワクチン開発プロジェクトに出資しているが、中国とは提携していない。中国ではCanSino BiologicsやWuhan Institute of Biologicalなど四団体がすでに臨床試験を進めている。その中で先頭を走るのがCanSino Biologicsで、治験第Ⅱ相に進んでおり、被験者の体内で抗体が生成されたと報告している(下の写真、CanSino Biologicsが開発したワクチン)。カナダ首相Justin Trudeauは、カナダの研究機関で治験が実施されることを明らかにしており、開発が成功するとCanSino Biologicsからワクチンの供給を受ける。

出典: CanSinoBIO

ワクチンの成功確率は

Operation Warp Speedはワクチン出荷時期について楽観的な見通しを示し、経済復興は意外に早いとの解釈もある。しかし、Anthony Fauci博士は、議会公聴会の中で、ワクチンが成功するかどうか予想は難しいとの見解を示している。多くのワクチンを並列で開発し、その中のどれかが成功するとの見通しを示している。

米国政府は8社に賭ける

Operation Warp Speedは8社程度に出資する予定で、この中のどれかが成功するとみている。事実、ワクチンの治験を始めて第Ⅲ相をクリアする確率は16%程度との統計情報もあり、多くのプロジェクトにベットしておく必要がある。専門家の間では、2021年初頭までにワクチンを提供するのは難しいとの意見が多い。先行してワクチンは製造されるが、臨床試験でそれまでにワクチンの有効性を証明するのが難しい。Fauci博士はワクチン開発には12か月から18か月必要との見方を維持しており、このシナリオで進むと、ワクチン接種は来年後半ごろから始まる。つまり、このタイミングで市民生活や経済活動が戻ることになる。

【ワクチンの原理と種類】

ワクチンの仕組み

ワクチンは病原体(Pathogen)から作られた抗原(Antigen)から成り、これを体内に投与し、病原体に対する抗体(Antibody)を生成し、感染症に対する免疫を得る(下のグラフィックス)。具体的には、人体の細胞(Antigen Presenting Cells)がウイルスを取り込み、ヘルパーT細胞(T-Helper Cells)を活性化する。これによりB細胞(B Cell)が抗体を生成する。更に、キラーT細胞(Cytotoxic T Cell)がウイルスに感染した細胞を壊す。つまり、ワクチンはウイルスの感染を防止する機能と感染した細胞を破壊する機能がある。

出典: Nature

ワクチンの種類

ワクチンは体内に抗原を投与し病気にさらすが、これで病気を発症するのではなく、体内の免疫システムを起動し、本当のウイルスが侵入したときに、これをブロックし、また、破壊する。また、病気に感染し回復すると体内に抗体が生成され、これが免疫となり再度感染することを防ぐ。ワクチン開発の技術基盤(Platform)は大きく分けて四種類ある。

Platform 1:ウイルス(Virus Vaccines)

ワクチン開発の伝統的な手法で、病原体であるウイルスを直接投与する。二つの方式があり、弱毒化したウイルスを使う手法(生ワクチン、Weakened Virus)と、化学処理などで感染しなくしたウイルスを投与する手法(不活化ワクチン、Inactivated Vaccine)。中国のバイオ企業Sinovac Biotechや中国研究機関はこの手法を採用している。

Platform 2:ウイルスベクトル(Viral-Vector Vaccines)

遺伝子情報からウイルスを生成し、これをワクチンとして使う手法。人工的に生成したウイルスを投与する方法で、ウイルスが体内で増殖する方式(Replicating Viral Vector)と、体内で増殖しないタイプ(Non-Replicating Viral Vector)方式がある。オックスフォード大学やCanSino BiologicsがReplicating Viral Vector手法を採用している。

Platform 3:核酸(Nucleic-Acid Vaccines)

ウイルスの核酸(Nucleic Acid)を細胞内に注入する方式。核酸はリボ核酸(RNA)とデオキシリボ核酸(DNA)の二種類があり、それぞれが細胞内に入り、そこでウイルスを構成するたんぱく質を生成する。ModernaはRNAの手法を取る(下の写真)。この方式ではウイルスを生成する必要はなく、ウイルスの特定部分(スパイクたんぱく質)のmRNAを生成するだけで、開発期間が大きく短縮される。一方、この方法で成功したワクチンはなくハイリスクなアプローチとなる。

出典: Moderna  

Platform 4:たんぱく質(Protein-Based Vaccines)

ウイルスのたんぱく質をワクチンとして投与する手法で、数多くの研究機関がこの手法で開発を進めている。二つの手法があり、ウイルスの特定のたんぱく質を使う方式(Protein Subunits)と、ウイルスの外殻を使う方式(Virus-Like Particles)。米国企業NovavaxはProtein Subunitsの手法でワクチンを開発しており、大きな進展があったとしている。

コロナと共棲する社会の「健康パスポート」、Googleはカリフォルニア州で新型コロナ検査クラウドを構築

Google系Verilyはカリフォルニア州で新型コロナウイルスの検査体制を構築した。Verilyの専用サイトで検査を申し込み、ドライブスルーでPCR検査を受けることができる。都市閉鎖が解除され、コロナと共棲する社会となり、感染のリスクが高まっている。これからは、定期的に検査を受けて健康を確認することが求められるが、このサイトが健康パスポートの役割を担う。

出典: Verily

健康管理のダッシュボード

このシステムはVerilyがカリフォルニア州政府や連邦政府と共同で開発したもので、サンフランシスコ地区の住民はここでPCR検査を受けられるようになった。このプロジェクトは「Baseline COVID-19 Program」と呼ばれ、新型コロナウイルスの健康管理台帳として機能する。住民は会員登録するとダッシュボードが開設され、ここにCovid-19関連情報が示される。

PCR検査の申し込み

実際に、ダッシュボードからPCR検査を申し込み、検査を受けた。ダッシュボードに示される質問に回答すると(下の写真、左側)、PCR検査を受ける条件を満たしているかが判定される。条件を満たしていると、近隣の試験サイトを選び、試験日時を予約する。メールで確認書が送られ(下の写真、右側)、当日は、これを持参して検査を受ける。

出典: VentureClef

ドライブスルー検査場

予約した時間に検査場に出向き、ドライブスルーでPCR検査を受ける(下の写真)。会場入り口で本人確認が行われ、検査(Nasal Swab Test)が実施される。鼻にSwabが挿入され、検体が採取される(先頭の写真)。全ての工程はクルマに座ったままで進み、感染のリスクは最小限にとどめられる。会場到着から10分程度で検査が終わり、意外なほど簡単に進んだ。

出典: VentureClef

検査結果とダッシュボード

検査結果は四日後にダッシュボードに表示された(下の写真、左上の部分)。検査結果は陰性であり、次に取るべきアクションが示された。また、結果が陽性であれば医療関係者から連絡があり、Contact Tracingが実施される。その後、ダッシュボードには次のPCR検査についての情報が示され、同じ手順で検査を受けることができる。コロナ社会で安全に生活するには、PCR検査を定期的に受診する必要がある。

出典: VentureClef

抗体検査プログラム

Verilyはサンフランシスコ地区でコロナ感染者の実態を把握するための研究プログラム「COVID-19 Research Project」を開始した。これは抗体検査とPCR検査を併用し、域内の感染状況を把握することを目的とする。更に、抗体があれば再び感染することがないのか、また、抗体はどれだけの期間体内に留まるのかも調べる。

研究プロジェクトへの参加

ダッシュボードにはこのプログラムに関する情報が掲載され(上の写真、右カラム)、被験者を募集している旨が示された。研究の目的や意義に賛同すれば、そのままダッシュボードで契約書に署名し、研究プロジェクトに参加できる。(実際に、この研究プロジェクトに申し込んだが、8週間にわたり抗体とウイルスの状態がモニターされる)。

トランプ大統領の記者会見

PCR検査のインフラはトランプ大統領の記者会見で発表された。大統領は国民全員がウイルス検査を受ける体制を構築すると述べ、ホワイトハウス専任チーム「Coronavirus Task Force」のDeborah Birx博士がその概要をパネルで説明した(下の写真)。パネルで示されたプロセスをVerilyがクラウドに実装し、各地の試験センターを運営するかたちとなっている。

出典: White House

Verilyとは

VerilyはAlphabetの子会社で、先進医療の研究をミッションとする(下の写真)。その中心が「Project Baseline」で、先進医療を健康管理に応用する研究を進め、被験者の身体に関するデータを収集し、それをAIで解析することで健康に関する知見を得る。PCR検査はこのスキーマの中で実施され、住民のウイルス感染情報を大規模に収集し、それを健康管理に役立てる。

出典: The Business Journal

コロナと共棲するために

全米で都市が再開され、日常生活が徐々に戻ってきた。ソーシャルディスタンシングを取りながら仕事や買い物をするが、感染の危険性は常にある。安全に暮らすためには定期的にPCR検査を受診しウイルス状態をチェックする必要がある。Amazonは自社で社員のPCR検査を定期的に実施する施設を準備しているが、一般市民は様々な公的機関でPCR検査を受けている。このためにVerilyのBaseline COVID-19 Programが健康管理で必須のインフラとなる。

シリコンバレーの新型コロナウイルス出口戦略、ロボットによる配送サービスが始まった

都市閉鎖を解除して元の生活に戻るためには、経済活動の再始動とウイルス感染対策の二つの車輪をバランスよく回す必要がある。新型コロナウイルスの出口戦略の策定が求められるなか、シリコンバレーはハイテクでその解を探っている。マウンテンビュー市はロボットによる宅配サービスを認め、非接触で安全なソリューションとして注目されている。

出典: VentureClef

配送ロボット「Starship」

このサービスを始めたのはサンフランシスコに拠点を置くベンチャー企業Starship Technologiesで、荷物配送ロボット「Starship」の営業運転を始めた。Starshipは市街地のレストランと提携し、注文を受けた料理をロボットで消費者宅まで配送する。サンタクララ群は外出禁止令を発令し、レストランは店舗での営業を禁止され、事業者はビジネスの存続に危機感を募らせている。

実際に利用してみると

今月から運用が始まり、実際に使ってみたが、可愛いロボットがランチを配送してくれた。使い方は従来の宅配サービスと同じで、スマホアプリで食事を注文すると、人間に代わりロボットが目的地まで自動走行して食事を届ける。(下の写真、左側:多くのレストランがロボット宅配サービスを展開中、右側:その中でCrepevineというレストランでクレープを注文)。

出典: VentureClef

レストランで料理を積み込む

注文を受けたレストランは料理を調理して、店頭にスタンバイしているロボットの荷物ベイにパッケージを積み込む(先頭の写真)。店舗スタッフは料理を積み込む前に、荷物ベイを殺菌ワイプで拭き、コロナ対策が取られる。準備が整うと、店舗スタッフは専用アプリを操作してロボットを発進させる。

ロボットは安全に走行

ロボットは目的地まで自動で歩道を走行する。ロボットの走行速度は意外に速く、駆け足しないと追い付かない。しかし、人込みや障害物がある個所では速度を落とし、安全な経路を見つけてゆっくり通過する。横断歩道では信号を認識でき、赤の時は歩道で停止し(下の写真、左側)、青になると発進し道路を横断する。歩道でも駐車場の入り口では一旦停止し、安全を確認して進行する(下の写真、右側)。

出典: VentureClef

目的地に到着

ロボットが目的地に到着すると、スマホアプリにメッセージが表示される。ここで「Unlock」ボタンを押すと(下の写真、左側)、荷物ベイのカバーが開錠される。カバーを空けて(下の写真、右側)、積まれているパッケージを取り出す。そしてカバーを閉じ、スマホアプリの「Send Robot Away」ボタンを押すとロボットは自動でレストランまで帰還する。

出典: VentureClef

ロボットの安全性

ロボットと一緒に歩いてみたが、慎重に走行し安全であると感じた。人間が歩道で立ち話をしていて、通路を塞いでいるときは、ロボットはゆっくりとその脇を通過した(下の写真、左側:このケースでは歩行者が道を譲った)。信号のない横断歩道を渡ることができ、この際は、慎重に左右を見てクルマがいないのを確認して横断した(下の写真、右側)。これだと市街地で歩行者が行き交う中で走行することができると感じた。

出典: VentureClef

レストランやスーパーマーケットが参加

市街地で多くのロボットが運行しているが、これらは複数の店舗で共有して使われている。レストランの他にカフェやスーパーマーケットがロボットを使って商品を配送している。ロボットはステージングエリアで待機しており(下の写真)、リクエストに応じて店舗に移動する。また、配送先から帰還したロボットはここに停止し次の指示を待つ。

出典: VentureClef

自律走行の仕組み

Starshipは自動運転車のように自律的に走行する。車体には10台のカメラとセンサーを搭載し、カメラで周囲360度の映像を撮影する。カメラがとらえたイメージをAI(Convolutional Neural Network)で解析し、周囲のオブジェクトの種類や歩道を把握する。ロボットは高額なLidarは搭載しておらず、カメラだけで走行する構成で、AIの技術力がカギになる。

小さなAI

更に、AIは搭載されているGPUで処理され、大量の電力を消費する。自動運転車と異なり、配送ロボットはバッテリー容量が小さいため、ニューラルネットワークのサイズを小さくした軽量AI「Tiny AI」の開発が求められる。

新型コロナウイルス

Starshipの運用が始まった背景には新型コロナウイルスによる都市閉鎖がある。レストランは店舗での営業が禁止され、出前サービスと店頭受け取りに限定され、売り上げが大きく落ち込んでいる。スーパーマーケットはオープンしているが消費者は感染のリスクを感じ足が遠のく。このため、人間と人間が接触しないで配送できるロボットが注目されている。

マウンテンビュー市の判断

マウンテンビュー市においてStarshipは企業キャンパス(Intuit社)でロボット配送サービスを展開しているが、安全性の観点から市街地における運用は許可されなかった。しかし、都市ロックダウンでレストランなどが苦境に陥り、これを救済するために市議会はStarshipが公道で配送サービスを実行することを認める判断を下した。これは「Delivery Device Pilot Program」として運用され、一定の制限(同時に走行できる台数は10台まで)の下で、安全を確保して実施される。

出典: VentureClef

新型コロナウイルス社会

新型コロナウイルス社会で安全に事業を再開するには自動化がカギとなる。人間に代わりロボットが商品を配送することで感染のリスクを下げる。一方、歩行者で込み合う歩道で接触することなく安全に運行するためには、ロボットの技術開発だけでなく、歩道の整備など社会インフラの見直しも必要になる。更に、住民はロボットが生活空間に入ることを受け入れることが前提条件で、そのための啓もう活動も求められる。解決すべき課題は少なくないが、新型コロナウイルスの出口戦略ではハイテクの活用がカギとなる。