カテゴリー別アーカイブ: 自動運転車

GM Cruiseもサンフランシスコで無人走行を開始、メーカーは生き残りをかけて自動運転車を開発

General Motors(GM)は買収したCruiseを核に、サンフランシスコを拠点に自動運転車を開発している。Chevy Bolt EVをベースにしたモデルで、Lidar、カメラ、レーダーを搭載し自動で走行する(下の写真)。5年間にわたり開発を進め自動運転技術が大きく進化している。込み合った市街地で走行するため高度なAI技術を開発し、クルマや歩行者の動きを高精度で予測する。

出典: Cruise

無人車両で試験運転

Cruiseはサンフランシスコにおいてドライバーが搭乗しない無人車両で走行試験を実施することを発表した。2020年第四四半期の決算発表でCruise CEOのDan Ammannが明らかにした。Ammannによると、Cruiseは2020年に9億ドルを投じて開発を進め、自動運転技術が大きく進展し、複雑な市街地において無人走行試験ができるレベルに達した。

無人ライドシェア

GMの会長兼CEOであるMary BarraはCruiseの事業戦略について明らかにした。Cruiseの出荷時期については明言を避けたが、数年先ではなく、近いうちにリリースできるとの見通しを示した。また、自動運転車のビジネスモデルはロボタクシーで、無人のライドシェアとして事業を構築する。Uberのようなライドシェアであるが、ドライバーは搭乗しないで無人の車両が乗客を運ぶ。Cruiseは既にライドシェアアプリを開発しており、他社と提携しないで独自で事業を運営する。

無人走行試験の概要

Cruiseはドライバーが搭乗しないで試験走行するが、助手席にはセーフティドオペレータが搭乗する。クルマが危険な状態になると、セーフティオペレータがクルマを安全に停止させる。しかし、ステアリング操作などはしないで最小限の介在にとどめる。最終的にはセーフティドオペレータも搭乗しないで、無人車両で試験運転を実行する。これに先立ち、CruiseはDMV(カリフォルニア州陸運局)より無人で試験走行するための認可を得ている。

出典: Cruise  

走行試験の実績

Cruiseはサンフランシスコで5年にわたり走行試験を続け、累計で200万マイル走行した。これはすべてEVで実施され、地球温暖化ガスは発生していない。Cruiseはサンフランシスコでの走行試験をビデオで公開し、複雑な市街地を安全に走行できることをアピールしている。Cruiseは、込み合った道や夜間の走行など、クルマにとって一番厳しい条件で開発を進めている。ここをクリアできれば全米の全ての都市で運行できることになる。

AIによる推論機能

自動運転車の開発でカギを握る技術は認識したオブジェクトの次の動きを予測すること。周囲のクルマや歩行者の次の動きを機械学習の手法で予測する。機械学習は一般的なケースだけでなく、特異な動きをするケースも予測する。例えば、前のクルマが右に膨らんで走ると(下の写真、左側)、AIはこのクルマはUターンすると推論する(右側、緑色の線)。人間も経験を積んでこれを学ぶが、サンフランシスコのような込み合った市街地の走行では高度な推論機能が必須となる。

出典: Cruise  

Cruise Origin

これに先立ち、Cruiseは2020年1月、EV自動運転車「Cruise Origin」(下の写真)を発表した。これはワゴン形状の自動運転車で、ライドシェアを目的に開発された。ドアはスライド式で、車内は二人掛けのシートが対面して設置される。Cruise OriginはZooxに対抗する製品として位置付けられる。

出典: Cruise  

自動車メーカーの逆襲

今年に入り、サンフランシスコで無人車両の試験運転が一斉に始まった。Zooxはワゴン形状の自動運転車で、無人ライドシェアの試験走行を開始した。また、Waymoはフェニックスの次の都市をサンフランシスコとし、ここで無人タクシーの営業運転を始める。これらハイテク企業に対し、大手メーカーのGMはCruiseを核に生き残りをかけて開発を加速している。

Waymoはサンフランシスコで走行開始、自動運転AIを改良し込み合った市街地を安全に走行

Waymoはサンフランシスコで試験走行を開始することを発表した。社員がWaymoの乗客となり、市街地を走り試験を重ねる。Waymoはアリゾナ州フェニックスでロボタクシー事業を展開している。しかし、サンフランシスコはフェニックスとは異なり、道路は狭くクルマや歩行者で込み合っている。自動運転車にとって最後の難関となる。Waymoは試験走行の後に、サンフランシスコでロボタクシーの事業を開始する。

出典: Waymo

サンフランシスコで試験運転する理由

サンフランシスコは坂の街で、ケーブルカーや路面電車が走行し、観光客が道にあふれる。狭い道路はクルマやバイクやスクーターや歩行者で込み合い、高度な運転スキルが求められる。自動運転車にとって、全米の都市の中で最も高度な技術が求められ、ここが開発の最終ゴールとなる。試験走行はJaguar Land RoverのEVモデル「I-Pace」で行われる(上の写真)。

コンピュータビジョン

複雑な環境で安全に自動走行するために、Waymoは自動運転車の頭脳である「Waymo Drive」を改良した。その一つが、コンピュータビジョンの強化で、クルマは高精度でオブジェクトを認識できるようになった。例えば、カメラは信号が変わるのを長距離で認識できる。ヒスパニックのコミュニティはお祭りには通りに横断幕(Papel Picado)を掲げるが(下の写真)、Waymo Driveは遠方から信号が変わるのを検知し安全に走行する。

出典: Calle 24 Latino Cultural District

推論機能の強化

Waymo Driveの推論機能が強化され、カメラやLidarが捉えたオブジェクトから、動きを予測する能力が向上した。推論とはクルマや歩行者が次に取るアクションを予測するもので、込み合った市街地を走行するには必須の機能となる。特に、Fishermen’s Wharfのような観光地では(下の写真)、歩行者の動きを予測する機能が重要になる。例えば、バスの隣に停止した際は、Waymo Driveはバスから降りた観光客が道路を横切ることを想定して運転する。

出典: VentureClef

道路工事現場を認識

市街地では道路工事により車線が封鎖されることが多いが、Waymo Driveは道路コーンや作業員のハンドシグナルを理解し、現場の指示に従って走行する。Waymo Driveはこれらの情報から新しいルートを計算し、クルマは道路コーンに沿って、工事個所を避けて走行する。

カリフォルニア州で商用運転免許取得

カリフォルニア州で多くの企業が自動運転車の走行試験を実施している。このためにはDMV(Department of Motor Vehicles、州の陸運局)で公道を試験走行するための認可を受ける必要がある。現時点で、55社が自動運転車の走行試験を実施している。更に、自動運転車で営業運転するためには、CPUC(California Public Utilities Commission、公益事業を管轄)で認可を受ける必要がある。商用運転免許を取得してた企業はWaymoの他に、CruiseやZooxなど7社となる。Zooxはサンフランシスコで自動運転車を公開したところで、Waymoの発表はこれに対抗するという狙いもある。

アリゾナでの商用運転

Waymoは2017年からフェニックスでロボタクシー「Waymo One」の実証試験を展開してきた。2020年8月に、これを一般に公開し、今では誰でもWaymo Oneを利用できるようになった。乗客は専用アプリを使い、現在地と目的地を入力しクルマを呼ぶ(下の写真)。Waymo Oneはセイフティドライバーが搭乗しない無人タクシーで、既に10万件の輸送をこなし、安全性について評価が高まっている。

出典: Waymo

2021年は自動運転車の転換点

現在、レベル5の自動運転サービスを提供しているのはWaymoだけである。しかし、Waymo Oneの商用運行はフェニックス市街地に限定されている。今年は、エリアを拡大しサンフランシスコの他に、主要都市での運行が計画されている。更に、Teslaは今年、完全自動運転技術「FSD(Full Self-Driving)」をリリースする。クルマのソフトウェアの更新でこれを実現する。予想外に難航している自動運転車開発であるが、今年は転換の年となる。

AmazonはZooxを買収し自動運転車市場に参入、サンフランシスコでロボタクシーの試験走行を公開

Amazonが買収したZooxはサンフランシスコでロボタクシーの試験運転を公開した。クルマはレベル5の完全自動運転車で、ドライバーが搭乗しないロボタクシーとして、市街地における住民の足となる。Zooxはミニバス形状で(下の写真)、市街地の狭くて込み合った道路を自動で走行する。Amazonはこの他に、自動運転SUVの開発を進めており、次のコア事業は自動運転車であることが鮮明になった。

出典: Zoox

クルマの全体構造

Zooxはレベル5の完全自動運転車で、ドライバーが搭乗しないで、バイクや歩行者で込み合う市街地を走行する。Zooxは四輪ステアリングで、斜めに走ることができ、狭いスペースに駐車して乗客を降ろすことができる。また、前後対象のデザインで、後ろ方向に走ることができる。駐車スペースからバックではなく前進で発進できる。対称構造であるため前後左右で同じ部品を使え、パーツ点数が大幅に少なくなる。

車内のデザイン

Zooxは西部劇で登場するステージコーチをほうふつさせるデザインで、車内に二人掛けの座席が向き合って配置されている(下の写真)。乗客は座席に座り、シートベルトを締め、スタートボタンを押すとクルマは目的地に向かって走行する。クルマを呼ぶときには、ライドシェアの要領で、スマホアプリで現在地と目的地を入力する。

出典: Zoox  

設計コンセプト

Zooxは他の自動運転車とは異なりゼロから開発されている。車体は自動車メーカーから供給されるのではなく、独自の設計で無人タクシーとしてデザインされている。自動運転のコア技術であるAIやソフトウェアも独自で開発され、システムはNvidiaのAIプロセッサで稼働する。当初はセダンタイプのデザインであったが(下の写真)、現在は、乗り降りしやすいステージコーチ型となった(先頭の写真)。

出典: Zoox  

AmazonがZooxを買収

このため、大規模な開発資金と多数のエンジニアが必要となり、Zooxは開発に行き詰り、企業を売却する判断を下した。このタイミングでAmazonは2020年6月に買収を発表し、ZooxはAmazonの資金で開発を継続している。これにより製品開発が加速され、2020年12月、Zooxは自動運転車を公開し、サンフランシスコ市街地を走行するデモが実施された。

センサー

ZooxはカメラとLidarとレーダーをクルマの四方に搭載し、これをAIで解析して自動運転を実現する(下の写真)。周囲360度の視野を持ち、毎時75マイルで走行することができる。カメラはオブジェクトの色を識別し、信号などを把握する。レーダーは周囲のオブジェクトを把握し、Lidarはこれを3Dで高精度で認識する。自動走行する前に、Lidarで道路と標識などをセンシングし、高精度3Dマップを作成しておく。

出典: Zoox  

製品ポジショニング

Zooxはステルスモードで開発し、その技術は謎に包まれていたが、Amazonが買収してからは製品化への歩みを速め、クルマの全貌が明らかになった。クルマのポジショニングも明確になり、市街地における短距離輸送に特化したデザインとなっている。

Bezosの戦略

この背後にはJeff Bezosの自動運転車に関する長期的なビジョンがある。Bezosは自動運転車とEVが次の大きな市場になるとして、相次いで資金を投資している。2019年2月、自動運転スタートアップ「Aurora」に大規模に出資し業界の注目を集めた。その直後、ピックアップトラックを開発するベンチャー「Rivian」に出資した。BezosはCEOを退任し、取締役会長になり、これからは新規事業の育成に時間を費やすと述べている。Zooxの買収で自動運転車が次のコア事業となることが鮮明になり開発が加速されることとなる。

テスラの完全自動運転車はソフトウェア事業、ロボタクシー向けクラウドが会社の収益の半分を稼ぐ

テスラは今年中にレベル5の完全自動運転車を出荷する。クルマにはそれに必要なハードウェアが搭載され、ソフトウェアの更新で完全自動運転車となる。このソフトウェアはFull-Self Driving(FSD)と呼ばれ、現行車種にはそのベータ版が搭載されている。ベータ版から正式版に機能アップするために、AI開発が急ピッチで進んでいる。

出典: Tesla  

完全自動運転車

テスラCEOのElon Muskは、2020年度第四四半期の決算発表で、多くの時間を割いて自動運転技術について説明した。テスラの自動運転技術はFSDと呼ばれ、現行車両にはそのベータ版が搭載されている。Muskは今年中に完全自動運転車が完成するとの見通しを示した。FSDが出荷されるとクルマはレベル5の自動運転機能を持ち、ドライバーの介在無しにクルマは自動で走行する。

ロボタクシー

完全自動運転車が登場するとクルマの利用法が劇的に変わる。ドライバーはクルマを利用しない時間帯は、これをロボタクシーとして運行する。クルマが無人のUberとなり、乗客を拾い目的地に送り届ける。これにより、オーナーは臨時収入を得ることができ、その一部をサブスクリプションとしてテスラが徴収する。テスラはロボタクシーを運行するクラウド「Tesla Network」を提供し、オーナーはこのクラウドにクルマを接続しタクシー事業を展開する。(下の写真、テスラはステアリングのないロボタクシー専用車両をデザイン)

出典: Tesla  

車両販売はソフトウェア事業

Muskによると、テスラの事業は車両販売に加え、ロボタクシー運用によるサブスクリプション収入が大きな収益源になる。Muskは車両販売による収入が500億ドルで、ロボタクシーの収入が同額の500億ドルになるとみている。ロボタクシーの部分のコストは小さく、収益の殆どが利益になる。つまり、完全自動運転車が完成すると、自動車販売はクラウドによる収益が大きな部分を占め、ソフトウェア事業となる。

テスラの収益構造

Muskはロボタクシー収益の詳細を明らかにしていないが、今までの情報を元に計算すると次のようになる。ロボタクシーの料金は0.5ドル/マイルで、Uber料金の半額に設定される。ロボタクシーが年間45,000マイル走行すると、売上金額は22,500ドルとなる。テスラはサブスクリプション料金としてこの30%を徴収し6,750を得る。これを6年間運用すると、テスラの収入は40,500ドルとなる。Tesla Model 3(先頭の写真)の車両価格は47,900ドルで、ロボタクシーが車両価格と同等の収入を上げることになる。

FSDベータを支えるAI

ロボタクシーを運行するためにはクルマがレベル5の完全自動運転車となることが前提条件となる。このため、テスラはFSDのニューラルネットワークを大幅に改良しこれを目指している。現行モデルFSDベータでは、ニューラルネットワークはカメラが捉えたイメージを解析し、オブジェクトを把握する。クルマは周囲に8台のカメラを搭載しており、AIはそれぞれのカメラが捉えた画像を解析する。

FSD最終版の仕組み

これに対して、FSD最終版はカメラが捉えたビデオを解析する。これは「4D Data」と呼ばれ、ステレオカメラの3D画像が時系列に繋がる動画を解析し、そこからオブジェクトの種類を把握し、次の動きを予測する。ニューラルネットワークには8台のカメラが捉えたビデオが同時に入力され、クルマ周囲の状況をリアルタイムに把握する。これにより、FSDは人間が運転するより100%から200%安全なクルマとなる。(下の写真、8台のカメラが捉えた画像)

出典: Tesla  

Dojo Supercomputer

ニューラルネットワークがビデオを解析するためには、タグ付きビデオでアルゴリズムを教育する必要がある。この教育システムは「Dojo Supercomputer」と呼ばれ、ここでシステムはビデオからタグ(ビデオの内容説明したテキスト)を自動で生成する。テスラの強みはビデオの量で、現行車両が撮影したビデオ画像がクラウドにアップロードされ、これをDojo Supercomputerでタグ付けする。タグ付けされたビデオを使ってFSDのニューラルネットワークを教育する。

現行FSDベータの評価

現行車両にはFSDベータが搭載され、限定的な自動運転機能を提供している。調査機関Consumer Reportによると、FSDは名前が示す自動運転機能には至っておらず、問題点が多いと指摘する。具体的には:

  • 「Navigate on Autopilot」は自動でハイウェイに乗り降りする機能であるが、目的の出口で降りないケースがある。また、込み合ったハイウェイで自動運転機能が解除される。
  • 「Traffic Light and Stop Sign Control」は信号のある交差点や一時停止標識で停止する機能であるが、停止せず直進した事例を報告している。

FSDベータは名前の通り、未完成の自動運転技術で、ドライバーは非常事態に備えスタンバイしておく必要がある。TeslaはAIを大改造することで、完全な自動運転技術を目指している。(下の写真、Auto Summon機能を使うとクルマが駐車場から玄関前に自動で走行しドライバーを迎える。)

出典: Tesla  

FSDベータ版を最終版にアップグレード

上述の通り、FDSベータはAIがクルマに搭載されたカメラの静止画像を解析する手法で自動運転機能を実現する。これに対し、FSD最終版はAIが格段に強化され8台のカメラの動画を同時に処理することで自動運転を実現する。Muskはこの機能はSuperhumanで、人間の運転技術を大きく上回ると説明した。Lidarを使わないでカメラでレベル5の自動運転車ができれば自動車産業にとって大きなブレークスルーとなる。

自動車産業はクラウド事業となるのか

テスラの株価が急騰しここ一年で700%近く上昇した。テスラの量産体制が整い、好調な業績を反映しているが、株価はこれ以上に上昇している。Muskによると、株価はテスラのロボタクシー事業を反映していると説明。テスラは車両販売の他に、ロボタクシー向けクラウドのサブスクリプション収入があり、株価をこれを先取りしている。自動車産業はクラウド事業となるのか市場が注目している。

Teslaは完全自動運転車を年内に投入すると表明、AIがクルマを運転する仕組みと解決すべき課題も判明

Tesla CEOのElon Muskは中国・上海で開催されたAIイベントで、完全自動運転車を今年末までにリリースすることをビデオメッセージで表明した。これは「Full Self-Driving」と呼ばれ、レベル5の自動運転機能で、ドライバーの介在無しにクルマが自律的に走行する。また、これを支えるAIについて、基本機能は問題ないが、まだ解決すべき課題があることも明らかにした。

出典: Tesla  

自動運転車の方式

自動運転技術は完成度が上がり、無人走行の試験が進んでいるが、クルマはどこでも走れるわけではない。自動運転車は事前に定められた域内だけで運行できる設計で、域外では自動走行できない。これに対しTeslaは、AIが人間のドライバーのように視覚(カメラ)の映像だけでハンドルを操作し、初めての街でも自律的に走行できる。これを支えているのが高度なAIでその構造と課題が明らかになった。

Waymoのアプローチ

Waymoなど多くの自動運転車はLidar(レーザーセンサー)とカメラを組み合わせて周囲の状況を把握する。更に、走行前にその地域の詳細なマップ(Base Map)を作成しておき、クルマはこれに沿って自動走行する。マップは仮想レールともいわれ、クルマは事前に定められたコースを忠実に走行する。

Teslaのアプローチ

これに対して、Teslaはカメラだけで自動運転機能を実現する極めて先進的なアプローチを取る。また、詳細マップは不要で、AIが人間のドライバーのように、初めての街でも運転できる。つまり、メーカーはクルマを販売するだけで、詳細マップの開発や更新は不要となり、事業規模を制約なしに拡大(Scalability)できる。Teslaは自動運転車事業を成功させるためにはこのアプローチしかないと主張する。

Teslaの自動運転技術

Teslaは「Autopilot」と「Full Self-Driving」の二種類の自動運転機能を提供している。Autopilotは運転支援機能で、ドライバーに代わりソフトウェアがクルマを制御する。クルマは周囲の車両の速度に合わせて走行し、車線を認識しレーンをキープする。Autopilotは限定的な自動運転機能で、ドライバーは両手をステアリングに添えておく必要がある。Autopilotはすべての車両に搭載されている。

Full Self-Driving

Full Self-Drivingは高度な自動運転機能で、高速道路や市街地を自動で走行する。高速道路では、入り口から出口まで自動走行し(Navigate on Autopilot)、車線変更も自動で行う(Auto Lane Change)。また、自動で駐車する機能や、駐車場からドライバーのところに自動で移動する機能もある(Smart Summon)。更に、市街地においては信号を認識し、自動で走行する。これは「Autosteer on City Streets」と呼ばれ、完全自動運転車の中核機能となる(下の写真)。この機能は2020年末までにリリースされる予定で、これでレベル5の完全自動運転車が完成する。

出典: Tesla  

完全自動運転車がデビュー

市販されているクルマはFull Self-Drivingに必要なセンサーやプロセッサ(FSD Computer)を搭載しており、ソフトウェアのアップデートで完全自動運転車となる。クルマを購入する際にFull Self-Drivingを選択するとこの機能を使え、価格は8,000ドルに設定されている。Full Self-Drivingのリリース時期は当初の予定から遅れたが、ついに年内に製品が登場する見込みが濃厚となった。他社が苦戦する中でTeslaが先行して完全自動運転車を市場に投入することになる。

【技術情報:Full Self-Drivingの仕組みと課題】

システム全体の構造

Teslaは自動運転システムについて明らかにしており(下の写真、左側)、AIのアルゴリズム教育から実行までを統合して実行する。市販車両はカメラで路上のオブジェクトを撮影するが、これらはデータベース「Data」に集約される。これを使ってアルゴリズムを教育(「Dojo Cluster」と「PyTorch Distributed Training」)し、その結果を検証「Evaluation」する。教育されたアルゴリズムはオンボードコンピュータ「FSD Computer」に実装されクルマを制御する。これに加えもう一つのAIがこの背後で稼働し、密かに自動運転の訓練を積んでいる(Shadow Mode)。

出典: Tesla  

ニューラルネットワークの構造

ニューラルネットワークは「HydraNet」と呼ばれ、カメラが撮影した映像を解析する。HydraNetは共通機能「Shared Backbone」に特定機能を搭載した構造となる(上の写真、右側)。共通機能はイメージ判定ネットワーク(ResNet 50)で構成され、ここでオブジェクトの種別を判定する。この情報を元に、特定機能がオブジェクト判定(Objects)や信号機の読み取り(Traffic Lights)などを行う。共通機能に複数の特定機能が首のようについており、その形が妖怪ヒドラに似ていることから、HydraNetと呼ばれる。

ニューラルネットワークの機能

HydraNetは道路周辺のオブジェクトを認識し、信号機や車線などを把握する。クルマはこの情報を元にレーンをキープし、赤信号で停止する。HydraNetは単体で使われるだけでなく、複数のネットワークを組み合わせ、複雑なタスクを実行する。例えば、二つのカメラが撮影した映像を二つのHydraNetで処理し、それを重ね合わせてオブジェクトを3Dで把握する(下の写真)。この他に、複数のHydraNetで道路のレイアウトを把握することもできる。

出典: Tesla  

AI専用プロセッサ

TeslaはAI処理専用プロセッサ「FSD Computer」(下の写真、左側)を独自で開発し、これをクルマに搭載し、AIを高速で処理する。このボードは二つのチップ「FSD Chip」を搭載し、チップにはAI処理装置「NPU」を積んでいる。クルマに搭載されているAIの数は多く、これらを処理するためには高性能AIプロセッサーが必要になる。クルマで48のニューラルネットワークが稼働し、1,000種類の判定結果(Tensor)を出力する。高速で走行するクルマはリアルタイムでこれらのAIを実行することが必須要件となる。

出典: Tesla  

クルマがオブジェクトを認識

クルマに搭載されたHydraNetは走行中にカメラが撮影した映像から、そこに映っているオブジェクトを判定する(下の写真、左側)。クルマや歩行者などの他に、道路の車線や道路標識などを把握する。このケースは一時停止標識「Stop」を検知した状況で、HydraNetが正しく道路標識を認識できるかがクルマの安全性に結び付く。

出典: Tesla  

アルゴリズム教育

このため、HydraNetは写真に写っている市街地の様々なオブジェクトを使って教育される。市販のクルマは搭載しているカメラで走行中に車線や道路標識や歩行者など数多くのオブジェクトを撮影し、これらの映像はTeslaのクラウドに送信される。Teslaは、写真に写っているオブジェクトの名称を付加し(上の写真、右側)、これを教育データとして使う。市販車両が撮影した大量の映像が教育データとして使われ、ドライバーはAI教育に寄与していることになる。

Data Engine

アルゴリズム教育では如何に多種類のデータを揃えるかでAIの認識精度が決まる。例えば、一時停止標識の見え方は様々で、街路樹に隠れて見えにくいケースや、夜間の暗がりで判別しにくいものがある(下の写真、左側)。Teslaは収集した映像の中から、異なるケースのオブジェクトを見つけ出すAI「Data Engine」を開発した。Data Engineは路上で起こりえる様々なケースを見つけ出し、アルゴリズムの判定精度を向上させる。

出典: Tesla  

データのロングテール

つまり、HydraNetの教育ではロングテールのデータを如何に大量に収集できるかで判定精度が決まる。クルマは走行中に考えられない事象に出くわす。トラックの荷台から椅子が落ち、クルマで犬を散歩させているシーン(上の写真、右側)に遭遇する。Data Engineはこれら非日常的なシーンを見つけ出し、これらのデータでアルゴリズムを教育すると、めったに起こらない事象にも対応できるAIが完成する。TeslaによるとAI開発の難しさはアルゴリズムではなく、これらロングテールのデータを揃えることにあるとしている。

Software 2.0

クルマのソフトウェアはAIとコーディングの部分で構成される。初期のソフトウェア(Software 1.0)はAIの判定結果を人間がC++でコーディングしてオブジェクトの意味を判断していた。最新のソフトウェア(Software 2.0)では、AIが独自でオブジェクトの意図を把握する。今ではソフトウェアに占めるAIの部分が大きくなり、入力から出力までプログラムの介在なく、AIが処理を担う方向に進んでいる。(下の写真、割り込みを検知する事例:Software 1.0ではルールをコーディングしてこれを検知(左側)、Software 2.0ではAIが事例を学習してこれを検知(右側)。)

出典: Tesla  

Bird’s Eye View Network

クルマが走行中に走行経路を予測するために専用のAI「Bird’s Eye View Network」が開発された。これは複数のカメラの映像(下の写真、上段)を繋ぎ合わせ、車線や道路の端や移動オブジェクトを把握し(下の写真、下段:青色が車線で赤色が道路の端を示す)、安全に走れるルートを算出する。クルマはこの解析データを元に走行する車線を決め、このネットワークが自動走行のブレインとなる。

出典: Tesla  

自動運転技術の最後の壁

Bird’s Eye View Networkの精度が自動走行できる範囲を決める。実社会には上の事例のようにシンプルな交差点だけでなく、複雑な交差点が多数存在する。人間でもうまく運転できない場所は多く、走行経路をニューラルネットワークが如何に正確に予測できるかがカギとなる。こがTeslaの自動運転技術開発の大きな壁となり、これを乗り越えないと完全自動運転車は完成しない。AIがカメラだけで道路の形状を認識、走行経路を算定できるのか、学術研究のテーマとしても大きな意味を持っている。このため、Teslaは大学に呼びかけ、共同研究を通じブレークスルーを目指している。

Lidar対カメラ

自動運転車のアーキテクチャは二つに分かれ、WaymoのようにLidarを使う方式と、Teslaのようにカメラを使う方式になる。前者が主流でクルマはLidarとカメラを併用して自動走行を実現する。一方、Teslaは独自の道を歩み、カメラだけでこれを実現する。ハードウェアの助けを借りないでソフトウェアでこれを実現するもので、AIの開発成果が成否を握る。この方式が成功すると、製造コストは劇的に下がり、自動運転車が幅広く普及することとなる。Teslaはハイリスク・ハイリターンなルートを進んでいる。