シリコンバレーの新型コロナウイルス出口戦略、ロボットによる配送サービスが始まった

都市閉鎖を解除して元の生活に戻るためには、経済活動の再始動とウイルス感染対策の二つの車輪をバランスよく回す必要がある。新型コロナウイルスの出口戦略の策定が求められるなか、シリコンバレーはハイテクでその解を探っている。マウンテンビュー市はロボットによる宅配サービスを認め、非接触で安全なソリューションとして注目されている。

出典: VentureClef

配送ロボット「Starship」

このサービスを始めたのはサンフランシスコに拠点を置くベンチャー企業Starship Technologiesで、荷物配送ロボット「Starship」の営業運転を始めた。Starshipは市街地のレストランと提携し、注文を受けた料理をロボットで消費者宅まで配送する。サンタクララ群は外出禁止令を発令し、レストランは店舗での営業を禁止され、事業者はビジネスの存続に危機感を募らせている。

実際に利用してみると

今月から運用が始まり、実際に使ってみたが、可愛いロボットがランチを配送してくれた。使い方は従来の宅配サービスと同じで、スマホアプリで食事を注文すると、人間に代わりロボットが目的地まで自動走行して食事を届ける。(下の写真、左側:多くのレストランがロボット宅配サービスを展開中、右側:その中でCrepevineというレストランでクレープを注文)。

出典: VentureClef

レストランで料理を積み込む

注文を受けたレストランは料理を調理して、店頭にスタンバイしているロボットの荷物ベイにパッケージを積み込む(先頭の写真)。店舗スタッフは料理を積み込む前に、荷物ベイを殺菌ワイプで拭き、コロナ対策が取られる。準備が整うと、店舗スタッフは専用アプリを操作してロボットを発進させる。

ロボットは安全に走行

ロボットは目的地まで自動で歩道を走行する。ロボットの走行速度は意外に速く、駆け足しないと追い付かない。しかし、人込みや障害物がある個所では速度を落とし、安全な経路を見つけてゆっくり通過する。横断歩道では信号を認識でき、赤の時は歩道で停止し(下の写真、左側)、青になると発進し道路を横断する。歩道でも駐車場の入り口では一旦停止し、安全を確認して進行する(下の写真、右側)。

出典: VentureClef

目的地に到着

ロボットが目的地に到着すると、スマホアプリにメッセージが表示される。ここで「Unlock」ボタンを押すと(下の写真、左側)、荷物ベイのカバーが開錠される。カバーを空けて(下の写真、右側)、積まれているパッケージを取り出す。そしてカバーを閉じ、スマホアプリの「Send Robot Away」ボタンを押すとロボットは自動でレストランまで帰還する。

出典: VentureClef

ロボットの安全性

ロボットと一緒に歩いてみたが、慎重に走行し安全であると感じた。人間が歩道で立ち話をしていて、通路を塞いでいるときは、ロボットはゆっくりとその脇を通過した(下の写真、左側:このケースでは歩行者が道を譲った)。信号のない横断歩道を渡ることができ、この際は、慎重に左右を見てクルマがいないのを確認して横断した(下の写真、右側)。これだと市街地で歩行者が行き交う中で走行することができると感じた。

出典: VentureClef

レストランやスーパーマーケットが参加

市街地で多くのロボットが運行しているが、これらは複数の店舗で共有して使われている。レストランの他にカフェやスーパーマーケットがロボットを使って商品を配送している。ロボットはステージングエリアで待機しており(下の写真)、リクエストに応じて店舗に移動する。また、配送先から帰還したロボットはここに停止し次の指示を待つ。

出典: VentureClef

自律走行の仕組み

Starshipは自動運転車のように自律的に走行する。車体には10台のカメラとセンサーを搭載し、カメラで周囲360度の映像を撮影する。カメラがとらえたイメージをAI(Convolutional Neural Network)で解析し、周囲のオブジェクトの種類や歩道を把握する。ロボットは高額なLidarは搭載しておらず、カメラだけで走行する構成で、AIの技術力がカギになる。

小さなAI

更に、AIは搭載されているGPUで処理され、大量の電力を消費する。自動運転車と異なり、配送ロボットはバッテリー容量が小さいため、ニューラルネットワークのサイズを小さくした軽量AI「Tiny AI」の開発が求められる。

新型コロナウイルス

Starshipの運用が始まった背景には新型コロナウイルスによる都市閉鎖がある。レストランは店舗での営業が禁止され、出前サービスと店頭受け取りに限定され、売り上げが大きく落ち込んでいる。スーパーマーケットはオープンしているが消費者は感染のリスクを感じ足が遠のく。このため、人間と人間が接触しないで配送できるロボットが注目されている。

マウンテンビュー市の判断

マウンテンビュー市においてStarshipは企業キャンパス(Intuit社)でロボット配送サービスを展開しているが、安全性の観点から市街地における運用は許可されなかった。しかし、都市ロックダウンでレストランなどが苦境に陥り、これを救済するために市議会はStarshipが公道で配送サービスを実行することを認める判断を下した。これは「Delivery Device Pilot Program」として運用され、一定の制限(同時に走行できる台数は10台まで)の下で、安全を確保して実施される。

出典: VentureClef

新型コロナウイルス社会

新型コロナウイルス社会で安全に事業を再開するには自動化がカギとなる。人間に代わりロボットが商品を配送することで感染のリスクを下げる。一方、歩行者で込み合う歩道で接触することなく安全に運行するためには、ロボットの技術開発だけでなく、歩道の整備など社会インフラの見直しも必要になる。更に、住民はロボットが生活空間に入ることを受け入れることが前提条件で、そのための啓もう活動も求められる。解決すべき課題は少なくないが、新型コロナウイルスの出口戦略ではハイテクの活用がカギとなる。

新型コロナウイルスに関する偽情報のパンデミック、デマの発生源はどこ?デマを拡散しているのは誰?

新型コロナウイルスに関する偽情報が世界を駆け巡っている。Bill Gatesが新型コロナウイルスを広めている。5Gの電波が新型コロナウイルスに対する免疫を弱める。漂白剤を飲めば病気が治る。新型コロナウイルスは嘘で病院には患者は一人もいない。ソーシャルメディアで新型コロナウイルスに関するデマや陰謀説が拡散しているが、その経路をたどると偽情報を発信する団体とその目的が見えてくる。

出典: NBC News

世界危機における情報伝達の特性

データサイエンス企業Graphikaはソーシャルメディアを解析し、新型コロナウイルスに関する偽情報(Misinformation)の発信源を可視化し、その結果を公開した。これによると、感染が拡大する中、大量の偽情報がソーシャルメディアを通じて拡散しているが、その発信源は際立った特性を示している。これを見ると社会が危機に瀕した際に、デマがどのように広がるかを理解でき、フェイクニュース対策に応用できる。

ツイッターを追跡調査

この調査は2020年1月から3月まで、ツイッターに掲載されたツイートを対象に、新型コロナウイルスに関する情報を発信する団体を追跡した。これによると、ソーシャルメディアで新型コロナウイルスに関する偏った情報が伝わり、これが特定のグループで増幅され、偽情報が拡散するプロセスとなる。新型コロナウイルスについて、同じテーマの記事が繰り返し大量に生成され、ハッシュタグが異常な速さで伝わっている。

米国の右翼団体がデマを拡散

具体的には、ツイッターのハッシュタグを分析し、ツイートがどの集団で発信されているかを可視化した(下の写真)。2020年2月は、米国の右翼団体(US Right Wing、下の写真左側、緑色の部分)や香港の団体(Hong Kong、下の写真左側、黄色の部分)で、メガクラスター(Mega Cluster)ができており、これらの集団が大量のツイートを発信していることを意味する。米国においては右翼団体が偽情報を大量に拡散し、新型コロナウイルスに関するデマを使って活動を活発に進めている。

出典: Graphika

偽情報の発信量が少なくなる

一方、2020年3月は、メガクラスターはなくなり、小さなクラスターに分散していることが分かる(上の写真、右側)。これは、右翼団体の活動が弱まり、偽情報の発信量が少なくなっていることを示す。この理由は、政府機関や報道各社から正しい情報が大量に発信され、市民の啓もうが進み、偽情報が打ち消されているため。また、ソーシャルメディアは偽情報を発信するアカウントを削除したことも影響している。3月には偽情報の封じ込めに一定の成果があったことを示している。

米国の右翼団体とは

米国には右翼団体が数多く存在するが、その中で注視されているのが「QAnon(キュー・アノン)」という団体である。QAnonは極右思想(Far-Right Politics)を持つ団体で、2017年ころに設立され、トランプ政権を支える活動を展開している。政界のエリート集団「Deep State」がトランプ大統領を政権から引き下ろす工作をしているが、QAnonがこれを守るために活動している。Deep Stateは根拠のない陰謀説であるが、トランプ支持者の多くがこれを信じ、活動に参加している。

陰謀説1:Bill Gateが新型コロナウイルスを拡散

QAnonを筆頭とする極右団体はマイクロソフト創業者Bill Gatesが新型コロナウイルスを広げているとの偽情報を発信している。ツイッターで、Gatesが出資する研究機関が新型コロナウイルスに関する特許を持っており、ワクチンが開発されているとのデマが広がっている。極右団体は、新型コロナウイルスを治療するワクチンが開発されると、特許を持つGatesとそれを製造する製薬会社が巨万の富を得ると考えている。

デマが生まれた原因

このデマが生まれた背景には重大な事実誤認がある。Gatesが出資している研究機関は、英国のPirbright Instituteで、ここでは新型コロナウイルスではなく、別の種類のコロナウイルス(Infectious Bronchitis Virus)の研究を進めており、弱毒化ワクチン(Attenuated Vaccine)を開発した。これは鶏が感染するのを防ぐもので、いま蔓延している新型コロナウイルスとは無関係である。世界一の富豪であるGatesはワクチン開発などで慈善活動を展開しているが、極右団体から攻撃を受け続けている。

陰謀説2:Anthony Fauci博士が製薬会社と結託

また、極右団体は、米国アレルギー感染症研究所のAnthony Fauci所長が新型コロナウイルスの感染拡大に責任があるとのデマを流している。極右団体は、Fauci博士は新型コロナウイルスの危険性を説いているが、これは大手製薬会社とグルになり、医薬品の売り上げを伸ばすためであるとの陰謀説を流し、博士をホワイトハウスの新型コロナウイルス対策チームから外す運動(#FireFauci)を展開している。更に、与党共和党上院議員候補者Shiva Ayyaduraiはインタビューでこの旨の発言をし(下の写真、右側の人物)、このビデオは4月10日にYouTubeに掲載されたが、一か月で730万回再生されている。極右団体だけでなく共和党支持者の中でもこの陰謀説が広まっている。

出典: YouTube

陰謀説3:Gが新型コロナウイルス感染の原因

欧米で5Gネットワークが新型コロナウイルス感染の原因とのデマが拡散している。これは陰謀論を唱えるDavid Ickeが発信源とされ、5Gネットワークは人間に有害で、5Gのシグナルが身体細胞の抵抗力を低下させ、これにより新型コロナウイルスが拡大したと述べている。更に、中国・武漢は最初に5Gネットワークを運用した都市で、ここから新型コロナウイルスの感染が始まったと主張。この陰謀論は数多くの事実誤があるが、Ickeはこれをソーシャルメディアで拡散し、閲覧回数は3000万回を超えている。

デマを広げる理由

このデマが広がる背景には消費者のハイテクに対する潜在的な恐怖感がある。スマホの電波がガンを発症する原因であるとの議論があり、医学的には証明されていないが消費者は一抹の不安を覚える。また、このデマはレントゲン検査のX線の危険性を5Gのシグナルに対比し、危機感を煽っている。陰謀論家がセンセーショナルな発言を繰り返す理由は様々であるが、注目度が上がり、YouTubeでビデオの閲覧回数が増え、広告収入がぐんと増えることも事実だ。

出典: World Health Organization

陰謀説4:とんでもない治療法

ソーシャルメディアには治療法に関する都市伝説が数多く掲載されている。医療用の銀を含んだ溶液(Colloidal Silver)が新型コロナウイルスを治すとのうわさが広まり、テレビで製品のコマーシャルが流れている。産業用の漂白剤(Miracle Mineral Solution)が新型コロナウイルスを治すとのうわさもあり、実際に服用して病気になったケースが報告されている。他に、ビタミンCを大量に摂取すると新型コロナウイルスに効くとの偽情報も流れている。実際に、中国で治験が行われていることは確かだが、その効果は確認されていない。

デマのパンデミック

新型コロナウイルスに関する偽情報が世界で急速に拡散し、デマのパンデミックになっている。WHOはこの現象を「Infodemic」と呼んで注意を呼び掛けている。同時に、WHOはソーシャルメディア企業と連携し、デマをフィルタリングし、偽情報を駆逐するファクトの発信に力を入れている(上のグラフィックス、辛い物を食べても感染予防にならない)。新型コロナウイルスの感染者数は増え続けているが、偽情報の件数は減少に転じた。

サンフランシスコで都市再開に向け新型コロナウイルス感染者の追跡調査が始まる、Facebook慈善団体がこれを主導

サンフランシスコ地区で都市閉鎖解除に向けた準備が進んでいる。都市再開では住民の感染状態を継続して把握することが必須要件で、これに向け新型コロナウイルス感染者の追跡調査が始まった。この調査はChan Zuckerberg Initiative(CZI)が主導し、カリフォルニア大学サンフランシスコ校などの大学病院が実施する。CZIはFacebook創業者Marc Zuckerbergと妻のPriscilla Chanが設立した慈善団体で、健康や教育に関する研究を進めている。

出典: CNN

追跡検査の概要

この調査はサンフランシスコ地区で新型コロナウイルスの感染状態を正確に掴むために実施される。試験は9か月間継続して実施され、感染状態をスポットで把握するのではなく、被験者を定期的に検査することで感染のトレンドを把握することが目的となる。調査は住民向けの検査と、医療従事者向けの検査の二つのパートから成る。調査結果は都市を再開すると感染がどの程度増えるかを評価する指標となる。

多くの疑問点に答える

新型コロナウイルスでは感染者の多くが無症状(Asymptomatic)といわれ、この調査で実際の感染状況を把握する。また、感染者のウイルスのRNAを解析することで、感染経路を特定する試みがなされる。更に、新型コロナウイルスの抗体検査も同時に実施され、抗体と免疫の関係を検証する。抗体ができれば再び病気に感染することはないかの議論に答えがでる。

地域住民を対象とした調査

新型コロナウイルスの感染状態について、幅広い層の住民を対象に検査を実施する。検査結果は都市再開の基礎データとして使われ、都市閉鎖を安全に解除するためのプロセスを策定するための基本情報となる。また、都市を再開して新しい生活に移行したあとも検査は続けられ、住民の間で感染が広まっていないかを確認し、再び感染が広がると経路を解明し対策が取られる。

毎月PCR検査と抗体検査を実施

この試験はサンフランシスコ地区の住民4000人を対象に、2020年12月まで、毎月、PCR検査(PCR Diagnostic Test)と抗体検査(Serological Test)が実施される。PCR検査で感染の広がりを把握し、一方、抗体検査で被験者の過去の感染状態を把握し、感染者数を正確に計測する。毎月これらの検査が実施され、都市再開の前後で感染者数がどのように変わるのかトレンドを把握する。

出典: Chan Zuckerberg Biohub

ウイルスの遺伝子解析

更に、PCR検査で検出されたウイルスはChan Zuckerberg Biohubで遺伝子解析を実施する。遺伝子配列を把握することで、ウイルスのRNAの変異から種別が分かり、これをたどり地域における感染経路を特定する。また、ウイルスはどこからサンフランシスコ地区に侵入したのかも解明する。感染経路の特定にはContact Tracingの手法が使われるが、遺伝子検査でこの作業を補完することを目指している。Chan Zuckerberg Biohubとはカリフォルニア大学サンフランシスコ校やスタンフォード大学などが参加する生物学研究所でMarc Zuckerbergの寄付金で設立された(上の写真)。

医療従事者向けの調査

もう一つの調査は医療従事者を対象として実施され、新型コロナウイルスが病院に及ぼすインパクトを査定する。具体的には、被験者の抗体検査とPCR検査を継続して実施する。新型コロナウイルスに感染すると抗体ができるが、この抗体がいつまで存続するかを調べる。また、抗体があれば再び新型コロナウイルスに感染することはないのかを解明する。

抗体は社会復帰のパスポート?

この検査は医療従事者3500人を対象に、12週間にわたり、毎週PCR検査と抗体検査が実施される。また、抗体検査で陽性であった被験者は、2020年12月まで、新型コロナウイルスに再度感染しているかどうかが検査される。WHOは抗体ができても免疫ができるかは不明としており、この疑問に答えを出すことになる。都市を再開して社会に復帰するときに、抗体がパスポートになるのかが分かる。

出典: VentureClef

疫学の観点からの調査

米国で、新型コロナウイルスに関する虚偽の記事が数多く発信され、社会が不安定になっている。特に、都市再開に向けては医学的な議論より政治的な主張が優勢で、正しい判断の妨げになっている。このため、研究者や著名人などがテレビ番組に登場し、国民に正しい情報を発信し続けている(先頭の写真)。番組の中でPriscilla Chanは、都市閉鎖を解除するには新型コロナウイルスの発生や流行状態など疫学(Epidemiology)の観点から検査を行うことが最低条件と述べている。

都市再開のための基礎データ

今は、住民の何人がウイルスに感染しているのかなどの基礎データが揃っていない。また、無症状の感染者の実態が分からないため、誰がスプレッダーであるのかを特定できない。更に、抗体が社会復帰のためのパスポートになるのかも定かでない。これらの基礎データをそろえない限り、都市再開を安全に進めることはできない。(上の写真:Farmers’ Marketでソーシャルディスタンシングを保ちながらの買い物)

Chan Zuckerberg Initiativeとは

このプロジェクトを主導するChan Zuckerberg InitiativeはPriscilla Chan(下の写真)とMark Zuckerbergにより2015年に設立された慈善団体で、医療や教育や科学の分野で、人間の可能性を伸ばし平等な社会を実現することをミッションとする。今世紀末までに病気をなくすことを目標に研究を進めている。CZIは従来の慈善団体と異なり、テクノロジー使って社会の問題を解決するアプローチを取る。

出典: Chan Zuckerberg Initiative

IT企業創業者の役割

米国ではこの危機を救うためにIT企業の創業者が重要な役割を果たしている。Bill Gatesは同氏の慈善団体Bill & Melinda Gates Foundationを通じて3億ドルを寄付し、新型コロナウイルスのワクチン開発を支援している。Twitter創業者Jack Dorseyは10億ドルを新型コロナウイルス対策に寄付することを表明している。多くのIT企業創業者は格差社会を是正する慈善活動を進めているが、新型コロナウイルスでこの流れが加速している。

新型コロナウイルス治療薬の開発が進む、ウイルスをコンピュータで生成し感染のメカニズムを解析

新型コロナウイルスの治療薬とワクチンの開発が世界で進んでいるが、そのためにはウイルスの形状と感染のメカニズムを理解することが必須条件となる。感染は新型コロナウイルス(下の写真)の突起(Spike Protein、赤色の部分)が人の細胞に付着して起こることは分かっているが、その詳細はまだ解明されていない。米国でウイルスの突起をコンピュータで生成し、その動きをシミュレーションする研究が進んでいる。

出典: CDC

新型コロナウイルスとは

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は球体の形状で、ヒトの細胞に感染して病気(COVID-19)を引き起こす。ウイルスの直径は80nmで人間の髪の毛の直径の千分の一程度の大きさとなる。ウイルスの突起が人間の細胞に接続し感染を引き起こす。突起の部分が王冠(Corona)に見えるため「Coronavirus」と呼ばれる。Coronavirusは種別の総称で、ここにはMERSやSARSの他に風邪のウイルスも含まれている。ヒトは長年にわたりCoronavirusに感染してきたが、新型コロナウイルス(Novel Coronavirus)は文字通り新手のウイルスとなる。

感染経路

COVID-19はSARSやMERSと同じように他の種から人間に感染する病気(Zoonotic Disease)となる。COVID-19はコウモリが感染源であるが、その経路は分かっていない。COVID-19はコウモリからセンザンコウ(Pangolins)などの動物に感染し、それを人間が食べて感染したとの解釈がある。一方、トランプ大統領は、中国・武漢の研究所「Wuhan Institute of Virology」がSARS-CoV-2の研究を進めており、それが誤って流出し感染が始まったとの見解を示している。米国政府はその解明を進めるとしているが、中国政府はこれを全面的に否定し、感染経路の特定は難航が予想される。

ヒトに感染する仕組み

SARS-CoV-2はウイルスの突起「Spike Protein」がヒトの細胞表面のアダプター「ACE2(angiotensin-converting enzyme 2)」に接続して感染することが分かっている。(下の写真:上部がウイルスで三色(赤・青・黄)の部分がSpike Protein、下部がヒトの細胞でY字型の部分がACE2。) ACE2は肺や血管の表面に付着している酵素で血圧を下げる機能がある。Spike ProteinとACE2が結合すると、両者の被膜が溶け、ウイルスが細胞の中に入る。ヒトの細胞に侵入したウイルスはRNAを放出し、このコードを元に新しいウイルスが生成される。数時間で一つの細胞から数万個のウイルスが生成され、これらが他の細胞に感染する。

出典: Stony Brook University

コンピュータモデル

治療薬やワクチンの開発では研究者はSpike Proteinに着目している。Spike ProteinがACE2に結合するプロセスを抑止することで感染を防げるとしている。この方針に従って治療薬やワクチンの開発を進めている。このためには、両者が接合するメカニズムを理解する必要がある。SARS-CoV-2の形状は実験で分かっているが、Spike ProteinがACE2に接続する仕組みについてはよく分かっていない。Spike Proteinは三つのパーツ(上の写真、赤色、黄色、青色の部分)で構成され、これらが変形してACE2に接続するとされる。その際に、三つのパーツがハサミのように開き、ACE2を掴んで接続すると考えられる。コンピュータでSpike Proteinのモデルを生成し、動きをシミュレーションすることで、接合のプロセスを解明する。この情報が治療薬やワクチンの開発での基礎情報となる。

研究チーム

この研究はStony Brook Universityの研究チームにより実行された。モデルの開発では米国国立研究所(Brookhaven National LaboratoryとArgonne National Laboratory)と共同で実施された。次のステップはこれらの研究所が所有するスパコンを使ってモデルを実行することで、ウイルスとヒトの細胞の相互作用のメカニズムの詳細を把握する。

出典: COVID-19 HPC Consortium

新型コロナウイルスHPCコンソーシアム

新型コロナウイルスの研究は多くの研究機関で進められている。米国政府と民間企業はこの研究のためコンソーシアム「COVID-19 HPC Consortium」を結成し、研究機関にスパコンを提供している。オークリッジ国立研究所(Oak Ridge National Lab)はスパコン「Summit」を提供し、民間企業からはGoogleやMicrosoftがHPCクラウドを提供している。大学などの研究機関はこれらのHPCシステムを使って新型コロナウイルスの研究を進めている。使用料は無償であるが、研究成果はコンソーシアムのホームページで一般に公開されている(上の写真)。今は国家の非常事態で、国立研究所や民間企業は計算環境を無償で公開し、新型コロナウイルスのワクチンや治療薬の開発を支えている。

シリコンバレーで新型コロナウイルスの抗体検査を実施、実際の感染者数は公表値の80倍

各国で新型コロナウイルスの感染者数が公表されているが、実際の感染者数はこれより多いと予想されてきた。シリコンバレーで大規模な抗体検査が実施され、新型コロナウイルスに感染した人数が判明した。それによると、その数は公表値の80倍で、やはり感染が広範囲に及んでいる実態が明らかになった。全米で都市封鎖解除が始まるが、これらの調査結果が計画立案のベースとなる。

出典: The Stanford Daily

抗体検査を実施

この検査は2020年4月、スタンフォード大学医学部(Stanford Medicine)がカリフォルニア州サンタクララ群で実施した。地区住民の3,300人が対象となり、被験者の血液を採取して新型コロナウイルスの抗体検査(Serology Testing)が行われた(上の写真、ドライブスルー方式の抗体検査)。被験者はFacebookのターゲティング広告で募集され、検査対象グループは地域を代表するデモグラフィックになるよう調整された。

検査結果

試験結果は統計処理され、有病率(Prevalence)は2.49%から4.16%であった。これは被験者の中で新型コロナウイルスに感染した人の割合を示している。これを人数に換算すると、サンタクララ群の住民の48,000人から 81,000人がウイルスに感染したことになる。一方、サンタクララ群が発表している感染者数は1,019人(4月2日現在)であり、実際の感染者数はその50倍から80倍であることが判明した。

検査の目的1:正確な感染者数を把握

スタンフォード大学がこの検査を実施した理由は新型コロナウイルスの感染者数を正しく把握することにある。新型コロナウイルスは感染しても症状が無いか、または、軽いケースが多い。これらの人は国(CDC)の基準によりPCR検査対象者とならず、検査を受けることができない。事実、米国ではPCR検査を受けた人は全体の1.2%程度で感染範囲の全体像がつかめていない(下のグラフ)。多くの感染者が未確認の状態で統計データには反映されておらず、公表値は実際の数字を大きく下回っている。

出典: Our World in Data

検査の目的2:正確な致死率を把握

正確な感染者数が分かると、新型コロナウイルスによる死亡率の実態が分かる。調査レポートには具体的な数字は示されていないが、サンタクララ群が発表したデータを見ると、感染者数は1,870人で死亡者数は73人(下のグラフィックス)で、致死率は3.9%となる。一方、抗体検査で判明した感染者数で致死率を計算すると0.15%から0.09%となる。この数字はインフルエンザの致死率(0.1%)と同じレベルで、新型コロナウイルスは必ずしも危険な病気とは言えない。

出典: Santa Clara Public Health

検査の目的3:免疫を持っている人を把握

抗体検査のもう一つの目的は免疫を持っている人を特定することにある。新型コロナウイルスから快復すると体内に抗体ができ、これが免疫となり再び病気にかからないとされる。抗体検査で陽性であれば、これが社会復帰へのパスポートとなると期待されている。しかし、WHOは、この仮説は確認されておらず、抗体ができても再び病気にかからないとの保証はなく、慎重な対応を促している。免疫に関する確実な情報はなく、都市閉鎖解除で社会復帰のプロセスを策定する際には、この点に留意して進める必要がある。

抗体検査キットの信頼性

抗体検査キットは多くの製品が出ているが、その検査精度が疑問視されている。通常なら、FDAの厳格な評価を経て製品化されるが、いまは非常事態でFDAは検査基準を緩めており、市場には様々なキットが出荷されている。このため、精度が十分でないキットが沢山ある。精度はSensitivity(正しく判定する精度)とSpecificity(誤検知しない精度)で示され、どちらも99%の精度が要求される。しかし、これを大きく下回る精度の製品も少なくなく利用には注意を要す。

ニューヨーク州で実施予定

ニューヨーク州のクオモ知事は、4月20日から同州で大規模な抗体検査を実施すると発表した。FDAはこの試験を承認しニューヨーク州保健当局(Department of Health)が実施し、全米で最大規模の抗体検査となる。14,000人の住民がランダムに選ばれ、何人が感染したのかを調べ、感染の規模が初めて明らかになる。更に、抗体があればそれが免疫となり、社会に復帰できる証明書となるシナリオも計画されている。ただ、上述の通り病気に対する免疫は実証されたデータはなく、その効果を検証しながら進められることになる。

ドイツで抗体検査を実施

米国に先立ち、ドイツで抗体検査が実施され、4月にその結果が発表された。Gangeltという地区の住民500人を対象に実施され、その14%が抗体を持ち、過去にウイルスに感染したことが判明した。この町では2月にカーニバルが開催され多くの人が訪れ、その後感染が急拡大した。この検査で致死率は0.37%と推定しており、公表されている数字(3.11%)を大きく下回る。ドイツは抗体があれば病気に対する免疫があるとの解釈が支配的で、住民の14%が陽性であることは集団免疫(Herd Immunity)に近づいたとみている。これはWHOの解釈と異なり、免疫に関する考え方について議論が続くことになる。

出典: Vice

致死率と都市ロックダウン

米国のアカデミアには、新型コロナウイルスの致死率はインフルエンザと同程度であり、都市をロックダウンして感染を防止することに反対する意見もある。都市を閉鎖すると、社会活動が停止し、経済恐慌に至る。致死率が高くない感染症対策では都市ロックダウンという強硬策はそぐわないとしている。一方、新型コロナウイルスにはワクチンはなく、拙速に都市閉鎖を解除すると感染が再び急拡大し、今までの努力が水泡に帰すとの考え方が大勢を占めている。識者の多くは、ロックダウンは正しい判断で、いまはそれを解除するプロセスをゆっくりと進めることが重要との見解を示している。(上の写真、都市閉鎖に反対するグループは州庁舎を取り囲み解放を求めている。)