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次期大統領選挙の争点はベーシックインカム、AIに仕事を奪われる大失業時代の政策が問われる (2/2)

AIの急速な進化で自動化が進み、労働者の職が奪われるケースが急増している。アメリカ経済は成長を続けるが、富が富裕者層に局在し、社会格差が広がっている。2015年には米国製造業で400万人が職を失い、2030年には全労働者の1/3が失業するといわれている。資本主義の矛盾をどう解決すべきか、ベーシックインカムの議論が広がっている。2020年の大統領選挙ではベーシックインカムが重要な争点となりそうだ。更に、失業を生み出すAI企業の責任も問われることになる。(前半から続く)

出典: Google

シリコンバレーで賛同が広がる

シリコンバレーでもベーシックインカムの議論が活発になっている。この背景には、ハイテク企業が生み出すAIが労働者の雇用を奪う大きな要因となり、企業経営者はその責任の一部を負うべきとの考え方があるためだ。ハイテク企業経営者を中心にベーシックインカム導入を支持する声が高まり、シリコンバレーでその実証試験が始まった。ベーシックインカムが問題を解決する切り札になるのか、データサイエンスの手法でその検証が始まった。

オークランドでの実証実験

著名ベンチャーキャピタルY Combinatorはベーシックインカムの予備試験を実施した。サンフランシスコ対岸のオークランド (上の写真) で100家族を選び、毎月1000ドルの現金を支給した。受給者は受け取ったお金を自由に使うことができる。予備試験は2016年9月から2017年末まで実施された。

全米で本試験を実施

この予備試験に続き、Y Combinatorは規模を拡大した本試験を展開する。二つの州で1000人を選定し、今年から5年にわたり毎月1000ドルを支給する。このグループと受給を受けない一般のグループを比較し、受給者の行動特性や健康状態を解析する。具体的には、受給者の時間の使い方、健康管理、財政状況、意思決定のパターン、政治に関する偏向などを調査する。これらの情報がベーシックインカムを制度化するための基礎データとなる。

実証試験の意味

Y Combinatorがこのプログラムを実施する理由は社会システムの歪みを補正するため。米国において貧困者層が急増し、中間層が減少し、社会格差が拡大している (下のグラフ、富裕層10%がその他90%の収入を上回る)。これにより米国で政治対立が先鋭になり (極右団体と極左団体の拡大)、地域社会が分裂する (ジェントリフィケーション) など、社会全体が不安定になっている。

出典: Y Combinator / Piketty, Saez, Zucman (2016)

ベーシックインカムを科学的に分析

AIを中心にテクノロジーがこの流れを加速している。このため社会格差を緩和するためにベーシックインカムの議論が高まっている。しかし、その有効性を議論するための科学的なデータはなく、施策は進んでいないのが実情である。このプログラムの目的はベーシックインカムを科学的に解析し基礎データを収集することにある。

ストックトンでも実証実験が始まる

シリコンバレー郊外のストックトンはベーシックインカムの導入を決定し、試験運用が間もなく始まる。同市は長年にわたる財政規律の緩みで、2012年に財政破産を宣告した。今は新市長のもとで、革新的手法を取り入れ、経済の立て直しを図っている。この一環で、市は2018年8月から、ベーシックインカム研究プログラムを開始する。100人の市民を選び毎月500ドルを3年間支給する。研究プログラムの目的は、受給者の生活や健康を追跡調査することで、これら基礎データがベーシックインカムを制度として導入する際の参考情報となる。

ベーシックインカム研究所

この研究プログラムは非営利団体「Economic Security Project」と共同で実施されている (下の写真)。この団体はFacebook創設者のひとりChris Hughesが設立し、ベーシックインカムの基礎研究を担っている。Economic Security ProjectはAIによる自動化やグローバリゼーションが社会格差を生んでいると認識する。米国経済は好調で巨大な富が蓄積されるが、低所得者層はその恩恵にあずかることができない。中間層は上に昇ることができず、将来への不安が高まる。この問題を解決するためにベーシックインカムの手法が有効であるかどうかを研究する。

出典: Stockton Economic Empowerment Demonstration

アメリカ国民の意見

社会格差が拡大する中、AIやベーシックインカムを米国人はどう受け止めているのか、興味深い調査結果が発表された。これはGallupとNortheastern Universityの共同研究で、アメリカ人成人3,297人へのアンケート調査を解析した結果である。これによると、米国人はAIに対して好意的な印象を持っている(76%)。しかし、同時にAIの導入により職が奪われるとも感じている(73%)。米国人はAIをポジティブに評価しているものの、同時に、AIが仕事を奪うと懸念している姿が浮かび上がる。

AI企業の責任

ベーシックインカムについては、アメリカ人の半数 (48%) が必要と考えている。AIに仕事を奪われるため、ベーシックインカムがセーフティーネットとして必要であると考える。しかし、ベーシックインカムの財源をどこに求めるかについては際立った特徴を示している。増税などによる国民への負担が増えることには反対で、多くの人 (80%) はAIで利益を得たハイテク企業が負担すべきと考えている。AI企業は失業対策で大きな社会的責任を持つべきとの考え方が主流となってきた。

Facebookは導入を支持

この流れを肌で感じているシリコンバレー経営者はベーシックインカムの必要性を相次いで表明している。Facebook最高経営責任者Mark Zuckerbergは講演の中で、ベーシックインカムの導入が必要との考えを示した。Zuckerbergは社会の新ルールを作る必要があるとし、人は収入ではなく仕事の意味で評価されるべきとの持論を展開。新社会では仕事に失敗しても生活できる社会構造が必要と述べ、ベーシックインカムの導入を支持している。

Microsoftはユートピア論を展開

Microsoft創設者Bill GatesはAIの社会に及ぼすインパクトに関し特異な見解を持っている。世界経済フォーラムの会場でこれを表明した (下の写真)。AIは既に社会に入りこみ、多くの人の職を奪っている。しかし、AIは人間より効率的に仕事をこなし、多くの富を生みだしている。これにより人間は労働時間を減らすことができ、空いた時間を好きなことに費やすことができる。つまり、GatesはAIは人間にユートピアを提供すると予測している。

出典: CNBC

理想郷にソフトランディングするために

同時に、AIは社会に浸透する速度が速く、世の中がこの流れに追随できないことが問題だと指摘する。このため、政府は社会保障制度を見直しベーシックインカムを導入し、失業者を再雇用するための教育プログラムの拡充も求められる。政府の施策が上手く機能し、近未来のAI社会にソフトランディングできれば、我々の未来は明るいとしている。

トランプ政権は無関心

トランプ政権はベーシックインカムを支持すると期待されていたが、それとは逆の方向に進んでいる (下の写真)。そもそもトランプ政権はAIやロボットの導入で失業者が増えるとの認識は薄い。米国製造業の雇用はメキシコや中国などが奪うとの信念に基づいて政策が立案されている。このためNAFTAやTPPから脱退し、各国と契約条件の見直しを進めている。AIやベーシックインカムに関する議論はなく、政策で真空状態が続いている。米国では連邦政府に代わり、上述の通り、地方政府やハイテク企業がこの政策をリードしている。

AIでどれだけの職が失われるか

では、AIやロボットなど自動化技術の導入でどれだけの職が奪われるのか、多くの統計データが公表されている。世界経済フォーラムは2020年までに710万人の職が失われ、200万人の職が生み出されるとみている。McKinseyは2030年までに失われる職の数を最大8億人と推定。独立系メディアMother Jonesは、2040年までに全職業の半数がAIに置き換わり、2060年までにすべての仕事はAIに置き換わると予測している。ブルーカラー労働者だけでなく、医師、新聞記者、会社経営者、科学者、芸術家など全職業がAIに取って代わられる。

出典: White House

AI企業の新たな使命

多くのシンクタンクが予測するように、AIによるインパクトは甚大で、大失業時代が到来する。これに備えてベーシックインカムの議論が進み、実証実験による科学的な検証が始まった。同時に、失業を生み出すAI企業の責任をどう査定するかの議論も始まった。温暖化ガスを排出する企業に税金を課すように、失業を生み出すAI企業へ応分の負担を求めることが国民世論となってきた。既に多くのAI企業は良き市民として社会責任を果たすべく活動を展開している。今後は、社会格差や失業問題への対応求められ、これらがAI企業の新たな使命となる。

次期大統領選挙の争点はベーシックインカム、AIに仕事を奪われる大失業時代の政策が問われる (1/2)

AIの急速な進化で自動化が進み、労働者の職が奪われるケースが急増している。アメリカ経済は成長を続けるが、富が富裕者層に局在し、社会格差が広がっている。2015年には米国製造業で400万人が職を失い、2030年には全労働者の1/3が失業するといわれている。資本主義の矛盾をどう解決すべきか、ベーシックインカムの議論が広がっている。2020年の大統領選挙ではベーシックインカムが重要な争点となりそうだ。更に、失業を生み出すAI企業の責任も問われることになる。

出典: yang2020

ベーシックインカムとは

ベーシックインカム (Universal Basic Incomeと呼ばれる) とは、社会保障の一種であるが、従来の失業保険などとは異なり、全ての国民に一律にお金を支給する制度を指す。受取のための条件はなく、毎月一定額の金額が支給される。受け取ったお金の使途の制限も無く、受給者が自由に使うことができる。ベーシックインカムの構想は50年ほど前から議論されてきたが、AIによる失業問題が拡大する中、再び注目されている。

大統領選挙に向けた動き

トランプ大統領が就任して一年余りたつが、既に次期選挙に向けた動きが活発化している。民主党 (Democratic Party) からは起業家のAndrew Yangが立候補を表明した。Yangは自動化による失業者を救済することを公約のトップに掲げキャンペーンを展開している (上の写真)。大失業時代の対策としてベーシックインカムの導入が必要であると主張する。

毎月1000ドル受け取る

Yangは選挙サイトにベーシックインカム導入の意味やその具体的な政策を示している。それによると、毎月1000ドルを18歳から64歳までの米国国民に一律に支給する。支給条件はなく、収入に関わらず誰でも毎月1000ドルを受け取る。生活保護を受けている人は、これを延長するか、又は、ベーシックインカムを選択できる。65歳以上は国民年金 (Social Security) を受け取ることになる。国民医療保険 (MedicareとMedicaid) はそのまま存続する。これ以外の保護政策はなく、月額1000ドルがセーフティーネットとなり生活を下支えする。

ベーシックインカムが必要な理由

AIやロボットの導入で米国製造業で既に400万人の職が失われた (下の地図、赤い部分Rust Beltに集中している)。自動運転車の導入でトラック運転手350万人の職が失われると予測される。Yangは単純労働作業や危険な職種は自動化すべきだとし、AIやロボットが社会に入ることを歓迎している。一方、これによる失業者が最低限の生活をするために、ベーシックインカムを導入する。更に、失業を生み出すAIやロボット企業は応分の負担をすべきだと考えている。

出典: Wikipedia

財源をどこに求めるか

ベーシックインカムを導入すると年間2兆ドルの歳出となり、米国国家予算 (4.1兆ドル、2018年度予算教書) の半分を占める。Yangはベーシックインカムの財源をValue-Added Tax (VAT、付加価値税) に求めるとしている。米国で新たにVATを導入し税率を10%とする。VATとは企業が生み出す製品やサービスに課税する税で、企業は税を回避することが難しくなり、公平に課税できる点が評価される。欧州では幅広く導入されているが、米国では使われておらず、地方政府がSales Tax (売上税) として徴収している。

効果はあるのか

最低の生活が保障されると人は働かなくなるとの議論があるが、Yangはベーシックインカムを導入することで勤労意欲が増すとしている。現在の社会保障制度は受給者が収入を得ると支給が停止され、これが勤労意欲を減らす原因と指摘する。ベーシックインカムは収入に関係なく一律に支給され、最低限の生活ができ、仕事が見つかると収入が増える。また、大学で学びなおし新しいキャリを目指す人も増える。更に、起業家のように独立して事業を始める人が増えるとも述べている。

オバマ大統領などが支持

多くの政治家がベーシックインカム導入を積極的に検討している。オバマ前大統領は在任中、AIやロボット開発を推進したが、同時に、これにより富が富裕層に局在することを懸念していた。今後、10年から20年後には、お金を配布する仕組みの導入が必要と述べ、ベーシックインカムの導入が必須であるとの見方を示した。ヒラリー・クリントン候補は大統領選でベーシックインカム導入を公約とはしなかったが、この仕組みに共感していたと伝えられる。

(後半に続く)

自動運転技術「Baidu Apollo」とは、オープンソースの手法でクルマを開発

Baiduは2017年から自動運転技術「Apollo」を公開している。Apolloはソフトウェアとハードウェアから構成され、通常のクルマにこれらを搭載して自動運転車を開発する (下の写真)。ソフトウェアやデータが公開されており、中国で自動運転車開発ラッシュが始まった。

出典: Baidu

Apollo開発環境

Apolloは自動運転車の開発環境を提供するもので四階層から構成される。「Cloud Service」は文字通りクラウドサービスで、ここでシミュレーション環境など基幹機能が提供される。「Apollo Open Software Stack」は自動運転ソフトウェアで、これらがオープンソースとして公開されている。「Reference Hardware Platform」はクルマに搭載する標準プロセッサやセンサーなどを定義する。「Reference Vehicle Platform」はベース車両を定義したもので、ここにApolloを搭載し自動運転車を生成する。

ソフトウェアモジュール

Apolloソフトウエアは次の三つのモジュールから構成さる。Localization (位置決定)、Perception (オブジェクト把握)、Planning (走行経路算出) で、これらが自動走行の基礎技術を提供する。企業はこれらのモジュールを使い製品を開発する。また、これらのモジュールを改造して、企業独自の製品に仕立てることもできる。

Localization

このモジュールは作成されたHDマップを参照し、GPSとIMU (Inertial measurement unit、慣性計測装置) を使い、高精度でクルマの位置を決定する。

Perception

このモジュールはクルマ周囲のオブジェクトを把握する機能を持つ。クルマに搭載されたセンサー (Lidar、カメラ、レーダー) が捉えたデータを解析し、オブジェクトの種別、位置、移動速度、進行方向を特定する。ここでDeep Learningの技法が使われている。アルゴリズムはタグ付きのデータで教育されており、高精度でオブジェクトを判定できる。

Perceptionは二つのモジュールから構成される。「Obstacle Perception」はLidarとレーダーで捉えたデータを解析し障害物を特定する (下の写真)。LidarのデータはConvolutional Neural Networkで解析し、オブジェクトの特性を把握する。「Traffic Light Perception」は信号機を把握する。3Dマップにおける信号機の位置を参照し、カメラで捉えたイメージからその場所を特定し、信号機の色を把握する。

出典: Baidu

Planning

このモジュールはリアルタイムで周囲の交通の状態を把握し、最適な進行ルートを算定する (下の写真)。まず、周囲のオブジェクトの移動方向を推定し、次に、オブジェクトに特有な挙動を把握し (クルマや自転車など)、最後に、最適な進行経路を算出する。このモジュールはアクセスが制限された道路 (高速道路のように進入が制限された道路) で使うことができる。また、昼間だけでなく夜間にも使うことができる。

出典: Baidu

Simulation

Baiduは自動運転技術開発のためにシミュレーション環境を提供している。この環境はMicrosoft Azureの上に構築され、開発に必要な次のモジュールを提供する。

  • Scenarios:シミュレーションの条件を変え異なるシナリオを生成する。道路のタイプ、路上の障害物、運転方法、信号機能状態を変えることができ、異なる環境を作り出す。
  • Execution Models:上述のシナリオを使い、開発した自動運転モジュールを実行し、その機能を検証する。
  • Automatic Grading System:試験した自動運転モジュールの完成度を評価する。衝突検知、信号認識、速度制限などの試験ができ、合格か不合格化をシステムが判定する。
  • 3D Visualization:路上におけるクルマの走行状態を可視化してモニターに表示する。

Scenarios

上述の通りシミュレータは様々なシナリオを取り揃えている。信号機のある道を直進 (Go Straight w/ Lights)するというシナリオや、信号機のある交差点を左折 (Turn Left (Intersection w/ Lights) するシナリオ (下の写真) など、100種類のシナリオが用意されている。エンジニアは開発した自動運転車を様々なシナリオで走行させアルゴリズムを検証する。

出典: Baidu

自動運転技術API

開発者はApolloが提供するAPI (自動運転機能のライブラリ) を使って自動運転車アルゴリズムを開発する。各メーカーはこれらAPIを使って自動運転車を開発する。また、公開されているソフトウェアを改造して、独自の機能を持つ自動運転車を開発することもできる。上述の通り、開発したアルゴリズムを様々なシナリオで試験して、アルゴリズム実行結果 (合格・不合格) を判定する手順となる。

多種類のデータ

自動運転アルゴリズム開発や研究のために、多種類のデータが公開されている。開発者や研究者はこれらのデータを使ってアルゴリズムの教育や研究を実施できる。公開されているデータの種類はSimulation Scenario Data (シナリオ)、Annotation Data (タグ付きデータ)、Demonstration Data (デモ向けデータ)などである。

Lidar Point Cloud

Annotation Dataの中にLidarが捉えたデータ (Lidar Point Cloud) がある (下の写真)。クルマ周囲のオブジェクトはこのLidar Point Cloudを解析して判定する。Lidarが捉えたオブジェクトは種別ごとにタグ付けされ、これらデータが公開されている。データは、歩行者、自動車、自転車、その他など区分され、合計で2万フレームが公開されている。1万枚はアルゴリズム教育のために、1万枚はアルゴリズム試験のために使うことを想定している。

出典: Baidu

Baiduが勢力を拡大

このように中国ではBaiduが主導するApolloが大きく勢力を拡大している。Baiduが自動運転技術のAI開発を担い、その他の技術は参加企業が共同で開発する体制となる。ApolloプロジェクトにはVelodyne (Lidarセンサー) やNvidia (車載プロセッサ) やTomTom (マップ技術) など、自動運転車のキーコンポーネントを提供するベンダーが参加している。世界の自動運転車開発は米国、欧州、中国の三極体制に向かいつつある。

Baiduはオープンソースの手法で自動運転技術を開発しAIとデータを公開、中国で自動運転車開発ラッシュ

Baiduは2018年1月、CESで自動運転技術「Apollo」最新版を公開した。Apolloとはオープンソースの自動運転車開発基盤で、ソフトウェアやデータが公開され、メーカーはこれを使って自由に自動運転車を開発することができる。BaiduはApolloを自動運転車のAndroid位置づけ、中国企業を中心にエコシステムが広がり、Apolloを搭載した自動運転車が続々登場している。

出典: Baidu

ライブデモを実施

BaiduはCES会場で、ラスベガスと中国・北京を結び、Apolloを搭載した自動運転車のデモ走行を披露した。この模様はビデオで公開された。デモ会場は北京にあるBaidu本社で、夜明け前の暗闇の中を自動運転車が隊列走行した (上の写真)。Apolloは異なる車種のクルマに搭載され、構内を自動運転で走行した。先頭のクルマはFord製の高級車種Lincoln MKZで、Apollo自動運転技術を搭載し、運転席にはドライバーの姿はなく、クルマが自動で走行した。

AI Cityを開発

Baiduは同時に、「AI City」を走行する自動運転車のデモビデオを公開した。Baiduは地方政府と共同でXiongan (河北省・雄安) に人工知能都市AI Cityを開発している。市の一部を特区 (New Area) として、次世代スマートシティーのプロトタイプを構築する。具体的には、この街をAIを活用した商業地域とし、自動運転技術 (Intelligent Transportation)、対話型AI (Conversational AI)、クラウド (Cloud Computing) を導入し、インテリジェントな近未来都市を構築する。

AI Cityで自動運転走行デモ

BaiduはAI CityでApolloを搭載した自動運転車のデモ走行を実施した。Apolloを搭載した異なるモデルの車両が市内の公道を走行した。クルマは対面通行の道路などを安全に自動走行した (下の写真)。ここは中央分離帯が無く、道幅は狭く、高度な技術が必要となる。Baiduは中国におけるGoogleとして認識されているだけでなく、今では自動運転のリーダーとして技術開発を主導する。BaiduがAI Cityで自動運転のデモを実施した最初の企業で、その実力の高さを内外に示した形となった。

出典: Baidu

交差点の左折や問題への対応

クルマは信号機のある複雑な交差点を左折できることも示された。クルマのセンサーは信号機や歩行者を正しく認識し、安全な走行経路を決定する。また、交差点でUターンをすることもできる。更に、対向車がセンターラインを越えて車線に入ってきても、これを認識して安全に停止した (下の写真)。

出典: Baidu

ディスプレイ

自動運転車のダッシュボードにはディスプレイが搭載され運行状態を表示する (下の写真)。自動運転機能を可視化してディスプレイに表示することで、アルゴリズムが何を見て、どのように判断したかが分かる。具体的には、 Apollo API (自動運転ライブラリ) の「Perception」という機能は、クルマ周囲のオブジェクトを把握し、その種別を特定する (下の写真、緑色の箱)。また、「Planning」という機能は、把握したオブジェクトを考慮して、安全な走行ルートを算定する (下の写真、クルマの前に示された水色の線)。アルゴリズムの演算結果をディスプレイに表示することでクルマの挙動を理解できる。更に、クルマの走行データを記録する機能もあり、アルゴリズムのデバッグなどに役立てる。

出典: Baidu

ハードウェア

Apolloはソフトウェアとハードウェアから構成され、通常のクルマにこれらを搭載して自動運転車とする。センサーはLidar (レーザーセンサー)、カメラ、レーダーが使われ、これら機器を車両に搭載する (下の写真)。これが標準装備で、三種類のセンサーをAIが解析し (Sensor Fusionと呼ばれる)、自動運転を実現する。運転席には自動運転を解除するための非常ボタンが設置されている。Apollo自動運転車は北京の公道で試験走行を進めている。また、Baidu研究所があるカリフォルニア州でも走行試験が実施されている。

出典: Baidu

オープンソースの手法

Baiduは自社単独で自動運転技術を開発するのではなく、オープンソースの手法で技術を公開し、パートナー企業と供に製品を開発している。既に多くの企業がApolloプロジェクトに参加している。その数は90社にのぼり、中国企業が65社と大半を占めている。海外メーカーではFordやDaimlerやHyundaiが加わっている。海外サプライヤーではBosch、Continental、Delphiなどが、半導体メーカーではNvidia、Intel、NXPなどが参加している。日本からはルネサスエレクトロニクスとパイオニアが参加している。中国企業が中心であるものの、海外から大手企業が参加しており、その関心の高さが窺える。

Microsoftが参加

IT企業からはMicrosoftがパートナーに加わっている。MicrosoftはクラウドサービスAzureを提供し、自動運転車のシミュレータ「Dreamview」(下の写真) の運用を支える。自動運転車が商品として販売され、市街地で運行を始めると、Microsoftはクルマとクラウドを結ぶコネクティッドカー機能を提供することを計画。現在、Apolloは中国で展開されているが、Microsoftがプロジェクトを米国や欧州で展開することを手助けする計画もある。

出典: Baidu

オープンソースの手法は上手くいくのか

Apolloソフトウェアはオープンソースの手法で開発されている。開発されたソフトウェアはGitHubに公開され、誰でも自由に利用して自動運転車を開発できる。同時に、参加企業は自社で開発したソフトウェアをApolloにフィードバックすることもできる。このプロセスを繰り返すことでApolloの完成度が向上するというシナリオを描いている。

Apolloの機能は未成熟

Apolloの機能はまだ限定的で、複雑な市街地を走行できる訳ではない。Apolloが提供している機能は、幹線道路での直進、左折・右折、Uターンなど基本操作に限られる。Apolloの機能はまだまだ未完成で、今すぐに無人タクシーとして使える訳ではない。つまり、Waymoなど先行企業はApolloに加わるインセンティブはない。

出典: Baidu

自動運転技術はコモディティに向かう

しかし、新興企業にとってみると、Apolloに参加することで、短期間で自動運転車を商品化でき、新事業創設のチャンスが広がる。Fordなど大手メーカーは自社開発だけでなく、Apolloで逆転を狙うという目論みがあるのかもしれない。更に、自動運転技術は基本ソフトのように基礎技術となり、共通に利用できる方向に進むということを示唆している。誰でも手軽に自動運転車を開発できれば、差別化の要因をどこに求めるのか、新しい課題も見えてくる。

Androidモデルを踏襲

参加企業の多くは中国の自動車メーカーであり、Apolloを搭載した自動運転車が続々と開発されている (上の写真)。自動車だけでなく、Apolloを搭載したバスや道路掃除車両や配送ロボットなどが登場している。この状態はGoogleがスマホ基本ソフトAndroidを買収した2005年頃に似ている。当時、Apple iOSに比べAndroidは未成熟な基本ソフトであったが、Googleがオープンソースの手法で開発し、Androidは急速に完成度を増した。Androidが世界を席巻したように、Apolloもこの流れに乗ることができるのか、世界から注目を集めている。

レジ無し店舗「Amazon Go」の運用が始まる、AIが売り上げを把握する仕組みとは

Amazonは2018年1月、レジ無し店舗「Amazon Go」の運用を開始した (下の写真)。一般顧客がAmazon Goで買い物をできるようになった。店舗内で顧客が取り上げた商品はAIが自動で認識し、専用アプリに課金される。店舗にはレジはなく、顧客は取り上げた商品を持ってそのまま店を出ることができる。謎が多いAmazon Goであるが、ニュース記事やツイッター記事を読むとその概要が見えてきた。

出典: Amazon

AIが購入を判断

Amazon Goは専用アプリで利用する。店舗に入る際にアプリを起動し、表示されたQRコードをリーダーにかざすと、ゲートのバーが開く。店舗内では、商品を手に取り、買いたいものを自分のバッグに入れる。商品点数が少なければ手で持つこともできる。AIは顧客が商品を取り上げた時点で購買したと判定する。

AIは返品も認識

しかし、気が変わり顧客が商品を棚に戻すと、AIは返品されたと認識する。この時点で、購買したアイテムからこの商品が取り除かれる。店舗にはレジはなく、買い物が終わると顧客はそのまま店を出る。AIは顧客が購買したアイテムを把握しており、専用アプリに課金される。レシートはアプリに示され、顧客は購入した商品を確認できる。

システム概要

どういう手法でこれを判定するのか気になるが、Amazonはその技法については公開していない。Computer Vision (画像解析)とDeep Learning Algorithm (深層学習アルゴリズム) とSensor Fusion (異なる種類のセンサーを統合) を利用していると述べるに留まっている。

必要な機能

無人レジでは、顧客を特定する技術と、取り上げられた商品を特定する技術が必要となる。前者はComputer Visionで消費者を把握し追跡する。後者もComputer Visionで商品を特定する。更に、商品棚にはセンサー (重量計) が設置され、特定の商品が取り上げられたことを把握する。

顧客を特定する技術

前述の通り、店舗にはゲートが設置されており (下の写真)、ここでアプリのQRコードをかざすと、システムは利用者を把握する。天井に設置されているカメラが利用者を認識し、位置を特定する。これで顧客情報とその姿を紐づけることができる。店舗内で利用者が移動すると、天井に設置されたカメラがそれを追跡する。AIは利用者の顔認証は実施しない。顧客の姿の特徴量を把握し、これをキーに顧客をトラックする。

出典: Seattle Times

天井に設置されたカメラ

天井には数多くのカメラが設置されている (下の写真)。カメラはボックスに装着されている。このボックスはプロセッサーで、カメラが捉えたイメージの基礎的なAI解析を実行する。具体的には、人の存在の認識、利用者の特定と追跡、利用者の動作の意味を把握する。利用者が移動すると、別のカメラがこれをフォローする。更に、カメラは棚の商品を認識し、取り上げられた商品の名前を特定する。

出典: Seattle Times

商品棚とセンサー

商品棚 (下の写真) にはカメラと重量計が搭載されている。ただし、この写真からそれらを確認することはできない。消費者が取り上げた商品を商品棚のカメラが認識する。重量計が棚の重さを計測し、重量が減ると商品が取り上げられたと認識する。(システムは各商品の重さを認識しており、重量計は取り上げられた商品名を特定する機能があるとの意見もある。)

出典: Seattle Times

売り上げの特定

これら一連のデータはサーバに送信され、Deep Learning Algorithmが売り上げを推定する。そのロジックは次の通り。天井のカメラは利用者の位置を追跡し、特定の商品棚の前にいることを認識し、その挙動 (手を伸ばすなど) を捉える。その棚の商品が取り上げられたことをカメラと重量計で認識する。これら一連の情報をDeep Learning Algorithmで解析し、特定の消費者が特定の商品を取り上げたことを判定する。

AIが幅広いケースを学習

店舗での買い物は様々な状況が発生する。システムはDeep Learningの手法でこれらを学習していく必要がある。顧客は商品をバッグに入れるが、途中で気が変わり、それを別の棚に返品すことが多々ある。顧客は商品をバッグに入れるのではなく同伴している子供に手渡すケースもある (下の写真、右側)。一方、顧客が商品を取り上げて、それを別の顧客に手渡すケースもある (下の写真、左側、現在このケースは禁止されている)。アルゴリズムはこれらの事態を把握し、正しく会計処理ができるよう教育される。

出典: VentureClef

アルゴリズム教育プロセス

このため、Deep Learning Algorithmを教育し、顧客を認識する精度を高め、消費者の行動の意味を学習するプロセスが成否のカギを握る。教育を通じ、アルゴリズムは顧客が商品を手に取る、商品をバッグに入れる、商品を棚に戻すなどの行動の意味を高精度で推定できるようになる。この教育プロセスを実施するために、公開に先立ち、Amazon GoはAmazon社員を使ったトライアルが実施された。

開店が遅れた理由

Amazon Goは2016年12月に発表され、2017年初頭の開店を目指していた。しかし、公開は2018年1月と大きくずれ込んだ。開発が遅れた理由は公表されていないが、店舗が込み合っている時は、AIは売り上げを正しく判定できないためとされる。このためにカメラの台数を増やし判定精度を向上させた。Amazon Goの床面積は1,800平方フィート (167平方メートル) でここに100台ほどのカメラが設置されている。三畳間に一台のカメラが設置されている計算で、Amazon Goは多数のカメラでもれなく顧客をモニターする構造となる。

認識精度は

気になるAmazon Goの認識精度であるが、開店して一週間が経過するが、特に大きな問題は報告されていない。ただ、CNBCのレポーターが買い物をしたとき、ある商品 (Siggi’s Yogurt) が課金されなかったと報じている (下の写真)。一方、あるレポーターは店員さんの許可を得て、商品を”万引き”したが、店舗を出るとアプリに課金されていたと報告している。判定精度は実用に耐えるレベルに達していると思われる。また、このシステムは万引き防止にも役立つことも分かってきた。

出典: Deirdre Bosa

レジ無し店舗展開計画

AmazonはAmazon Goの展開計画については沈黙を守っている。ただ、開店したAmazon Goの品ぞろえを見ると、コンビニ形式の店舗となっている。食料品や日用品を中心に品ぞろえされ、顧客は少数点数を購買するパターンが目立つ。Amazon Goはオフィス街のコンビニとして運営されるとの噂もある。時間に追われている社員が、昼休みにサンドイッチと飲み物を手に取り、急いで店を出るケースなどが想定されている。Amazon Goではレジ待ちはなく、ランチ時間がちょっとリッチになり、社員の味方になるかもしれない。