カテゴリー別アーカイブ: ウエアラブル

Facebookはお洒落なスマートグラスを発表、Ray-Banサングラスにカメラを実装、ARグラスに向けた第一歩

Facebookはスマートグラス「Ray-Ban Stories」を発表した(下の写真)。これはFacebookが開発した最初のスマートグラスで、お洒落なデザインとなっている。Ray-Banサングラスにテクノロジーを実装したもので、ファッションに軸足を置く構成となっている。スマートグラスは二台のカメラを搭載し、利用者の視点で写真やビデオを撮影する。FacebookはARグラスの開発を進めており、Ray-Ban Storiesがそれに向けた第一歩となる。

出典: Facebook

Ray-Ban Storiesの概要

Ray-Ban Storiesはサングラスに二台のカメラを組み込んだ構造で、写真やビデオを撮影できる。スピーカーとマイクが搭載され、音楽を聴き、また、電話をかけることもできる。価格は299ドルからでRay-Banのサイトで購入する。これはFacebookがEssilorLuxottica(Ray-Banの親会社)と共同開発しもので、米国など六か国で販売が始まった。

カメラと利用方法

スマートグラスはリムの両端に5MPのカメラを搭載している(下の写真)。カメラは利用者の目線で撮影し、日常生活の瞬間(Moments)をとらえるために使われる。撮影するときは右側テンプルに設置されたボタンを押すか、ボイスコマンドを発行する。スマートグラスはAI音声認識機能を備えており、「Hey Facebook, take a video」と語りかけるとビデオ撮影が始まる。写真やビデオを撮影しているときはカメラの隣に搭載されているLEDライトが点灯する。これにより周囲の人はカメラが稼働していることが分かり、プライバシー保護に配慮した設計となっている。

出典: Facebook  

アプリとの連携

スマートグラスは専用アプリ「Facebook View」と連携して利用する。撮影した写真やビデオはアプリに格納され(下の写真左側)、それを編集してオリジナルなコンテンツを生成する(中央)。生成したコンテンツはFacebookやInstagramやWhatsAppなどソーシャルネットワークと共有することができる(右側)。自社ネットワークだけでなく、Twitter、TikTok、Snapchatと共有することができる。

出典: Facebook  

Ray-Banのモデル

スマートグラスはRay-Banのモデル「Wayfarer」、「Round」、「Meteor」から構成される。Wayfarerはクラッシックなデザイン(下の写真)で、オードリーヘップバーン(Audrey Hepburn)が映画「ティファニーで朝食を」(Breakfast at Tiffany’s)で使い有名になった。今では歌手のマドンナ(Madonna)などが愛用し、このスタイルが再びブームになっている。Ray-Banと言えばバイデン大統領が愛用している「Aviator」を連想するが、若い世代にはあまり好まれないようである。

出典: Facebook  

プロセッサなど

スマートグラスは二台のマイクロスピーカーと三台のマイクを搭載している。マイクは特定方向のサウンドをエンハンスする機能(Beamforming Technology)や背景音をキャンセルする機能を持ち、クリアなサウンドを生成することができる。また、テンプルの部分がタッチパネルになっており、指で触って操作する。スマートグラスは専用プロセッサ「Snapdragon」を搭載しており、これらのデバイスをサングラスに組み込んだデザインとなる。

Facebook Reality Labs

スマートグラスはFacebook Reality Labsで開発された。Facebook Reality Labsとは拡張現実(AR)と仮想現実(VR)を研究開発することをミッションとし(下のグラフィックス)、Ray-Ban StoriesはそのAR部門で開発された。VR部門はOculusを核とする組織で、VRヘッドセットを開発している。最新モデルは「Oculus Quest 2」で、PCとの連携を必要としないスタンドアロン型VRヘッドセットとして販売が始まった。

出典: Facebook  

ARグラス

AR部門は既にAR グラスのプロトタイプ「Aria」を開発した。これは研究開発用のAR グラスで、カメラとディスプレイを搭載し、目の前のオブジェクトを把握するだけでなく、そこにテキストやグラフィックスをインポーズし、現実社会と仮想社会を融合させる。Facebook 社員はAria を着装して施設内や市街地を歩き、グラスのカメラで目の前のシーンを記録し、ARグラス向けのマップを制作している。ARグラス商用版に向けた開発が進んでいるが、Ray-Ban Storiesがその第一歩となる。

出典: Facebook  

Googleは小売店舗をニューヨークにオープン、ハードウェア事業を拡充する戦略に舵を切る

Googleは先週、ニューヨークに小売店舗「Google Store」をオープンした(下の写真)。これはオンライン店舗ではなく街中のストアーで、Googleが提供している情報家電製品を販売する。ここがショールームとなり、製品を手に取って体験することができる。米国においては、Googleは多種類のハードウェア製品を販売しており、それを統合的にアピールする狙いもある。GoogleはFitbitの買収を完了し、これから本格的にウェアラブル事業を展開する体制が整った。

出典: Google

Google Storeの概要

Google Storeはニューヨーク・チェルシーに開設され、本社ビルの一階を店舗にした構造となっている。お洒落な街並みの中のストアーで、はす向かいにはApple Storeがある。Google Storeはスマホ、スマートホーム家電、スマートウォッチ、ノートブックなどを取りそろえている。製品を買う前にこれらの製品を手に取って試してみることができる(下の写真)。また、オンラインストアーで購入した製品を受ける場所ともなる。

出典: Google

製品ラインアップ

Googleは多種類のハードウェア製品を販売しており、店舗は総合展示場としての役割を担っている。スマホは「Pixel」の名称で販売されている。スマートホーム製品は「Nest」ブランドに統合され、ここで、AIスピーカー「Nest Audio」、「Nest Mini」、「Nest Hub」を提供する。このほかに、ストリーミング機器「Chromecast」、ネットワーク機器「Nest Wifi」、AI監視カメラ「Nest Cam」などを販売している。更に、スマートウォッチは「Fitbit Sense」や「Fitbit Luxe」などを取り揃えている。(下の写真、Google Storeで販売している製品を展示)

出典: Google

Sandboxでベンチマーク

店舗内に設けられた部屋で製品を体験することができる。これは「Sandbox」と呼ばれ、実社会を模した空間で製品の機能や性能をベンチマークできる。スマートホーム製品を体験する部屋は「Nest Sandbox」と呼ばれ、AIスピーカーに語り掛けてスマートライトなどを操作することができる(下の写真左側)。スマホの体験室は「Pixel Sandbox」と呼ばれ、暗い環境で高品質な写真を撮影するなどカメラの性能を試験できる(下の写真右側)。

出典: Google

講習会スペース

店舗内にはワークショップ会場が儲けられている(下の写真左側)。ここで、製品の使い方の講習会が開催される。NestのAIスピーカーを使った料理教室やPixelを使った写真教室などが開催される。また、専任スタッフが質問に答え、製品をオンサイトで修理するサービスもある(下の写真右側)。

出典: Google

持続可能性がコンセプト

Google Storeのコンセプトは持続可能(Sustainability)で、ハイテク製品を使う社会が将来にわたり維持できる構造を取る。環境問題やエネルギー問題に関わり、ストアーはサステイナブルなデザインとなっている。この店舗は持続可能性を評価する指標「Leadership in Energy and Environmental Design (LEED)」の最上位レベル(Platinum)に認定された(下の写真左側)。また、製品も回収されたプラスチックを再利用するなど、環境に配慮した設計になっている(下の写真右側)。

出典: Google

ウェアラブル戦略

Googleは開発者会議「Google I/O」でウェアラブル事業を本格的に展開することを表明した。Googleはウェアラブル向け基本ソフト「Wear OS」を開発し、パートナー企業に提供している。これら企業はWear OSを搭載したスマートウォッチなどを出荷している。また、Samsungは独自基本ソフト「Tizen」の開発を中止し、Wear OSを使うことを発表した。GoogleはWear OSを核にウェアラブル事業を展開している。

出典: Google

Fitbit買収が完了

Googleは2019年11月、Fitbitの買収を発表したが、アメリカ司法省による審査が続いていた。Googleは今年1月、この買収が完了しスマートウォッチの事業を開始することを明らかにした。これにより、FitbitのハードウェアとGoogleの基本ソフトWear OSを組み合わせ、ウェアラブル事業を本格的に展開できる環境が整った。Fitbitが収集する身体情報をGoogleのAIで解析し、健康管理のソリューションを開発する。Googleはハードウェアに舵を切り、FitbitをベースにApple Watchに対抗する製品の開発を進めている。(上の写真、Google Storeで販売されているFitbit製品)。

Amazonはリストバンド「Halo」を投入、究極の健康管理ウエアラブルでAIが身体とメンタルの状態をモニター

Amazonは健康管理のウエアラブル「Amazon Halo」(下の写真)の出荷を開始した。これはリストバンドタイプのウエアラブルで、身体情報をモニターするセンサーとして機能する。ディスプレイは備えておらず、健康管理に特化したセンサーで、スマホアプリとペアで使う。実際に使ってみると、フィット感は良く、身体やメンタルの状態を把握でき、健康管理デバイスの新しい流れを感じる。

出典: Amazon

Amazon Haloの概要

Amazon Haloは右手または左手の手首に装着し、身体状態をモニターするために利用する。四つの機能を搭載しており、運動量、睡眠の質、声のトーン、及び、体脂肪率を計測する。計測したデータはスマホの専用アプリ「Amazon Halo App」に表示される(下の写真)。スマートウォッチではディスプレイに情報が表示されるが、Amazon Haloは健康管理センサーとしてデザインされ、最小限の機能だけを搭載している。価格は99.99ドルでAmazon Prime会員向けには74.99ドルで販売されている。Amazon Haloはサブスクリプション方式のデバイスで、月額3.99ドルの使用料金を支払う。

出典: Amazon / VentureClef

運動量をモニター

Amazon Haloは運動量をモニターし、体を動かした量をポイントで表示する(下の写真、左側)。一週間に150ポイントを得ることが目標で、その過程がグラフで表示される。1ポイントは1分間に中程度の運動をする量となる(右側)。中程度の運動とは、速足でのウォーキングやほうきで庭を掃除する程度の運動で、医療学会American Heart Associationは一週間に150分の運動を推奨している。Amazon Haloは加速度センサーと心拍数センサーで運動量を算定する。

出典: VentureClef

睡眠の質を測定

Amazon Haloは睡眠の状態を測定し、その質を100点満点のスコアで示す(下の写真、左側)。スコアは睡眠時間と睡眠内容を総合的に評価したもので、70点を下回ると対策が必要となる(右側)。スコアは睡眠時間の他に、寝入るまでの時間、ステージごとの時間、夜中に起きた回数などを加味する。睡眠のステージは「Hypnogram」と呼ばれ、Light、Deep、REMから成る。Lightは浅い眠りで、睡眠時間の半分を占める。Deepは深い眠りで、睡眠の前半に起こる。深い眠りの中で身体の細胞が修復され、健康維持に深くかかわるとされる。REM(Rapid Eye Movement)は脳が活動して覚醒状態にある眠りで、このステージで人は夢を見たり、記憶が整理される。このスコアで睡眠の状態を把握し、問題があればこれを改善する。ただ、睡眠の質は人により異なり、スコア以外に、朝起きた時の爽快感や日中の気分などが重要な指標となる。

出典: VentureClef

声のトーンを分析

Amazon Haloに搭載されたマイクが利用者の声を聞き、それをAIで解析して、声のトーンを把握する(下の写真、左側)。声のトーンとは言葉に含まれた感情で、四つに分類され、Amused、Content、Reserved、Displeasedとなる(右側)。Amusedは楽しい時の、Contentは満足した時の声のトーンとなる。Reservedは静かな状態で、Displeasedは怒った時の声のトーンとなる。実際に使ってみると、声のトーンを通じてメンタルの状態を把握できる。その日の気分を正確に把握するのは難しいが、Amazon Haloはこれを客観的に分析しグラフで提示する。また、Amazon Haloは会話の”鏡”として機能し、自分の声が相手にどのような印象を与えているのかを理解できる。この機能を使うには、事前に声を入力し、AIが本人を特定できるよう教育しておく。

出典: VentureClef

体脂肪率を推定

Amazon Haloは体脂肪(Body Fat)の割合を計測する(下の写真、左側)。スマホカメラで身体を撮影し(右側)、AIが画像を解析し脂肪量(Fat Mass)を推定する。体重については利用者が測定して入力する。これにより体脂肪率が分かる。

出典: Amazon

体脂肪率は健康管理に重要な指標で、この値が健康寿命や病気発症に関連する。体脂肪率が高いと心臓疾患や糖尿病の発症確率が上がる。体重は食事などで頻繁に変わるが、体脂肪量は変動が少なく、その変化が健康に大きく影響する。このため、二週間おきに体脂肪率を測定することを推奨している。体脂肪については、多くの測定法があるが、Amazon Haloはコンピュータビジョンと機械学習でイメージを解析する手法を取る。AIが体形から体脂肪を推定するが、病院での測定技術(Dual-Energy X-Ray Absorptiometryなど)と同等の精度であるとしている。

健康管理のコンテンツ

Amazon Haloは研究所「Labs」を運用しており、ここに健康管理のコンテンツを揃えている。コンテンツはワークアウトや睡眠の質を向上させるプログラムやマインドフルネスのレッスンなどから成る。ワークアウトは自宅でできるエクササイズが揃っており、ビデオでインストラクターの指示に従って体を動かす(下の写真)。ストレングス、カーディオ、ヨガ、バー(Barre、右側下段)の分野があり、目的に合ったプログラムを選択できる。バーとはバレエダンスに基づくワークアウトで、ハリウッドのセレブが行っていることで人気となった。Appleはフィットネスのための有料プログラム「Apple Fitness+」をスタートしたがAmazon Haloはこれに対抗する位置づけとなる。

出典: VentureClef

実際に使ってみると

左手にはApple Watchを着けているので、Amazon Haloは右手に装着して利用している。Apple Watchより一回り小型の形状で、着装感は軽く負担は感じない。デバイスを操作する必要はなく、Amazon Haloが自動で身体状態をモニターするので、ウエアラブルというよりはバイオセンサーを着装している感覚に近い。

一番驚かされたデータ

睡眠を分析した情報に一番驚かされた。日ごとに睡眠のスコアは大きく変わり、また、睡眠のパターンも一定ではない。よく眠れた日とそうでない日が明らかになり、今までは、感覚的に寝不足を感じていたことがデータで示される。次のステップとしては、上述のLabsに登録されているコンテンツを使って、睡眠の質を上げることになる。

リアルタイムで声のトーンを分析

Amazon Haloが分析する声のトーンも参考になる。普段の会話の声のトーンを把握し、次は、好感を持ってもらえる声のトーンにアップグレードするステップとなる。また、スピーチで好まれるしゃべり方を学習することもできる。Amazon Haloはリアルタイムで声のトーンを解析する機能もあり(下の写真、右側)、このツールとLabsに掲載されているレッスンを併用して声のトーンを改良する。

出典: VentureClef

バイオセンサー

Amazon Haloは人気のウェアラブル「Fitbit Tracker」からディスプレイを取り外した形で、リストバンド形状のバイオセンサーとしてデザインされている。センサーが収取するバイオデータをAIが解析し、健康管理のポイントをアドバイスをする。実際に使ってみると、健康管理のウエアラブルは生活に必須のデバイスであると感じ、これから需要が大きく伸びると思われる。できることなら、血圧や血糖値や酸素飽和度を測定する機能があれば健康維持に大きく寄与する。

Google Glassが企業版として復活、早速試してみたが性能が大幅に向上しアプリがサクサク動く

Googleは2019年5月、企業向けスマートグラス最新モデル「Glass Enterprise Edition 2 (Glass EE2)」(下の写真) を発表した。Glass EE2はプロセッサが強化され、AI(コンピュータビジョンと機械学習)が組み込まれた。AR・VRカンファレンス「Augmented World Expo」でGlass EE2とそのアプリが紹介された。実際に使ってみると、Glass EE2は操作に対しレスポンスが速く、アプリがサクサク動き、性能アップを肌で感じた。

出典: VentureClef  

スマートグラス開発経緯

Googleのスマートグラスは開発方針が二転三転したが、企業向け製品とすることで方向が定まった。Googleは、2013年、スマートグラスのプロトタイプ「Glass Explorer」を投入し、次世代のウェアラブルの姿を示した。センセーショナルにデビューし市場の注目を集めたが、カメラによるプライバシー問題から、2015年、GoogleはGlassの販売を中止した。

企業向けスマートグラスに方針変更

Glass Explorerは消費者向け製品として位置付けられたが、Googleはそれを企業向けスマートグラスに仕立て直し、秘密裏に開発を続けていた。Googleは2017年、企業向けスマートグラスとして「Glass Enterprise Edition」を発表した。AR機能を使った業務用スマートグラスが登場し、製造、運輸、医療分野でトライアルが始まった。

Glass Enterprise Edition 2の概要

市場の反応は良好で、Googleは2019年5月、企業向け最新モデル「Glass Enterprise Edition 2」をリリースした(下の写真)。このモデルはプロトタイプの段階を卒業し、Googleの製品として位置付けられている。Glass EE2はプロセッサに「Qualcomm Snapdragon XR1」を採用し、演算性能が大幅に向上した。カメラ性能も強化され、インターフェイスとしてUSB-Cがサポートされた。更に、バッテリー容量が増え、一回の充電で使える時間が大幅に伸びた。(Glass EE2の形状は先頭の写真の通り、下の写真はこれにSmith Optics社製のフレームを装着したもの。)

出典: Google  

プロセッサ

Glass EE2が搭載しているQualcomm Snapdragon XR1はARとVRのヘッドセット向けに開発されたプロセッサで複数の演算機構から構成される。プロセッサはCPU(Kryo)、GPU (Adreno)、DSP(Hexagon Vector Processor)から成り、イメージ処理だけでなく、これらがAIエンジンとして機能しニューラルネットを高速で処理する。これにより画像認識(Object Classification)、ポーズ認識(Pose Prediction)、音声認識(Language Understanding)機能が大幅に向上した。

ソフトウェア

Glass EE2は「Android Oreo」を搭載し、基本ソフトが一新され、システム開発が容易になった。例えば、ライブラリやAPIを使いGlass EE2を既存システムと連携できる。また、デバイス管理機能「Android Enterprise Mobile Device Management」をサポートしており、利用企業は多数のGlass EE2を一括管理でき、業務での展開が容易になる。

パートナー企業経由で販売

Glass EE2はGoogleではなく、パートナー企業が販売する形態を取る。パートナー企業はスマートグラス向けに業務アプリを開発し、デバイスとともに販売する。既に多くのアプリが提供されており、主要企業で使われている。Glass EE2の価格は999ドルで2019年5月から販売が始まった。

製造業向けソリューション

既に、Glass EE2向けに業務ソリューションが登場している。UpskillはVienna(バージニア州)に拠点を置くベンチャー企業で、スマートグラス向けの製造ソリューションを開発している。これは「Skylight」と呼ばれ、ARを部品組み立てのプロセスに適用する。Boeingで採用され、航空機のワイアリング手順をスマートグラスに表示する(下の写真、右上のウインドウ)。作業者は視線を移すことなく、この手順(ワイヤを接続するスロットを表示)に従って作業を続けることができ、作業効率が大きく向上したと報告している。

出典: Upskill  

アプリのデモを体験

シリコンバレーで開催されたカンファレンス「Augmented World Expo」でUpskillはスマートグラス向けのアプリSkylightを出展し、AR製造ソリューションの利便性をアピールした。(下の写真、右側)。実際にこのアプリをGlass EE2で使ってみた。このアプリは機器製造で配線手順をARで表示するもので、操作手順に沿って作業をしてみた。Glass EE2のディスプレイにケーブル番号とスロット番号が示され、これに従って配線した(下の写真、左側、デモシステムと使用したGlass EE2)。操作マニュアルに視線を移す必要はなく、ハンズフリーで作業ができ、これは確かに便利なソリューションだと感じた。

出典: VentureClef  

Glass EE2の進化

Glass EE2を操作するとGlass Explorerから大きく進化しているのを感じた。Glass EE2はディスプレイの輝度と解像度が増し、文字や図形が鮮明に表示される。Glass EE2にタッチすると、アプリは機敏に反応し、操作が軽く感じる。Upskillによると、BoeingはGlass EE2が軽量で一回の充電で長時間使える点を評価しているとのこと。Glass EE2はもはやプロトタイプではなく、企業で使えるレベルまで完成度が向上した。

AI+ARアプリが登場か

Glass EE2はAIアプリをデバイス上で稼働させることができる構造となっている。このため、AIを活用した高度な業務ソリューションを開発できる。AIとARを組み合わせると、どんなアプリとなるのかが気になる。Glass EE2向けにオブジェクト認識機能や音声認識機能を組み込んだアプリが候補となる。再び、スマートグラス市場が動き出し、今度はAIと組み合わせた形でイノベーションが起こりそうだ。

Apple WatchのECG機能がリリースされた、家庭で心電図を計測し不整脈を検知できる

Apple WatchでECG機能がリリースされた。これは心電図を計測する機能で、スマートウォッチで心臓の健康状態をモニターできるようになった。ECGは心臓の不整脈を検知し、もし異常があれば病院で診断を受けることになる。病気の早期発見につながり、多く人命を救うことができると期待されている。

出典: Apple

ECG機能を公開

Appleは四世代目のスマートウィッチ「Apple Watch Series 4」を投入したが、ハードウェア機構が一新され、健康管理に重点を置くウエアラブルとなった。Apple Watch Series 4はECG (Electrocardiography、心電図)機構を搭載し、心臓の健康状態をモニターする(上の写真)。2018年12月、最新の基本ソフト (watchOS 5.1.2とiOS 12.1.1)がリリースされ、ECGを使えるようになった。

ECG測定方法

ECGとは心臓の鼓動を電気シグナルとして測定するもので、病院で心臓の状態を検査するために使われている。この機能がApple Watch Series 4に搭載され、家庭で心臓疾患を検知できるようになった。ECGを測定するにはApple Watchでアプリ「ECG」を起動し、指をクラウンにあてる(下の写真)。これで心臓を含む電気回路が作られ、心臓の鼓動の電気シグナルを計測する。測定に要する時間は30秒で、ディスプレイにECGの波形が示され、残り時間が表示される。

出典: Apple

測定結果

測定結果は問題が無ければ「Sinus Rhythm(洞調律)」と表示される。もし、不整脈の一種である心房細動が検知されると「Atrial Fibrillation」と表示される。アルゴリズムはECGの波形から心房(Atrium)と心室(Ventricle)の動きを解析する。心臓が一定のリズムで鼓動している時はSinus Rhythmと示される。一方、心臓の鼓動が不規則な状態であればAtrial Fibrillationと示され心房細動が発生していることを意味する。

Healthアプリ

測定結果はAppleの健康管理アプリ「Health」に格納される。ここには心拍数(Heart Rate)と心電図(ECG)の情報が格納される(下の写真、左側)。また、ECGのタブを開くと検査結果について、判定(Classifications)と心電図の波形(Waveform)が示される(下の写真、右側)。測定時に症状を入力することができ、その情報も表示される。(Apple Watch Series 4でECGを使い始めたが、健康管理には必須な機能だと感じる。検査結果を見るのは少し怖いが、心臓の健康状態がすぐに分かり、本当に役に立つウエアラブルだ。)

医師の診断を仰ぐ

万が一、異常が検知されると病院に行き医師に相談することになる。その際には、ECG検査結果をPDFに変換する機能があり、それを医師に提示して診断を仰ぐ。医師はECGの波形から心臓の状態を把握し、原因を検査していく手順となる。なお、ECGアプリは心房細動しか検知できないので、Apple Watchで心臓発作の兆候は把握できないことを留意する必要がある。

通知機能

上述のECG機能の他に、Apple Watchのソフトウェアがバックグランドで稼働し、心臓の健康状態をモニターする。心拍数から心房細動を検知するアルゴリズムが搭載され、アプリはそれを検知するとアラートを表示する。心拍シグナルをニューラルネットワークで解析し、心房細動を検知するものと思われる。Apple Watchを着装している時は連続して心臓の状態をモニターする。

出典: VentureClef

病院のECGとは異なる

Apple Watch Series 4のECGは病院で使われているECG(心電計)とは構造や機能が異なり、家庭向けの簡易版ECGという位置付けとなる。病院の心電計は12の電極を持ち、心臓の電気信号を異なる方向から捉える。このため、心房細動だけでなく、心臓発作の予兆(心臓のどの部分が壊死しているか)を検知する。これに対し、Apple Watch Series 4のECGの電極は一つで、心房細動だけを検知でき、心臓発作の予兆などそれ以外の症状は把握できない。

アメリカ食品医薬品局の認可

このため、Apple Watch Series 4はアメリカ食品医薬品局(FDA)から限定的な認可を受けている。Apple Watch Series 4は消費者向けに医療情報を提供することは認められているが、これを病気の診断で使うことはできない。つまり、Apple Watch Series 4は消費者が病状をスクリーニングするために使われ、病気判定は医師が下す必要がある。

Appleへの期待

限定的な機能であるが、Apple Watch Series 4のECGへの期待は大きい。これはApple Watchで心房細動をリアルタイムに把握できるためで、病気治療に大きく寄与すると考えられている。アメリカ心臓協会(American Heart Association)はApple WatchのECGを使うと、治療方法が劇的に変わり、多くの患者を救えると期待を寄せている。因みに、Apple Watch Series 4の心房細動の判定精度は高く、98%(Sensitivity、病気であることの判定)と99.6%(Specificity、病気でないことの判定)をマークしている。

ヘルスケア市場に進出

Apple Watch Series 4にECGを搭載したことで、Appleがヘルスケア市場に本格的に参入する流れが鮮明になった。AppleがiPodで音楽市場に進出したように、Apple Watchが医療機器に進化し、ヘルスケア市場進出への第一歩となる。Apple Watchはバイオセンサーとして、身体情報をモニターする医療機器としての役割が明確になり、次は、血圧や血糖値を測定する機構を投入するとのうわさが絶えない。