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カリフォルニア州はAIフロンティアモデルを規制する法令を制定、トランプ政権は規制緩和を進め政策が対立、この法令が全米のAI安全基準となるか

カリフォルニア州はAIフロンティアモデルを規制する法令「SB 53 (Transparency in Frontier AI Act)」を制定した。9月29日に州知事Gavin Newsom(下の写真)が法案に署名し、来年1月1日から発効する。この法令は開発企業にAIフロンティアモデルの安全性に関する情報を公開することを求めるもので、米国で最初のAIモデル規制法となる。トランプ政権はAIアクションプランで規制を緩和する政策を取るが、カリフォルニア州はこれと反対に、AIモデルに一定の制限を課す。連邦政府レベルの規制法が無い中、カリフォルニア・モデルが他州に広がり、これが事実上のAI規制フレームワークとなるのか、今後の動きを注視する必要がある。

出典: Getty Images

AI規制法「SB 53」とは

カリフォルニア州のAI規制法「SB 53 (Transparency in Frontier AI Act)」(下の写真)はAIフロンティアモデルの安全情報を公開することを求める。コンセプトはAI開発企業にフロンティアモデルに関し「透明性(Transparency)」と「説明責任 (Accountability)」を求める構成となる。具体的には、開発企業はフロンティアモデルの安全性を検証する手法を制定し、これに従って安全試験を実行し、その結果を公開することを求めている。政府が安全試験を実施する手法を制定するのではなく、各企業が独自に試験プロトコールを定め、これに従ってベンチマークを実施する。

出典: State of California

緩やかな規制

SB 53はAIイノベーションと安全性のバランスを重視し、緩やかに規制することが特徴となる。AI開発企業は大企業に限られ、スタートアップ企業などはこの対象から除外される。法令によると、対象は年収5億ドル以上のカリフォルニア企業で、Google、OpenAI、Anthropic、Metaなどに限定される。また、フロンティアモデルとはアルゴリズム教育で巨大システムで開発されたモデルとなる。具体的には、処理能力が「10^26 FLOPs」超えるプロセッサで開発されたモデルとなる。企業は開発環境に関する情報を公開していないが、Google Gemini 2.5、OpenAI GPT-5、Anthropic Claude 3.5、Meta Llama 4などが対象となると推定される。

公開するドキュメント

SB 53はAI開発企業に安全性とセキュリティに関するフレームワークを公開することを求めている。このフレームワークはAIモデルの開発で安全性とセキュリティの評価プロセスを定めたもので、この情報をウェブサイトなどで公開することを求めている。具体的には、重大なリスクに関し、開発企業はこれをどのように管理・評価し、如何にリスクを回避する措置を講じたかなど、一連のプロセスを公開することを求めている。

リスク管理フレームワーク

AI市場ではリスク評価のフレームワークが開発されているが、SB 53は開発企業にこれらを適用することを求めている。SB 53は具体的な安全フレームワークについて言及していないが、米国では国立標準技術研究所(National Institute of Standards and Technology 、NIST)が開発した安全フレームワーク「AI Risk Management Framework」(下の写真)がその代表となる。また、EUでは「AI Act」が制定され、米国の主要企業はこの安全フレームワークに準拠することを公表している。

出典: NIST

インシデントレポート

SB 53は開発企業に重大なインシデントが発生した場合はそれをカリフォルニア州政府に報告することを求めている。カリフォルニア州は「California Governor’s Office of Emergency Services(Cal OES)」という組織を運用しており、この部門が緊急事態や災害などのイベントに対処するハブとなる。SB 53は開発企業に対し、AIで重大な問題が発生した場合は、Cal OESにこれを報告することを求めている。その後に、Cal OESは匿名でこのインシデントを公開するプロセスとなる。

二度目のトライアル

カリフォルニア州議会(下の写真)は昨年、AI規制法案「SB 1047」を可決したが、州知事のGavin Newsomは拒否権を発動し、この法案は成立しなかった。この規制法案は開発企業にAIセーフティに関し厳しい義務を課すもので、AI開発が大きな制約を受けるとして成立には至らなかった。SB53この義務を大幅に軽減し、対象を大企業に絞り、第三者による監査の義務などを削除し、緩やかで現実的な法令となった。

出典: California State Assembly

全米で広がるか

トランプ政権はAIイノベーションを重視しAI規制を緩和する政策を取る。これに対し、カリフォルニア州はAI開発を後押しするものの、AIフロンティアモデルに対しては一定レベルの制限が必要であるとのポジションを取る。この法令はカリフォルニア州に拠点を置く企業などに適用される。大手AI開発企業の多くがカリフォルニア州を拠点としており、法令はAI市場の多くの部分をカバーする。また、他の州がカリフォルニア州のSB53をリファレンスとして、独自の法令を制定する流れが始まることも予測される。カリフォルニア州のAI規制が全米における事実上の規制法となるのか、これからの動きを注視していく必要がある。

女性の服を脱がせるAIモデルが水面下で爆発的に普及、法規制が進むが被害が増大、AIがディフージョンモデルに進化し大量のコンテンツが生成される

女性の服を脱がせるAIツール「Nudification」が水面下で爆発的に広がっている。Nudificationとはヌードに変換するという意味で、早くから使われてきたが、AI技法が進化し使い方が容易になり、大量のコンテンツが生成されている。同意を得ない性的なイメージが殆どで、被害件数が急増している。連邦政府はヌード化されたコンテンツを掲載することを禁止する法令を制定し、AI規制の第一歩を踏み出した。しかし、Nudificationの使用を禁止するものではなく、効果は限定的で、多くの課題が積み残されている。

出典: Generated with OpenAI GPT-5

Nudificationとは

「Nudification」とはヌードイメージを生成する技法を指し、写真に写っている女性の服を脱がせるツールとして使われている。技術的な視点からは、AIモデルが女性の全体像を解析し、そこから衣服の部分を特定(Segmentation)する。次に、この部分(マスク)を含め、身体の構成(手足や胴体など)を推定する(Pose Prior)。更に、この基本情報を元に、AIモデルがマスクに肌や質感などをペイント(Inpainting)する。AIモデルは身体に関するデータを学習しており、高精度で身体を再現する。一般に、フェイクイメージを生成する技法は「ディープフェイク(DeepFakes)」と呼ばれ、Nudificationはこの主要コンポーネントとなる。

フェイクイメージ生成技法

マスク部分に肌をペイントする技法は、今までは「Generative Adversarial Networks (GANs)」というAIモデルが使われてきた。GANは二つのAIモデル、「生成ネットワーク(Generator)」と「識別ネットワーク(Discriminator)」で構成され、両者が競い合ってリアルなイメージを生成する(下の写真)。具体的には、生成ネットワークがイメージを出力し、識別ネットワークがその真偽を判定する。このプロセスを繰り返し、識別ネットワークが偽イメージを見抜けない段階に達し、リアルなイメージが完成する。この手法で人物や風景などのフェイクイメージが生成されてきたが、これが女性を裸にするツールに適用され重大な社会問題を引き起こした。

出典: Google

ディフュージョンモデルに進化

一方、GANを使うには技術を要し、また、その出力は完成度が低く、リアルなヌードイメージを生成するにはスキルを要した。今では、フェイクイメージを生成するための技法として「ディフュージョンモデル(Diffusion Model)」が幅広く使われている。ディフュージョンモデルとはアルゴリズムを教育する手法で、イメージにノイズを付加し、それを取り除くスキルを学ぶことでハイパーリアルな写真を生成する(下の写真)。

出典: Stable Diffusion

ディフュージョンモデルをNudificationに適用

ディフュージョンモデルは言葉に従って高精度なイメージを生成する機能を持つ。更に、入力された写真を編集する機能(Inpainting)があり、この技法がNudificationで使われる。新興企業Stable Diffusionはこの手法でリアルなイメージを生成し、Inpainting機能で写真のマスク部分を編集する機能を持つ(下の写真)。最新のディフージョンモデルは「ディフージョン・トランスフォーマ(Diffusion Transformer)」を搭載し、高品質な画像を大量に生成できるようになった。GPT-5などフロンティアモデルの基礎技術がNudificationで使われ、高品質なフェイクイメージが大量生産される時代になった。

出典: Stable Diffusion

Nudificationの事例

市場には数多くの種類のNudificationサイトやアプリがあり、ここで大量のコンテンツが生成されている。その代表は「CrushAI」というアプリで簡単な操作でヌードイメージを生成する(下の写真)。このアプリは香港に拠点を置く企業Joy Timeline HK Limitedが開発した。対象とする人物の写真をアップロードし、「Erase now」ボタンを押すと、AIモデルが衣服の部分を肌に書き換え、女性を裸にしたイメージを生成する。シンプルなインターフェイスで技術知識なしに使うことができ、市場で急速に利用が広がっている。非営利団体BellingcatがNudificationツールを追跡し、被害の状況をレポートしている。

出典: Bellingcat

MetaはCrushAIを提訴

CrushAIの利用が急拡大した背景には、ソーシャルメディアで広告を掲載し、利用者をサイトに誘導したことにある。CrushAIはFacebookやInstagramにアプリの広告を掲載し、ヌード化の機能をアピールした。これに対しMetaは、Joy Timeline HK Limitedは利用規定に反して広告を掲載したとして同社を訴訟した。Metaは同意を得ない性的なイメージを生成するツールを広告することを禁止している。

アメリカ連邦政府

社会でNudificationの被害が拡大する中、連邦議会は非同意の性的イメージを公開することを禁止する法令「The TAKE IT DOWN Act」を制定した(下の写真)。また、性的イメージを掲載するプラットフォームに対して、これを削除することを求めている。連邦政府はAI規制に消極的なポジションを取るが、性的な被害が拡大する中、対策に向けて一歩を踏み出した。一方で、この法令は個人が非同意の性的イメージを生成することは禁止しておらず、被害の拡大を食い止めることはできていない。特に、裸体のイメージで対象者を脅す「セクストーション(sextortion)」の被害が米国で急増している。

出典: Joyful Heart Foundation

ディープフェイクと表現の自由

AI技術は急速に進化し規制法はこのスピードに追随できない現状が改めて明らかになった。ディープフェイクは敵対国がアメリカの世論を操作する手段として使われるとして警戒をしてきたが、実際には、Nudificationによる被害が広がり、この対策が喫緊の課題となっている。アメリカは憲法修正第1条(First Amendment to the United States Constitution)で表現の自由(Freedom of expression)を定めており、国民は公権力によって規制されることなく、自由に思想や意見を主張する権利を持つ。有害なディープフェイクを規制する根拠となる考え方について議論が進んでいる。

米国政府は中国AIモデルの検証をスタート、DeepSeekは重大なセキュリティ・リスクを内包!!政府や企業に注意を喚起

米国政府は中国企業が開発したフロンティアモデルの検証を開始した。これはトランプ政権の「AIアクションプラン」に基づくもので、NIST配下の「CAISI(旧称AISI)」が安全試験を実施しその結果を公表した。DeepSeekが最初のケースとなり、報告書はジェイルブレイクなどサイバー攻撃への耐性が低いと評価した。一方、DeepSeekの性能は米国企業の最新モデルに及ばないものの、その差は小さいとしている。報告書は技術的な観点からモデルを評価するものであるが、米国政府は関連機関にDeepSeekの調達を控え、また、民間企業にはその運用で注意するよう呼びかけている。

出典: Center for AI Standards and Innovation

調査レポートの概要

この安全試験は国立標準技術研究所(National Institute of Standards and Technology、NIST)配下のAI標準イノベーション室(Center for AI Standards and Innovation、CAISI)で実施された。CAISIはAIモデルの技術開発支援と安全評価をミッションとする。トランプ政権はAIアクションプランで、国家安全保障の観点から、外国製のAIモデルを評価することをCAISIに求めており、今回の安全試験はこの最初のケースとなる。政権は中国製のフロンティアモデルを念頭に、これが米国や同盟国で普及するとセキュリティや情報操作で重大なリスクが発生すると懸念している。

評価対象モデル

安全試験では中国製AIモデルとしてDeepSeekの三つのモデル(R1, R1-0528, V3.1)が対象とした。Rシリーズは推論モデルで、Vシリーズは言語モデルで、「DeepSeek R1」が世界にショックをもたらしたことは記憶に新しい。言語モデルの最新版は「V3.2」であるが、今回の試験の対象とはなっていない。一方、米国のAIモデルはOpenAI (GPT-5, GPT-5-mini, gpt-oss-120b)とAnthropic (Claude Opus 4)が評価された。19のベンチマークテストを実施し、両者の性能を比較する方式でDeepSeekの機能や性能を査定した。

評価結果:セキュリティ

AIモデルのセキュリティを評価する技法として「Cybench」、「CVE-Bench」、「CTF-Archive」が使われ、このベンチマークテストを通して、モデルのサイバー攻撃への耐性が評価された。具体的には、AIモデルがサイバー攻撃のシグナルを検知する能力が査定された。六つの分野で評価され(下のグラフ、三つの分野)、問題を解決(シグナルを検知)した割合を示している。青色が米国モデルで、赤色がDeepSeekとなり、米国モデルがセキュリティで高い性能を示した。因みに、「Cryptography」は暗号化されたメッセージを復号化してサイバー攻撃を検知する能力を測定する。また、「Digital Forensics」はシステムに残されたサイバー攻撃の痕跡を見つける技能が試される。

出典: Center for AI Standards and Innovation 

評価結果:エンジニアリング機能

次に、AIモデルのエンジニアリング性能が試された。これは、実社会での技術問題をAIモデルが解決するスキルを試すもので、ここでは「SWE-bench Verified」が使われた。このベンチマークでは、GitHubに掲載されているプログラムの問題(コードのバグなど)が示され、これをAIモデルが修正するスキルが問われる。その結果は正解率で示され(下のグラフ)、米国AIモデルがDeepSeekを上回るものの、OpenAIのオープンソース・モデル「gpt-oss-120b」はDeepSeek V3.1に及ばない。実社会でエンジニアリング問題を解決する能力では米中間の差が縮まっていることが明らかになった。

出典: Center for AI Standards and Innovation 

評価結果:科学知識

科学技術の知識を問うベンチマークテストでは米国モデルとDeepSeekの差は無く、両モデルでほぼ同じレベルの性能を示した(下のグラフ)。言語機能や推論機能を評価する「MMLU-Pro」では、米中間で差はなく、横一列となった。生物学、物理学、化学に関する推論機能を試験するベンチ「GPQA」でも両国のモデルの差は僅かとなった。

出典: Center for AI Standards and Innovation 

評価結果:CCPアラインメント

CAISIはAIモデルが中国共産党(Chinese Communist Party、CCP)の政治思想を反映している度合いを評価するベンチ「CCP-Narrative-Bench」を開発し、これを実行した(下のグラフ)。中国モデルの最新版でこの傾向が顕著で、中国共産党の政治思想を色濃く反映していることが判明した。これは政治思想のアラインメントを試験するもので、例えば、新疆ウイグル自治区 (Xinjiang) に関するプロンプトへの回答を評価し、AIモデルの出力が中国共産党の解釈に沿っているかどうかを査定する。米国政府は中国AIモデルが特定の思想を広め、世論を操作するツールとして使われることを警戒している。

出典: Center for AI Standards and Innovation 

総合評価

総合評価として、米国AIモデルとDeepSeekは性能評価試験では、米国モデルが優位であるがその差は僅かである。一方、AIモデルのセキュリティに関しては、DeepSeekは大きなリスクを内包しており、サイバー攻撃への耐性が低いことが判明した。更に、DeepSeekは中国共産党の政治思想を内包したモデルで、プロパガンダで使われることを懸念している。

注意喚起を促す

報告書は両者のAIモデルを技術的に評価することに留まり、利用制限などの提言はしていない。一方、報告書はAI政策を立案するための基礎資料として使われ、米国連邦議会などが中国AIモデルを規制する法令の準備などで使われる。同時に、この報告書を読むとセキュリティに関するリスクが大きく、導入して運用する際は注意を要す。DeepSeekはオープンソースで誰でも自由に利用できる魅力があるが、その危険性を勘案して安全に運用することが求められる。

次のステップ

AIアクションプランはCAISIに外国のAIモデルの安全検証を求めており、これから順次、このプロジェクトが進むことになる。中国でフロンティアモデルの開発が急進しており、DeepSeek以外に巨大テックが先進モデルを投入している。Alibabaは「Qwen」を、Baiduは「ERNIE」を、また、Tencentは「Hunyuan」を投入し、米国AIモデルに匹敵する性能を示している。CAISIはこれらのモデルを対象に安全試験を実施することになる。

全米のレガシー・ソフトウェアをAIで書き換えセキュリティを強化する巨大構想「Great Refactor」、コーディングAIエージェントが古い言語(C/C++やCOBOL)を安全な言語(RustやJava)に自動で変換

米国で社会の基幹を担うソフトウェアをAIエージェントで書き換え、システムをモダン化する構想が発表された。これは「Great Refactor」と呼ばれ、レガシー・システムを改修しセキュリティを強化することをミッションとする。米国政府や民間企業は古いシステムを汎用機の上で稼働し基幹業務を実行している。これらレガシー・コードはセキュリティに関し重大な脆弱性を内包しサイバー攻撃の標的になってきた。これらを人間に代わりAIエージェントが書き換えセキュアなシステムを生成する。

出典: Generated with Google Imagen 4

リファクタリングとは

リファクタリング(Refactoring)とはプログラムを書き換える技術で、その機能を変えることなく、コードを改良することで、プログラムをモダン化し、運用性を高める技法を意味する。また、コードを整理することで、読みやすさを増し、保守作業を容易にするために使われる。Great Refactorではセキュリティに重点を置き、古いコードが内包している脆弱性を補強することを目的とする。

レガシー・コードのリスク

レガシー・コードの多くはプログラム言語「C」や「C++」で記述されており、技術的な問題を含んでいる。その代表がメモリ(主記憶)管理機能で、「C」や「C++」で生成されたプログラムはメモリ操作でバグがあり、これがサイバー攻撃の標的となってきた。ランサムウェア「WannaCry」などがメモリ管理のバグをついてシステムに侵入し、システムを暗号化するなど社会に重大な被害をもたらした。

出典: Generated with Google Imagen 4

Great Refactorとは

Great Refactorは「C」や「C++」で開発されたコードを安全な言語「Rust」に書き換える構想となる。対象はオープンソース・ソフトウェアで、AIエージェントがリファクタリングの作業を担う。オープンソース・ソフトウェアは全米で幅広く使われており社会インフラを構成する。その代表が基本ソフト「Linux」で、そのカーネルは「C」で記述されている。また、Linuxの主要ライブラリも「C」で開発されている。例えば、通信暗号化プロトコール「OpenSSL」やリモートログイン「OpenSSH」が社会で幅広く使われているが、これらも「C」で記述されている。Great Refactorはこれらを「C」や「C++」言語から「Rust」言語に書き換える構想となる。

プロジェクトの概要

この構想はワシントンDCに拠点を置くシンクタンク「Institute of Progress」により提唱された。この提言によると、2030年までにレガシー・コードを書き換え、新たなシステムを開発する。新システムは1億ライン(1億行のコードから構成される)システムとなる。開発に要する費用は五年間で1億ドルとなり、これを政府と民間が共同で出資する。ソフトウェア・インフラが強化されることにより、20億ドルの支出を抑えることができると試算している。

AIエージェントの技術進化

ファウンデーションモデルの技術が急速に進化し、そのキラーアプリケーションはコーディング・エージェントという構図が明らかになってきた。AIエージェントが人間の指示に従ってアプリをコーディングする。AIがエンジニアに代わりソフトウェアを開発する時代に突入した。AI企業はコーディング機能を相次いでアップグレードし、Anthropicの「Claude Sonnet 4.5」がトップの性能を持つ。これをOpenAIの「GPT-5 Codex」が追う構図となる。Googleはコーディング・エージェントを製品化していないが、複雑なプログラミングを実行するモデル「AlphaCode」の研究開発を進めている。

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COBOLレガシー

Great Refactorと並行して、政府機関や民間企業はレガシー・システムをモダン化する作業を進めている。これらのシステムはプログラム言語「COBOL」で書かれ、汎用機(Mainframe Computers)で稼働している。システムは50年以上前に開発され、古いアーキテクチャに準拠しており、新しい機能の追加や保守作業が極めて難しい。社会の基幹インフラはこれらレガシー・システムに構築され、基幹サービスをセキュアに安定して提供することが困難な状態が続いている。

レガシーシステムの事例

連邦政府は税金や年金の処理をCOBOLで書かれたレガシー・システムで実行している。また、民間企業では、銀行の基幹システムがレガシー・システムで構築され、負の資産を引きずっている。また、飛行機予約システム「Programmed Airline Reservations System」がCOBOLで記述され、そのシステムがIBMの汎用機の上で稼働している。米国では頻繁に航空機の運用管理や予約業務で障害が発生するが、その根本原因はCOBOLレガシー・システムにある。

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ソフトウェア・インフラをリファクタリング

Great Refactorはオープンソース・ソフトウェアをAIエージェントで書き直しセキュアなシステムを構築するプロジェクトで、AIの進化でこれが実現可能な領域に入ってきた。同時に、米国では汎用機で稼働しているシステムをモダン化するプロジェクト「メインフレーム・リファクタリング(Mainframe Refactoring)」が進んでいる。汎用機で稼働しているレガシー・システムを書き換えてクラウドに移管するモデルで、AWSやGoogle CloudやMicrosoft Azureが推進している。コーディングAIエージェントの急速な進化で、米国のソフトウェア・インフラをリファクタリングする手法に注目が集まっている。

OpenAIとAnthropicは米国政府と共同でフロンティアモデルの安全評価試験を実施、トランプ政権におけるAIセーフティ体制が整う

今週、OpenAIとAnthropicは相次いで、米国政府と共同でフロンティアモデルの安全試験を実施したことを公表した。また両社は、英国政府と連携し安全試験を実施したことを併せて公表した。トランプ政権は「AIアクションプラン」を公開し、AI技術開発を推進する政策を明らかにし、同時に、米国省庁にAIモデルを評価しリスクを明らかにすることを要請した。OpenAIとAnthropicは米国政府との共同試験で、評価技法やその結果を公開し、米国におけるAIセーフティフ体制のテンプレートを示した。

出典: Generated with Google Imagen 4

米国政府のAI評価体制

トランプ政権はAI開発を推進しリスクを評価する部門として「Center for AI Standards & Innovation (CAISI)」を設立した。これは国立標準技術研究所(NIST)配下の組織で、AIモデルのイノベーションを推進し、フロンティアモデルを評価することを主要な任務とする。CAISIはOpenAIとAnthropicと共同で安全評価プログラムを実施しその成果を公開した。バイデン政権では「AI Safety Institute (AISI)」がAIモデルの安全評価技術開発を推進してきたが、CAISIはこれを引き継ぎ、AI評価標準技術の開発と標準化を目指す。

安全評価の手法

CAISIの主要ミッションは、民間企業が開発しているフロンティアモデルの安全評価を実施し、そのリスクを査定することにある。OpenAIとAnthropicはこのプログラムで、CAISIが評価作業を実行するために、AIモデルへのアクセスを許諾し、また、評価で必要となるツールや内部資料を提供した。CAISIはこれに基づき評価作業を実施し、その結果を各社と共有した。実際に、CAISIの評価により新たなリスクが明らかになり、OpenAIとAnthropicはこれを修正する作業を実施した。

OpenAIの評価:AIエージェント

OpenAIのフロンティアモデルでは、「ChatGPT Agent」と「GPT-5」を対象に、評価が実施された。CAISIはこれらモデルのAIエージェント機能を評価しそのリスク評価を解析した。その結果、AIエージェントはハイジャックされるリスクがあり、遠隔で操作されるという問題が明らかになった。一方、英国政府はAIモデルの生物兵器製造に関するリスクを評価し、数多くの脆弱性を明らかにした。

Anthropicの評価:ジェイルブレイク

一方、Anthropicの評価ではフロンティアモデル「Claude」と安全ガードレール「Constitutional Classifiers」を対象とした。これらのモデルに対しRed-Teamingという手法でサイバー攻撃を実施し、その結果、汎用的なジェイルブレイク攻撃「Universal Jailbreaks」に対する脆弱性が明らかになった。Anthropicはこの結果を受けて、モデルのアーキテクチャを改変する大幅な修正を実施した。

出典: Generated with Google Imagen 4

安全試験のひな型

これらの安全評価はCAISIの最初の成果で、民間企業と共同で試験を実施するモデルが示された。AIアクションプランは米国政府機関に対しアクションアイテムを定めているが、民間企業を規定するものではない。OpenAIとAnthropicは自主的にこのプログラムに参加し安全試験を実施した。また、両社はフロンティアモデルを出荷する前に、また、出荷した後も継続的に安全試験を実施するとしており、この試みが米国政府におけるAIセーフティのテンプレートとなる。

評価技法の標準化

一方、安全評価におけるスコープは両者で異なり、フロンティアモデルの異なる側面を評価した形となった。OpenAIはフロンティアモデルのエージェント機能を評価し、Anthropicはジェイルブレイク攻撃への耐性を評価した。このため、二つのモデルの検証結果を比較することは難しく、統一した評価技法の設立が求めらる。CAISIのミッションの一つが評価技法の開発と国家安全保障に関連するリスク評価で、評価技術の確定と技術の標準化が次のステップとなる。

出典: Generated with Google Imagen 4

米国と英国のコラボレーション

OpenAIとAnthropicは英国政府「UK AISI」と提携して安全試験を実施しており、米英両国間でAIセーフティに関するコラボレーションが進んでいる。CAISIとUK AISIは政府レベルで評価科学「Evaluation Science」の開発を進めており、両国で共通の評価技術の確立を目指している。一方、欧州連合(EU)はAI規制違法「EU AI Act」を施行し、独自の安全評価基準を設定しており、米国・英国とEU間で安全性に関する基準が異なる。EUとの評価基準の互換性を確立することがCAISIの次のミッションとなる。

トランプ政権のセーフティ体制

これに先立ち、OpenAIは米国政府と英国政府が監査機関となり、AIモデルの安全評価試験を実施することを提唱している。米国政府ではCAISIが、また、英国政府ではUK AISICがこの役割を担うことを推奨した。今回の試みはこの提言に沿ったもので、米国と英国でAIモデル評価のフレームワークが整いつつある。バイデン政権では政府主導でセーフティ体制が制定されたが、トランプ政権では政府と民間が協調してこの枠組みを構築するアプローチとなる。