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Googleは自動運転技術会社「Waymo」を設立、開発から事業化に向け大きく舵を切る

Googleは自動運転車部門をAlphabet配下の独立会社とすることを発表した。新会社の名前は「Waymo」で「a new way forward in mobility (モビリティへの新ルート) 」を意味する。発表と同時に新会社のロゴ「W」に衣替えをした試験車両が登場し、シリコンバレーで試験走行を始めた (下の写真) 。

出典: VentureClef

研究開発から事業推進へ

自動運転車部門の最高責任者John Krafcikが2016年12月に発表した。自動運転車開発はGoogle研究所「X」で行われてきたが、これからはAlphabet配下の独立企業として継続される。今までは研究開発という色彩が濃かったが、これからは事業として評価されることになる。Waymoが開発する技術は、個人向けの車両だけでなく幅広い分野で使われる。ライドシェア、貨物運輸、公共交通のラストマイルなどが候補に挙がっている。

Fiat Chryslerとの提携

Googleは2016年5月、Fiat Chryslerと共同で自動運転車を開発すると発表した。同社のプラグインハイブリッド・ミニバンChrysler Pacifica (下の写真) に自動運転技術を搭載し試験走行を展開する。Krafcikは、次世代センサーをこれら車両に搭載しており、開発が順調に進んでいることを明らかにした。一方、Bloombergは、2017年末までにChrysler Pacificaをベースとする自動運転車でライドシェアサービスを始めるとしている。Waymoはこれに関しコメントしていないが、来年には自動運転タクシーが登場する可能性もある。

出典: Waymo

自動運転車開発を振り返る

Googleは2009年から自動運転車を開発してきた。当初はToyota Priusをベースとする車両で (下の写真)、完全自動運転車の開発を目指した。目標はドライバーが操作することなく100マイルを自動走行することであった。カリフォルニア州でこのコースを10本設定したが、数か月後には目標を達成した。

出典: Waymo

技術開発を本格的に展開

2012年にはLexus RX450hを投入し、フリーウェイで自動運転技術を開発した。開発は順調に進み、このクルマをGoogle社員に貸し出し試験を続けた。この頃、Googleは自動運転車を商用化するめどが立ち、研究開発を本格化させた。自動運転車を市街地で走らせ、歩行者や自転車や道路工事作業員などに交じって走行試験を始めた (下の写真) 。

出典: Waymo

Googleが自動運転車をデザイン

2014年にはGoogleが自動運転車の車両を設計した。これは「Prototype」 (下の写真) と呼ばれ、自動運転車のあるべき姿を具現した。PrototypeはGoogleが開発したセンサーやプロセッサーを搭載し、社内にはステアリングやブレーキ・アクセルペダルはない。完全自動運転を意識したデザインとなっている。

出典: Waymo

Paint the Town

2015年には市街地でPrototypeの走行試験を始めた。Lexusベースの自動運転車と共に、Mountain View (カリフォルニア州) とAustin (テキサス州) で試験走行を展開。Prototypeの側面には市民がデザインした街の風景がペイントされた (上の写真)。これは「Paint the Town」というプロジェクトでPrototypeが街や市民になじむことを目指した。

公道での初めてのソロ走行

2015年にはAustin市街で完全自動運転技術の実証実験が行われた。視覚障害者がPrototypeに一人で搭乗し、目的地まで走行した。Prototypeが市街地で走行試験を行う際には、Googleスタッフが搭乗し自動運転をモニターし、緊急の際は運転を取って代わる。この実証実験ではGoogleスタッフは搭乗しないで、公道での初めてのソロ走行となった。このデモは完全自動運転車が非健常者や高齢者の足代わりになることを示した。

200万マイルを完走

2016年には自動運転車の走行距離が200万マイル (320万キロ) を超えた (下の写真)。試験走行場所はKirkland(ワシントン州)とPhoenix(アリゾナ州)が加わり四か所となった。Kirklandは年間を通じ雨が多く、Phoenixは砂漠の気候である。自動運転車を様々な環境で試験する試みが進んでいる。そして2016年12月、開発部門はGoogleからAlphabetに移り、Waymoとして独立した。

出典: Waymo

自動運転車の残された課題

Waymo自動運転車は200万マイルを走行し多くの課題を解決してきた。これからは複雑な市街地を安全に走行できる技術の習得が目標となる。これは「Final 10%」と呼ばれ、残された10%の分部の開発が一番難しく、時間を要する部分となる。自動運転車は既に高度な運転技術を習得している。状況の認識能力が上がり、緊急自動車や道路工事現場などを把握できる。これにより、レーンが閉鎖されていても、道路が通行止めになっても、自動運転車は対応できる技術を習得した。

自然な運転スタイル

これからの自動運転車の課題は自然な運転スタイルの学習にある。自動運転車が加速するとき、また、ブレーキを踏むとき、どれだけスムーズに操作できるかが重要なテクニックとなる。また、他車や歩行者との距離感や、カーブを曲がる速度や角度を学んでいる。これらは微妙な運転テクニックで、乗客が安心して乗れる技術を学習している。

出典: VentureClef

ソーシャルインタラクション

自動運転車は他のドライバーや歩行者とのInteraction (意思疎通) を学習している。例えば渋滞しているレーンに入るとき、隣のクルマが前に入れてくれるかどうかの判断を迫られる。もし、入れないと判断するとスピードを落とすなどの処置が必要となる。自動運転車は他車の進路や速度や意図を高精度で予測し、追い越しや割り込みのテクニックを学んでいる。同時に、自動運転車は自分がどうしたいのか、その意図を他車に伝える技術も学んでいる。(上の写真は隣のレーンを走るWaymo自動運転車。)

自動運転車の事業化が一気に進むか

Alphabet最高経営責任者Larry Pageは自動運転車を早く事業化することを求めている。一方、開発サイドは完全自動運転車の開発には一定の時間がかかるとしている。Pageは完全自動車の完成を待てばビジネスチャンスを逃してしまうとの危機感を持っている。半自動運転車として製品化することを強く求めているとも伝えられる。Waymoとして収益が求められる中、自動運転技術が最終製品として早期に登場する可能性が高まった。

人工知能は信用できるのか、AIのブラックボックスを開きそのロジックを解明する

AIの実力が高く評価されDeep Learningを応用したシステムが社会に広がっている。同時に、AIの問題点が顕著になってきた。AIは統計学の手法で入力されたデータから特徴量を高精度で検出する。メディカルイメージからガンの兆候を医師より正確に検知する。しかし、AIはなぜ癌細胞と判断したのか、その理由を語らない。

自動運転車は人間より遥かに安全に走行するが、その運転テクニックは開発者ではなくAIだけが知っている。我々はAIを信用できるのかという大きな課題に直面している。AIに生命を託すことができるのかの議論が起こっている。疑問に対する答えはAIの内部にある。AIのブラックボックスを開けて、そのロジックを解明しようとする研究が始まった。

出典: Xiaolin Wu, Xi Zhang

顔の特徴で犯罪者を特定

AIが抱える本質的な課題が様々な形で露呈している。中国のAI研究者は顔の特徴で犯罪者を特定する技法を発表した。これはShanghai Jiao Tong University (上海交通大学) で研究されたもので、「Automated Inference on Criminality using Face Images」として公開された。この論文によるとアルゴリズムは89%の精度で犯罪者を特定できる。つまり、顔写真をこのアルゴリズムに入力すると、この人物は犯罪者かどうかが分かる。

犯罪者には三つの特徴がある

この研究ではDeep Learningなど顔を認識するAI技術が使われた。アルゴリズムを教育するために、男性の顔写真1856人分が使われ、そのうち730人は犯罪者である。また、この論文は犯罪者の顔の特性についても言及している (上の写真)。犯罪者には三つの特徴があり、一つは上唇のカーブが普通の人に比べ急なこと (上の写真右側、ρの分部)。また、両目の間隔が狭く、鼻と口元でつくられる角度が狭いことをあげている (上の写真右側、dとθの分部)。但し、この論文は公開されたばかりでピアレビュー (専門家による評価) は終わっていない。

背後にロジックがない

いまこの論文が議論を呼んでいる。人物の挙動から犯罪者を特定する手法は監視カメラなどで使われている。しかし、顔の特性から犯罪者を特定するAIは信頼できるのかという疑問が寄せられている。AIは学習データをもとに統計処理するが、顔の形状と犯罪者を結び付けるロジックはない。仮にこのAIが犯罪捜査で使われると、一般市民は理由が分からないまま容疑者とされる恐れもある。Deep Learningが社会問題となる火種が随所で生まれている。

GoogleのAIが女性を差別

世界の最先端のAI技術を持つGoogleだが、AIに起因する問題点を指摘されている。YouTubeは聴覚障害者のためにキャプションを表示する機能がある (下の写真)。キャプションは発言を文字に置き換えるたもので、Googleの音声認識技術が使われる。その際に、男性が話す言葉と女性が話す言葉でキャプションの精度は異なるのか、調査が実施された。(National Science Foundation (アメリカ国立科学財団) のRachael Tatmanによる研究。)

出典: YouTube

YouTubeは女性の声を正しく認識しない

その結果、YouTubeは男性の声を女性の声より正しく認識することが判明した。具体的には、音声認識精度は男性の声だと60%で、女性だと47%に下がる。つまり、女性は音声認識精度において差別を受けていることが分かった。この差がなぜ生まれるかについては、システムを詳しく検証する必要がある。しかし、Tatmanは教育データセットが男性にバイアスしているのではと推測する。音声サンプルは均等ではなく男性に偏っていることを意味する。AIの性能は教育データの品質に敏感に左右される。AIによる女性差別や人種差別が顕在化しているが、学習データが公正であることが問われている。

AIが乳がんを判定する

AIの中心技法であるDeep Learningは乳がん検査の判定で成果を上げている。検体のイメージをDeep Learningのネットワークに入力すると、AIはがんを発症する組織を高精度に検出する。今ではAIの検知精度が人間を上回り、多くの病院でこのシステムの採用が始まった。同時に、健康に見える組織がAIによりがん発症の可能性が高いと判定されたとき、医師と被験者はどう対応すべきかが議論になっている。AIの判定を信頼し、手術を行うかどうかの判断を迫られる。

AIはその理由を説明できない

遺伝子検査でも同様な問題が議論されている。乳がん発症を促進する遺伝子変異「BRCA」が検出されたとき、手術に踏み切るかどうかが問題となる。女優Angelina Jolieは「BRCA1」キャリアで手術を受けたことを公表した。しかし、AI検診のケースはこれとは異なる。AIは統計的手法で乳がんと判断するが、その組織が何故がんを発症するのかは説明できない。AIは時に人工無能と揶揄されるが、科学的根拠のない判定をどう解釈すべきか医学的な検証が始まっている。

銀行は与信審査でAIを使う

銀行やフィンテックベンチャーはローン審査でDeep Learningを使い始めた。ローン応募者のデータをアルゴリズムに入力すると瞬時にリスクを査定できる。高精度に短時間でローン審査ができることから、この手法が注目を集めている。一方、米国では州政府の多くは銀行にローン申し込みで不合格になった人にその理由を説明をすることを義務付けている。

応募者に十分な説明ができない

しかし、Deep Learningはブラックボックスで、銀行は応募者に十分な説明ができない。更に、ローン審査の基準を変えるときは、学習データを使ってアルゴリズムを再教育することとなる。ソフトウェアのロジックを変更するようにはいかず、大量のデータを読み込んでDeep Learningのパラメータを再設定する。金融業界でAIを導入することの是非が議論されている。

出典: Mahmood Sharif et al.

AIは眼鏡で騙される

Carnegie Mellon UniversityのMahmood Sharifらは、眼鏡で顔認証システムが誤作動することを突き止めた。これは「Accessorize to a Crime: Real and Stealthy Attacks on State-of-the-Art Face Recognition」として公開された。フレームの幅が少し広い眼鏡 (上の写真(a)の列) をかけると、システムはこれらの写真を顔として認識できない。つまり、街中に設置されている防犯カメラの監視システムをかいくぐることができる。

眼鏡で別人に成りすます

また、フレームのプリントパターンを変えると、顔認識システムは別の人物と間違って認識する。上の写真(b)から(d)の列がその事例で、上段の人物が眼鏡をかけることで、顔認識システムは下段の人物と誤認識する。(b)のケースでは、上段の男性が眼鏡をかけるとシステムは米国の女優Milla Jovovichと誤認した。顔認識システムはDeep Learningの手法で顔の特徴を把握するが、この事例から、目元のイメージが判定で使われていると推定できる。しかし、AIが実際にどういうロジックで顔認証をしているかは謎のままである。これが解明されない限り、顔認証システムを不正にすり抜ける犯罪を防ぐことはできない。

ニューラルネットワークと脳の類似性

AIの基礎をなすNeural Network (下の写真) でイメージを判定する時は、写真とそのタグ (名前などの種別) をネットワークに入力し、出力が正しく種別を判定できるよう教育する。教育過程ではネットワーク各層 (下の写真、縦方向の円の並び) 間の接続強度 (Weight) を調整する。この教育過程は脳が学習するとき、ニューロンの接続強度を調整する動きに似ているといわれる。

出典: Neural Networks and Deep Learning

ネットワークの中に分散して情報を格納

学習で得た接続強度は各ニューロン (上の写真の白丸の分部) に格納される。つまり、Neural Networkが学習するメカニズムの特徴はネットワークの中に分散して学習データを格納することにある。プログラムのようにデータを一か所に纏めて格納する訳ではない。人間の脳も同じメカニズムである。脳が電話番号を覚えるときには、最初の番号は多数のシナプスの中に散在して格納される。二番目の番号も同様に散在して格納されるが、一番目の番号と近い位置に格納されるといわれる。人間の脳を模したNeural Networkはデータ格納でも同じ方式となる。

知識がネットワークに焼き付いている

問題はこの格納メカニズムが解明されていないことにある。脳の構造を模したNeural Networkも同様に、情報が格納されるメカニズムの解明が進んでいない。Deep Learningの問題点を凝縮すると、知識がネットワークに焼き付いていることに起因する。ニューロンの数は数千万個に及び、ここに知識が散在して格納されている。知識はシステムを開発した人間ではなく、ネットワークが習得することが問題の本質となる。

自動運転車のアルゴリズム

Carnegie Mellon Universityは1990年代から自動運転技術の基礎研究を進めていた (下の写真はその当時の自動運転車)。当時、研究員であったDean Pomerleauは、カメラで捉えた映像で自動運転アルゴリズムを教育した。走行試験では、数分間アルゴリズムを教育し、その後でクルマを自動走行させる試験を繰り返した。試験はうまく進んだが、橋に近づいたときクルマは道路からそれる動きをした。しかし、アルゴリズムはブラックボックスでPomerleauはその原因が分からなかった。

出典: Dean Pomerleau et al.

試験を繰り返し問題点を特定

ソフトウェアをデバッグする要領でロジックを修正することができない。このためPomerleauは路上試験を繰り返すことで問題点を解明した。様々な状況で自動運転を繰り返し、経験的に問題点を突き止めた。それによると、クルマは路肩の外側に生えている草の部分を基準にして走行路を判定していることが分かった。橋に近づくと草の部分がなくなり、クルマは判断基準を失い、正常に走行できなくなる。自動運転技術をAIで実装するとクルマが正しく動くのか確信が持てなくなる。

大規模な走行試験で安全性確認

現在でも同じ問題を抱えている。自動運転車は無人で公道を走ることになるが、我々はAI技術を信用していいのかが問われている。AIの運転ロジックが分からない中、どう安全基準を作ればいいのか試行錯誤が続いている。その一つに、定められた距離を無事故で走行できれば安全とみなすという考え方がある。シンクタンクRand Corpによると、人間がクルマを1億マイル運転すると死亡事故は1.09回発生する。自動運転車が人間と同じくらい安全であることを証明するためには2.75億マイルを無事故で走る必要がある。人間レベルの安全性を証明するためには大規模な走行試験が必要となる。自動運転車の安全基準を設定する作業は難航している。

Deep Learningを使った運転技術

この問題を技術的に解明しようとする動きも始まった。NvidiaはDeep Learningを使った運転技術を開発している。自動運転システムは「DAVE-2」と呼ばれ、Neural Networkで構成される。人間がアルゴリズムに走行ルールを教えるのではなく、システムはNeural Networkで画像を処理し安全な経路を把握する。システムはカーブしている道路のイメージを読むと、そこから運転に必要な道路の特徴を把握する。

AIがルールを学習する

NvidiaはAIがどういう基準で意思決定しているのかの研究を進めている。今までブラックボックスであったAIの中身を解明する試みだ。下の写真が研究成果の一端で、AIが道路をどう理解しているかを示している。上段はカメラが捉えた画像で、下段はCNN (画像認識するNeural Network) がこれを読み込み、そこから道路の特徴を示している。特徴量は曲線が殆どで、CNNは道路の境界部分を目安に運転していることが分かる。この画面からAIが習得したドライブテクニックを人間がビジュアルに理解できる。

出典: Nvidia

2017年はAIロジックの解明が進む年

自動運転車を含む自立系システムはDeep Reinforcement Learning (深層強化学習) という手法を使い、アルゴリズムが試行錯誤を繰り返してポリシーを学習する。この技法は囲碁チャンピオンを破ったGoogle AlphaGoでも使われている。Deep Reinforcement Learningの中身もブラックボックスで、これからこの解明も進むことになる。AIは目覚ましい成果を上げ世界を変え続けるが、2017年はAIのブラックボックスを開けそのロジックの解明が進む年となる。

Facebookで虚偽ニュースが増幅し大統領選挙が混乱、AIで記事の真偽を判定する試みが始まる

アメリカ大統領選挙では偽りのニュースが飛び交い、有権者が大きな影響を受けた。ニュースの題名は衝撃的なものが多く、記事は著者の主張が論理的に展開され疑問を挟む余地はない。偽のニュースはFacebookに表示され、口コミで広がり大きな社会問題となった。Obama大統領が名指しで問題点を指摘し、Facebookは虚偽ニュース対応に乗り出した。

出典: Snopes.com  

虚偽ニュースによりTrump氏が勝利した

Facebookが表示するニュースに虚偽情報が含まれていることは早くから問題となっていた。大統領選挙では虚偽ニュースによりTrump氏が勝利したとまで言われ、この件が一気に政治問題に発展した。FacebookはTrump氏を推す虚偽ニュースをNews Feedに掲載し、口コミでTrump支援者が増えたとされる。CEOのMark Zuckerbergはこれが勝敗に影響したという解釈を否定しているが、偽ニュースを抑止する対策をとることを表明した。

ローマ法王がTrump氏を大統領に推奨する

大統領選挙では数多くの虚偽ニュースが飛び交った。ニュースはセンセーショナルで人目を引くものが多い。その事例として、WTOE 5 Newsというサイトは「ローマ法王がTrump氏を大統領に推奨する」という偽りの記事を発信した。これに対し、ニュースを検証するサイトはこの記事は偽りと注意を喚起した (上の写真)。これに先立ち、「ローマ法王がClinton氏を大統領に推奨する」という記事も発信された。選挙が終わり、「ローマ法王は選挙結果に失望した」という記事も掲載された。

Clinton氏が米国国歌を見直すべきと提案

また、National Reportというサイトは「Clinton氏が米国国歌を見直すべきと提案した」という偽りの記事を掲載した (下の写真)。更に、Clinton氏はその理由を「歌詞が拳銃などによる暴力につながる」とし、「国歌は宗教と国家の分離原則に抵触する」と述べたとしている。

出典: National Report

虚偽であると判断するのは難しい

このニュースは事実ではなく虚偽の内容である。しかし、怪しいとは感じるものの、一読してこれらが虚偽であると判断するのは難しい。ニュースサイトの名前や外観やURLは本物のように見える。記事のタイトルからも不正を感じさせるものはない。記事を読み始めると、考え方に共感するところもあり、最後まで読んでしまう。ところどころ違和感を感じるが、記事が虚偽であることは見抜けない。むしろ、興味深い内容に惹かれる。

偽ニュースを発信するサイトとは

このNational Reportは名前から権威あるニュースサイトのように思える。同社はホームページで中立ニュースを発信するとうたっている。しかし、National Reportが掲載するニュースは事実ではなく、虚偽ニュースだけを発信する。この目的は魅力的な虚偽のニュースでページビューをあげ、サイトに掲載する広告で収入を得ることにある。ページビューが高いニュースは一件で1万ドルの広告収入があるとされる。但し、今ではGoogleなどが虚偽ニュースサイトへの広告掲示を停止し、National Reportサイトでの広告収入は激減した。

ソーシャルメディアが偽ニュースを増幅

National Reportは虚偽ニュースを発信してきたが、同社だけでは社会的な影響は限られている。しかし、Facebookなどソーシャルメディアに記事が表示され、賛同者の数が増え、記事へのリンクが転載されることで、この記事の出現回数が爆発的に増える。Facebookは人気記事をTrendingとして示し、ここに虚偽ニュースが掲載されると全国規模で広がる。このようにFacebookなどのソーシャル機能が悪用され、虚偽ニュースが世論を動かす力となった。

Trump陣営が虚偽のニュースを引用

大統領選挙ではTrump陣営が虚偽ニュースを引用してClinton候補を攻撃する場面もあった。Eric Trump氏は偽ニュースだとは思わず、記事の内容を根拠に論戦を展開した。ツイートで「Trump講演会で反対運動をする活動家はClinton陣営から3500ドル貰っている」という記事を引用した (下の写真)。しかし、このニュース記事は真実ではなかった。ツイートは削除されたが、そのコピーが今でも多くのサイトに掲載されている。選挙戦当事者も偽ニュースを見分けるのに時間がかかった。

出典: Eric Trump

Facebookの偽ニュース対策

Facebookは早くから偽ニュース (Hoaxes) への対策をとっている。2015年1月には会員が偽ニュース記事を報告できる仕組みを導入した。これはスパムメールを申告するように、News Feedに表示されたニュースが真実ではない場合にはその旨を申告できる。読者からの申告で偽ニュースがNews Feedに表示される回数が減らされる。クラウドソーシングの手法での対応策を始めた。

サイトに誘導する記事や偽記事を抑制

Facebookは2016年8月には、News Feedから「Clickbait」記事を削除する対策を打ち出した。Clickbaitとは意図的に内容を伏せてサイトに誘導する手法を指す。例えば記事の導入部分で「信じられないことに、昨夜レッドカーペットの上でセレブ同士が喧嘩になった。それは誰なのか。。。」と書くと、気になってリンクをクリックして続きを読む。これはサイトに誘導する常套手法であるがFacebook利用者にはたいへん不評。FacebookはClickbaitがNews Feedに出現する回数を抑制した。

出典: Celeb Style Weekly

Machine Learningの手法で偽ニュースを特定

Clickbaitには読者をミスリードする記事も含まれ、偽ニュースを抑制する対策も取っている。Clickbait記事対策ではアルゴリズムを開発し、検出プロセスを自動化した。Facebookはサイトに誘導する記事やミスリーディングな題名の事例を集めClickbaitのデータセットを作成した。これら事例を通常ニュースの題名と比較し、Clickbaitに特有なシグナルを特定した。Clickbaitを検出するアルゴリズムを開発し、これをMachine Learningの手法で教育した。アルゴリズムは学習を重ね検出精度を上げていく。これはスパムメールを検出する方式に似ており、News Feedから虚偽ニュースを排除できると期待されてきた。

大統領選挙では偽ニュースを防げなかった

このような対策をとっているにも拘わらず偽ニュースは増え続け、大統領選挙では有権者を混乱させる原因となった。Facebookが開発したアルゴリズムはニュースタイトルを基準に判定するので偽ニュースを見分ける精度が十分とは言えない。本格的に対応するにはタイトルに加え、本文に踏み込んだ判定が必要となる。

記事を虚偽と判定するのは人間でも難しい

前述の通り記事を虚偽と判定するのは人間でも難しい。明らかな偽りを判定するのは容易だが、記事の内容を把握し、事実関係の検証が求められる。(下の写真は明らかに虚偽ニュースと分かる事例。大統領選挙でTrump氏の勝利が決まった直後、「Obama大統領は大統領令を発令し選挙結果を検証する」という記事が発行された。)

出典: ABCNews.com.co

事実を検証する作業が求められる

多くのケースでニュース記事を読んだだけではそれが真実かどうかを判断するのが難しい。記事で述べられる主張を裏付ける事実を確認する作業が必要になる。主張の出典を探し事実関係を確認する。また、主張を裏付ける事実が確認できたとしても、記事の中で事実を誇張したり、拡大解釈するケースは少なくない。記事検証ではこれらのステップを踏み、内容が正しいかどうかの判定を下す。

真実を突き止めるには限界がある

記事検証では真偽を判定するのが目的であるが、判定できないケースも多々ある。Trump氏が大統領に選ばれたことに抗議して#NotMyPresidentというデモが全米各地で起こった。デモ参加者はClinton支持者で、Trump氏は我々の大統領ではないと抗議の意思を表示した。記事は「デモ参加者は投票所には行っておらず、Clinton氏に投票していない」と分析する (下の写真)。しかし、この事実関係は確認できず、この記事の真偽は判定できない。真実を突き止めるには限界があるのも事実。

出典: ZeroHedge

Facebook記事の真偽を判定するソフト

この問題に大学生たちが挑んでいる。Facebookに掲載される記事の真偽を判定する技法を開発した。大学生たちはAIを最大限に活用し、Facebook記事を解析するソフトウェア「FiB」を開発した。FiBはブラウザーのプラグインとして実装され、Facebook記事を読みその内容を判定する。記事が虚偽であると「Not Verified」と表示する。一方、真実であると「Verified」と表示する。(下の写真はNot Verifiedと判定された事例。「大麻ががん細胞を破壊する」という記事を解析し、これは虚偽であると判定した。)

AIクラウドを使って真偽を判断

FiBはAIを使って真偽を判断する。投稿された記事に掲載されている写真を認識し、それをテキストに変換する。また記事からはキーワードを抽出する。検索エンジンでこれらの出典を調べ、事実かどうかを確認する。更に、Twitter記事のスクリーンショットが掲載されている場合は、その出典をTwitterで検索する。Twitterスクリーンショットが偽でないことを確認する。

Facebookより先にソリューションを開発

学生たちは公開されているAIクラウドのAPIを最大限に活用してシステムを作った。具体的には、Microsoft Cognitive Services、Twitter Search API、Google Safe Browsing APIなどを使っている。記事判定の精度の検証はこれからであるが、世界最先端のAI技術を持つFacebookより先にソリューションを開発したことは特筆に値する。

出典: FiB Project

ファクトチェックサイトが注意を喚起

アルゴリズム開発とは別に、多くの団体が人手で記事の真偽を判定している。これらはファクトチェックサイトと呼ばれ、大統領選挙では有権者に偽ニュースに誘導されないよう注意を喚起した。その代表がFactCheck.orgという独立の非営利団体 (下の写真)。University of Pennsylvaniaの研究機関として活動を開始し、政治問題に関し政治家の主張の真偽を詳細に検証する。また、読者に偽ニュースを見分ける方法などを指導する。

(下の写真はFactCheck.orgが政治家の主張を分析した事例。下院議長Paul Ryanは米国医療制度Medicareはオバマケアーにより破たんしたと主張する。しかし、FactCheck.orgはこの主張は間違いと結論付けた。)

人気のファクトチェックサイト

人気のファクトチェックサイトはSnopes.com (先頭の写真) で1995年に設立された。このサイトはメールやフォーラムを対象に記事の真偽を判定する目的で設立された。大統領選挙では政治ニュースに焦点を当て、問題点を指摘し有権者に注意を喚起した。分かりやすい表現で多くの人に利用されている。また政治問題だけでなく、ビジネス、エンターテイメント、健康、宗教、テクノロジーなど幅広い分野をカバーする。

Fake Newsは後を絶たない

大統領選挙が終了した後も偽ニュースは後を絶たない。民間人に贈られる最高位の勲章「Presidential Medal of Freedom」授与式が11月22日、ホワイトハウスで執り行われた。映画俳優Robert De NiroらにObama大統領からメダルが授与された。一方、Clint EastwoodのTwitterにメダル授与を拒否したとのコメントが掲載された。その理由としてObama氏は私の大統領ではないと述べている。これは真実ではなく、Eastwoodになりすました人物が発信したもので、ソーシャルメディアから偽りのニュースが流れ続けている。

出典: FactCheck.org

Facebookは米国最大のメディア企業

ソーシャルメディアが生活に浸透し、ニュースの読み方が大きく変わってきた。Pew Researchによると米国の成人の62%がソーシャルメディアでニュースを読む。これをメディア別に分類すると、米国の成人の44%がFacebookでニュースを読んでいる。YouTubeやTwitterがこれに続くが、Facebookがニュース配信メディアとしてトップの位置にいる。

Facebookの責任論

ZuckerbergはFacebookはメディア企業ではなく、記事の真偽を自社で判定すべきでないとの立場をとってきた。記事の真偽の判断は読者に委ねてきた。しかし、Facebookが米国最大のニュース配信企業となっている事実を勘案すると、掲示するニュースの品質についてFacebookが責任を負うべきという議論が主流となっている。同様に、GoogleやTwitterも対策を求められている。Googleは既に、偽ニュースサイトへの広告配信を停止した。

Facebookが対策に乗り出す

偽ニュースが国民的な問題となり、Facebook社内で問題意識を持つ社員が集い、自主的に問題解決に向け動き始めたとも伝えられる。Zuckerbergもポジションを変え、対策に乗り出すと表明した。今頃はAIを駆使したソリューションが開発されているのかもしれない。メールからスパムがフィルターされたように、News Feedから偽ニュースが消えることを期待する。

トランプ大統領誕生でベーシックインカムの議論が盛り上がる、AIによる大失業時代には必須の政策か

Trump氏の勝利は行き過ぎた格差社会に不満を抱えている労働者層からの支持によるところが大きい。Trump新大統領は格差を是正することを掲げ、米国に雇用を呼び戻し賃金を上げると約束した (下の写真)。選挙結果を受けシリコンバレーではUniversal Basic Income (最低所得保障) の議論がクローズアップされている。低所得者層に現金を支給し、行き過ぎた格差を是正する試みが始まった。

出典: Donald J. Trump for President, Inc.

Universal Basic Incomeとは

AIやロボティックの進化で多くの人が職を失うことが懸念される。失業者対策の一つとしてUniversal Basic Income (以降ベーシックインカムと記載) が議論されてきた。ベーシックインカムとは社会保障の一種で、市民は定期的に一定額の給付金を政府や公共機関から受ける制度を指す。市民は受け取るお金で最低限の生活を送ることができる。

ベーシックインカムの争点を纏めると

ベーシックインカムの基本コンセプトは貧困層だけでなく国民全員に補助金を支給することにある。これを導入することで、福利厚生施策を廃止してベーシックインカムに一本化する。住宅補助、食糧支援、高齢者医療などの施策の代わりに、ベーシックインカムを運用する。これにより政府組織がシンプルになり、福利厚生政策の運用コストが下がるという利点がある。

一方、ベーシックインカム導入には大規模な財源が必要でこれが最大の障壁となる。更に、国民に生活費を支給すると勤労意欲が失われるという懸念が根強くある。ただ近年は、AIに起因する失業対策としてベーシックインカムの必要性が注目を集めている。Trump新大統領の誕生で社会格差の深刻さが認識され、ベーシックインカムの議論が一気に活発になった。

AI研究者がベーシックインカムの必要性を訴える

AI研究を牽引する著名人がベーシックインカムの必要性を訴えている。Baidu研究所所長Andrew Ngは大統領選挙の翌日、ベーシックインカムの必要性をブログに投稿した (下の写真)。Ngは「選挙結果は不公平感による不満を反映している」と述べ、「住民の底辺を支えるためにベーシックインカムが必要」と主張。併せて「すべての人が(社会の階段を)上るために教育も必要」と述べている。大統領選挙で露呈した格差問題を解決する施策の一つとしてベーシックインカムに注目している。

出典: Andrew Ng @ Twitter

既に実証実験が進んでいる

高度なAI技術を生み出すシリコンバレーで、既にベーシックインカムの実証実験が進んでいる。著名インキュベータY Combinator社長Sam Altmanは2016年5月、ベーシックインカムの試験運用を始めると発表した (下の写真)。San Francisco対岸のOaklandでトライアルが始まった。この地区で100家族を選び、毎月1000ドルから2000ドル程度の現金を支給する。期間は6か月から1年の間で、受給者は受け取ったお金を自由に使うことができる。

Oaklandは経済格差が顕著な場所

Oaklandは富裕者層と貧困層の間で経済格差が顕著な都市である。同時に、Oaklandはハイテク企業の流入で地域住民との関係が悪化している。これはGentrification (都市部の高級化) と呼ばれ、裕福なハイテク企業社員が街に入り物価や住居費が高騰し、住民が郊外に転出せざるを得ない問題が発生している。Y Combinatorはこれら住民にベーシックインカムを提供することで問題を緩和できるのか検証を進めている。この実証実験が上手くいけば、本格的なプログラムに移行するとしている。

出典: Y Combinator  

なぜ民間企業が社会保障施策を手掛けるのか

ベーシックインカムの実証実験はカナダやフィンランドなどで実施され、Oaklandのプロジェクトが初めてというわけではない。しかし、ベーシックインカムという社会保障政策を民間企業が手掛けている点に特徴がある。なぜ民間企業が担うのかという疑問に対しては、Y Combinatorは明確な回答は示していない。ベーシックインカムは現在施行されている失業保険などのセーフティネットの代わりとなると述べるにとどまっている。

AI開発企業の新しい責務となるのか

技術進化により職が失われていくと、多くの人が収入を失い生活に行き詰る。その原因を生み出した企業は社会的な責務を果たすべきという見方が生まれてきた。その一つの手段としてベーシックインカムに注目が集まっている。今までもITによる自動化で多くの職がコンピュータに置き換えられた。しかしAIによる自動化は今までと比べ物にならないほど社会に与える影響が大きい。Y Combinatorの実証実験は、AIやロボットや自動運転車を開発する企業は社会貢献のあり方を見直すべきとのメッセージを含んでいる。

Elon Muskはベーシックインカムの必要性を認める

シリコンバレーの著名人はベーシックインカムに関し、将来を見据えた考え方を示している。Tesla創業者Elon MuskはCNBC放送のインタビューで、ベーシックインカムは必要になるとの見解を示した (下の写真)。Teslaは完全自動運転車の開発を目指している。また、Tesla製造工場はロボットによる自動化が進んでいる。これにより職業ドライバーや工場労働者は自動運転車やロボットに置き換えられ職を失う可能性が高くなる。

出典: CNBC  

社会格差が進むと平和な社会が脅かされる

この流れは自動車産業だけでなく他の産業でも起こり、自動化による失業が世界規模で発生する。人員削減で企業は高い利益を生み出すことができるが、利益を再分配するメカニズムが無ければ、収入の格差が今以上に増大する。ひいては、社会や経済が不安定になり、平和な世界が脅かされる危険性を含む。Muskは自社で技術開発を進めるだけでなく、会社としての社会的責任を負う必要があるとを認めている。

仕事をしないと人は存在価値を見失う

ベーシックインカムを導入すると最低限の生活が保障され安定した生活ができる。人々は働かなくても一定の生活が約束される。しかし、働かなくても生活ができれば、人はその存在意義を問われることになる。人は生活を支えるためには嫌な仕事でもこなすが、同時に、仕事を通して自分の価値を証明し、存在意義を確認している。仕事をしなくても生活できれば、自分の価値を見失うという問題が生じる。

人間のクリエイティビティを解き放つ

その一方、いやな仕事から解放されると人間は創造性を発揮するという考え方もある。ベーシックインカムで最低限の生活ができると、人々は興味を持っていることを自由に探究できる。絵を描くのが好きな人は時間に拘束されないで、この道を探求できる。プログラミングが好きな人は自由にハッキングできる。ベーシックインカムが導入されていない現在でも、創造性は個人の自由な活動から生まれることが見受けられる。人間のように振る舞う高度な自動運転アルゴリズム (Comma.ai) は天才青年 (George Hotz) の趣味が高じて生まれた。

近未来のすがた:ロボットが生産し人が消費する社会へ

Singularity (AIが人類を凌駕するポイント) の到来を主張するRay Kurzweil (現在はGoogle研究員) も同様な考え方を示しているが、AI大量失業時代の次はAIが人類を養う時代が来ると予測する。AIやロボットによる自動技術の進化で、全人類の生活を支えるだけの生産ができ、人は働く必要はなくなる。そうなると人々は働かなくなるのではなく、「仕事」を続けると主張。「仕事」とは誰かに命じられてこなすタスクではなく、自分が取り組みたいことを指す。つまり、生きがいを感じない労働から解放されることを意味する。

人類の創造性の爆発が起こる

いつの時代も人間は働くことに喜びを感じる。そして地球規模で人々が「仕事」をすると、人類の創造性の爆発が起こるとも予言する。高度AI社会では地球規模で創造性が開花し、新しい文明が生まれる。このバラ色の予測に対し反対意見も少なくないが、ベーシックインカムは常にAIの進化と対で議論される。

国民的な議論が広がる兆し

翻ってTrump新大統領とともに上院と下院で勝利した共和党はベーシックインカムの考え方と親和性が高い。Obama政権が運営してきた社会保障制度に一貫して反対の意思を示し、共和党は小さな政府に引き戻すと繰り返し主張している。 (下のグラフは食糧支援を受けている人の数の推移でObama政権で急増していると主張。社会保障制度が肥大化していることを意味する。) Trump新政権の四年間はAIやロボティックス技術が劇的に向上し、大量失業時代に突入することが懸念される。実証実験を含む検証作業などを通し、ベーシックインカムの国民的な議論が広がる兆しを感じる。

出典: Donald J. Trump for President, Inc.  

Trump大統領誕生で試練の時を迎えるシリコンバレー、次期政権はAIと失業対策で重い課題を背負う

Trump大統領の誕生で重大な影響を受けるのはシリコンバレーであることは間違いない。Trump氏は製造業を米国に呼び戻すと宣言したが、ハイテク産業については敵対的な見解を示している。シリコンバレーでは人々が将来について不安を抱いている。そもそもなぜTrump氏が勝利したのかという議論も始まっている。強いアメリカを掲げるTrump氏は (下の写真)、シリコンバレーとどう向き合うのか、歴史的な変革の時を迎えようとしている。

出典: Donald J. Trump for President, Inc.

選挙結果は予想外の展開

大統領選挙はClinton候補がTrump候補に大きく差をつけて勝利すると思われていた。New York Timesは80%の確率でClinton候補が勝利すると予想していた (下のグラフ、左端のポイント)。しかし、開票が始まるとTrump候補の善戦が目立ってきた。スイングステートで両者の接戦が続いた。均衡が破れたのはTrump候補がフロリダ州を制したときで、両者の情勢が逆転した (下のグラフ、グラフが交差している点、米国太平洋標準時19時ころ)。

CNNはこの事態を予測していなかった

開票が進むにつれ、スイングステートだけでなく、民主党の地盤であるペンシルベニア州、ウイスコンシン州で敗戦し、ミシガン州もTrump候補が優勢となった。Trump候補の勝利が濃厚となった。CNNで開票速報を見ていたが、キャスターはClinton候補が逆転すると繰り返し、事態の重大性を把握するまでに時間を要した。深夜にClinton候補の敗北宣言でTrump候補の勝利が確定した。

出典: New York Times

将来に対する恐怖心

Clinton候補を支援してきたシリコンバレーで落胆が広がっている。著名インキュベーターY Combinator社長のSam Altmanは、ツイッターで「今夜は悲しくて失望した」と述べている。また、「(この結果が) 怖くもある」とも述べている。このツイートがシリコンバレーのメンタリティを端的に表している。Clinton候補が破れて悲しい気持ちより、これから社会がどう変わるのか、人々は大きな不安を抱いている。

Appleは社員の結束を呼び掛ける

Appleも例ではなく、社員は会社の将来に大きな不安を抱いている。Trump氏は選挙戦でAppleという名前を挙げて、FBI捜査へ協力しない態度や海外での製造を批判してきた。このため、CEOのTime Cookは社員に対し異例のメモを送り結束を呼び掛けた。メモの中でCookはApple社員に、ともに進み続けようと述べている。このメモが象徴しているように、シリコンバレーの企業はTrump氏がどんな政策を打ち出すのか見通せず、不安定な状態に置かれている。社員は、自分は仕事を続けることができるのか、答えが見つからない状態が続く。

従来の世論調査が機能しなかった

メディアの予想に反して、なぜTrump候補が勝ったのか検証が始まっている。投票前の世論調査ではClinton候補がTrump候補を3.2ポイントリードしていた (下のグラフ、RealClearPoliticsによる集計)。しかし、最終結果はClinton候補は0.2ポイントのリードに留まり、調査結果と投票結果が大きく食い違った。Trump氏という異色の候補者の登場で、従来手法がうまく機能しなかったとの解釈もある。また、Trump候補を推す人はそれをはっきり表明しない傾向にある。”隠れTrump支持者”で、過激な発言をする候補者への支持を表明するのをためらう有権者が少なくなかった。

出典: RealClearPolitics

Trump候補優位を把握していた大学

しかし、USC (University of Southern California、南カリフォルニア大学) で開発された統計手法は、Trump候補が優勢であったことを把握していた。このサイトによると、選挙当日はTrump氏が3.2ポイントの差で勝つと予想した (下のグラフ右端のポイント、Los Angeles Timesが掲載)。選挙戦では両者のポジションが頻繁に入れ替わったが、討論会以降は一貫してTrump氏がClinton氏をリードしてきた。投票日直前に、FBIがClinton氏のEメールの捜査を再開したと発表し、Trump氏が一気にリードを広げた。これが決定打となり、Clinton候補は最終盤で劣勢に立たされ、投票日を迎えた。

出典: University of Southern California

カリフォルニア州独立運動

投票日の翌日は、Trump新大統領に反対の意思を示すため、全米各地で抗議集会が開かれた。#NotMyPresidentというツイッターのハッシュタグで集会が企画され、New YorkやLos Angelesで大規模な抗議集会が続いている。シリコンバレーではSan Franciscoで開かれ、Oaklandでは暴動が起こり住民は不安な夜を送った。Trump氏当選で、カリフォルニア州独立運動 (下の写真) が勢いを増している。イギリスがEUから脱退したように、この運動は「Calexit (キャレクジット)」と呼ばれている。カリフォルニア州がスコットランドの立場となり、Trump大統領の米国から独立を目指す。

出典: YesCalifornia.org

シリコンバレーにもTrump支持者がいる

一方、シリコンバレーでTrump候補を支援してきた人物もいる。PayPal共同創設者であるPeter Theilはシリコンバレーの著名なベンチャーキャピタリストである。ThielはFacebookやPalantirなどへの投資で成功し、26億ドルの資産があるとされる。ThielはTrump候補に寄付金を拠出し、同氏の主張を論理的に代弁してきた。Theilは共和党党大会に招かれ独自の見解を展開した。

シリコンバレーの責任

Thielによると、シリコンバレーは米国社会からかい離している。シリコンバレーでイノベーションが生まれビジネスが興隆している。しかし、成功は個人の資産を増やすだけで、米国市民の生活が豊かになっているわけではない。世帯当たりの収入は長い間低迷し、反対に、米国の医療費は世界で一番高い。学生は奨学金で巨額なローンを抱え、就職しても返済に追われている。シリコンバレーは社会の現状を理解し、企業としての責任を果たすべきと主張する。

サイレントマジョリティー

大統領選挙結果はシリコンバレーが米国社会からかい離していることを物語っている。シリコンバレーだけでなくメディアも含め、米国のエスタブリッシュメントは市民の心情を読み誤った。これだけ多くの市民が今の政治に大きな不満を抱いているとは予想外であった。Obama政権はリーマンショックから立ち直ったと主張するが、恩恵を受けているのはエスタブリッシュメントで、ブルーカラーとの差が開いた。Clinton候補の敗北は行き過ぎた格差社会に起因するといっても過言ではない。投票結果は声を上げない一般市民の意見が反映されている。

これからの四年間はAIに起因する失業対策

大統領に当選したTrump氏は一般市民の声に応えることが責務となる。米国に製造業を呼び戻し、雇用を増やし賃金を上げると約束している。一方、製造業を含む全産業がAIやロボットによる自動化で激変している。これからの四年間はAIや自動運転車を含むロボティックスに起因する失業問題が続出し、メキシコではなくテクノロジーが職を奪うことになる。失業対策が大統領の大きな使命となる。これと並行して、Trump政権のシリコンバレーへのポジションも定まり、AIを含むイノベーションを生み続けることができるのかが決まる。

(下の写真は近所の投票所。投票は大統領選挙の他に、連邦政府の上院・下院議員、及び、州政府の上院・下院議員を選ぶ。各地域での住民投票も併せて実施される。この結果、カリフォルニア州では大麻の使用が認められた。投票用紙はリーガルサイズで6ページ分に及び、40項目について意思を表明する。このため、事前に模擬投票用紙にマークしておき、投票所ではこれを転写する。)

出典: VentureClef

再びチェンジ

Changeを掲げて当選したObama大統領であるが、共和党が多数を占める議会との関係が崩れ、政治が停滞し改革が進まない。個人所得が思うように上がらない上に、オバマケアーの保険料が年々上昇する。Trump氏は「Make America Great Again」と唱え、再びチェンジをキーワードに当選した。Trump氏は政治経験はなく実業家で、ホワイトハウスにビジネスの手法を持ち込むことになる。新しい視点から政治が進むことに期待したい。