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若い血液を輸血すると老化が止まる、若返りの分子を特定し不老不死の薬を開発

シリコンバレーでBiogerontologyが注目を集めている。BiogerontologyとはBiology(生物学)とGerontology(ジェロントロジー、老化の科学)を合わせた造語で、なぜ動物や人間は老化するのかを生物学の観点から研究する学問を指す。AIなどの最新技術を取り入れ、老化のメカニズムを解明し、老化のプロセスを抑制する薬の開発が始まった。

出典: Harvard Innovation Labs

Elevianというベンチャー企業

Biogerontologyの分野ではCalicoに注目が集まるが、ベンチャー企業からイノベーションが生まれようとしている。Elevianは Allston(マサチューセッツ州)に拠点を置くベンチャー企業で(上の写真)、身体を若返らせる薬の研究を進めている。これに先立ち、ハーバード大学の研究グループは血液の中に存在する微量のたんぱく質が老化を止める機能があることを発見した。Elevianは大学と共同でこれを薬として開発する研究を進めている。

若返りのたんぱく質

身体を若返らせるたんぱく質はGDF11 (Growth Differentiation Factor 11)と呼ばれる。Elevianは老化に伴う病気の治療薬をGDF 11を使って開発している。対象は虚血性心疾患(Coronary artery disease)、 2型糖尿病 (Type II Diabetes)、アルツハイマー病(Alzheimer‘s Disease)などで、臨床試験前の研究が進められている。

若返りの研究

秦の始皇帝が不老不死の薬を探すよう命じた話は有名であるが、人体を若返らせる研究は早くから実施されてきた。若い人の血を輸血すると若返りの効果があると言われてきたが、1950年代にはコーネル大学でこの研究が始まった。この手法はParabiosisと呼ばれ、2014年にはスタンフォード大学の研究グループがマウスを使った実験でその効果を確認した。若いマウスと高齢のマウスを接続し、血液を相互に循環させると、高齢のマウスの脳や筋肉組織の機能が向上した (下の写真)。

出典: Nature

ハーバード大学の研究

ハーバード大学のAmy Wagers教授らもこの効果を確認し、更に、何が若返りの要因であるかの研究を進めた。血液の中の物質を調べ若返りに寄与する分子を探した。具体的には、若いマウスと高齢のマウスの血液を比較し、両者の間の組成成分の差異を計測した。代謝(Metabolome)や脂質(Lipidome)について解析したが有益な情報は得られなかった。たんぱく質解析(Proteomics)で、1300のたんぱく質を検証したところ、GDF 11がその要因であることを突き止めた。

マウスでの効果

Amy Wagers教授らは、次のステップとして、マウスを使ってGDF 11の効果を検証した。GDF 11は自然界に存在するたんぱく質で体内で生成される。同グループはこれを人工的に生成しマウスに注入しこの効果を観察した。GDF 11を高齢のマウスに注入すると、心臓肥大(cardiac hypertrophy)を抑制できることが確認され、心臓疾患を防ぐ効果があることが分かった。また、骨格筋(skeletal muscle)の修復作用が増すことも確認された。更に、マウスの活動が活発になり、脳機能が向上し、体内の血液循環が良くなったと報告している。

人体での効果は

GDF 11を人体に適用することはできないが、別の研究グループは、体内のGDF 11の量と病気発症の確率を調べた。その結果、心臓疾患患者はGDF 11のレベルが低いことが判明。反対に、GDF 11のレベルが高いグループは心臓疾患を引き起こす割合が低いことが明らかになった。更に、死亡率とGDF 11のレベルは反比例することも分かり、GDF 11が人体にもたらすメリットに期待が集まった。

商用化への取り組み

これら基礎研究の結果をベースに、ElevianはAmy Wagers教授を中心とするハーバード大学の研究グループと共同で、GDF 11を使った薬の開発に着手した。Elevianは大学のコーワーキングスペース「Pagliuca Harvard Life Lab」に入居し(下の写真)、研究グループと密接に開発を進めている。この開発は業界で注目され、Bold Capital Partnersなど著名ベンチャーキャピタルがElevianに出資している。

出典: Pagliuca Harvard Life Lab

ロードマップ

ElevianはGDF 11を適用した薬を開発するが、最初の適用は虚血性心疾患となる。その後、糖尿病やアルツハイマー病の薬が開発される。薬の開発は臨床試験を始める前の段階で、製品が完成するまでには時間を要す。GDF 11は細胞や組織を若返らせる効果を持っており、体の多くの部分に適用できるのではと期待されている。Elevianには老化研究の第一人者が揃っており、その将来に注目が集まっている。

Google系Calicoはヒトの寿命の伸ばす研究を進める

CalicoはAlphabetの子会社でSouth San Francisco(カリフォルニア州)に拠点を置き、ライフサイエンスの研究を進めている(下の写真)。老化と健康な生活がテーマで、ヒトの寿命を延ばす基礎研究を展開。Calicoは2013年に設立され、Apple社の会長であるArthur LevinsonがCEOを務めている。

出典: Google  

ミッション

Calicoは老化とそれに関連する病気の解明を目指している。ヘルスケアとライフサイエンスに関する”アポロ計画”で、人々の健康を改善することをミッションとする。Calicoはベル研究所(Bell Labs)に例えられる。ベル研究所で半導体が開発され情報処理産業が誕生したように、Calicoの寿命を延ばす研究がライフサイエンスのブレークスルーとなることを目指している。

組織構造

Calicoは加齢(Aging)をバイオロジーの分野で解決されていない基礎課題と位置づける。Calicoは大学のような研究機関を企業が運営する構造で、事業化ではなく基礎研究が活動の中心となる。Calicoは製薬企業と提携し、研究成果を実際の製品に応用する。研究資金はAlphabetと提携企業が拠出する。Calicoは現代版ノアの箱舟(Noah‘s Ark)ともいわれ、酵母、虫、希少動物などを集め加齢の研究を進めている。

研究成果を公表

Calicoは研究内容を殆ど公開しておらずステルスモードで活動してきたが、2016年頃から論文の公開が始まり、研究の一端が見えてきた。Calicoは2018年1月、論文「Naked mole-rat mortality rates defy Gompertzian laws by not increasing with age」を公開し、ラットを使い加齢の研究をしていることを明らかにした。

Naked Mole-Ratの研究

論文によるとNaked Mole-Rat(ハダカデバネズミ、下の写真)はGompertz’s Mortality Lawに従わず長寿であることが実証された。Naked Mole-Ratとはネズミの一種であるが際立った特性を持っている。体には殆ど毛が生えておらず奇妙な外見をしている。地中で生活し、体温は外気の温度に従って変化する外温動物(Ectothermic)である。Naked Mole-Ratは殆どガンを発症することなく、18分間、酸素無しで生存できる。

出典: Jedimentat44 on Wikipedia

長寿のメカニズム

一般にネズミの寿命は6年程度であるが、Naked Mole-Ratの寿命は30年を超えることが知られている。Naked Mole-Ratは閉経が無く、一生にわたり生殖し子供を産むことができる。心臓や骨は老化することなく、若い状態を保っている。CalicoはNaked Mole-Ratを対象に長寿のメカニズムを解明する研究を進めている。

年齢と死亡率

CalicoはNaked Mole-Ratを3000匹調査し、その多くが30年生存することを把握した。哺乳類の死亡率は生殖期間を過ぎると幾何級数的に増大する(下のグラフ)。この現象をGompertz’s Mortality Lawと呼ぶ。人間の場合は30歳を過ぎると、8年ごとに死亡率が倍増する(下のグラフ右側、水色の線)。しかし、Naked Mole-Ratはこの法則には従わず、年齢を重ねても死亡率が変わらない(下のグラフ右側、緑色の線)。(下のグラフの横軸は相対年齢(子供を生める年齢を1とする)で、縦軸は死亡率を示している。)

出典: J Graham Ruby et al.

メカニズムの解明

論文はNaked Mole-RatはGompertz’s Mortality Lawに従わず、年を取らないと結論付けている。Naked Mole-Ratは実験で使われ、その途中で死亡することが多く、長期間飼育したデータが不足している。次のステップは、これを確認するために、多くの検体を長期間飼育し、その実態を明らかにすることとなる。更に、Naked Mole-Ratの長寿のメカニズムを解明することが最終目的となる。

AbbVieとの共同研究

CalicoはAbbVieと密接に共同研究を進めている。AbbVieとは製薬大手Abbott Laboratoriesから分離独立した会社で、バイオ医薬品会社として基礎研究を推進する。Lake Bluff(イリノイ州)に拠点を置き、シリコンバレーなどに研究施設を持っている。  

研究予算

Calicoは2014年からAbbVieと加齢に関し、ガンや神経変性疾患(neurodegenerative diseases)を対象に研究を推進している。2018年6月には、両者は共同研究に10億ドルを出資することで合意し、累計研究予算は25億ドルとなった。両社は既にガンや神経変性疾患に関する20件以上の研究プログラムを進めている。

研究と商品化

両社の間で役割分担が決まっており、Calicoは2022年までに基礎研究と初期ステージの開発を司る。また、Calicoは2027年までにPhase 2(小規模な臨床試験)の開発を担当する。一方、AbbVieは後期ステージの開発を受け持ち、製品化を担当する。加齢に関する研究はバイオ医療企業にとって重要なテーマで、老化に伴う病気を治療する技術の確立を目指している。

Oracleの試み

加齢に関する研究は多くの著名人が資金を投じ、その解明を進めてきた。Oracle創設者Larry Ellisonは非営利団体「The Ellison Medical Foundation」を設立し、医療技術の研究を推進している。中心テーマが加齢に関する研究で、Ellisonは3億ドル超を出資しブレークスルーを目指した。しかし、この研究は中止となり、研究資金はポリオに関する研究に振り向けられた。加齢に関する研究に注目が集まるが、動物が年を取るメカニズムの解明には至っていない。

リスク要因

人間の平均寿命は150年前までは40歳程度であったが、今では80歳程度に倍増した(下のグラフ)。これはワクチンの登場や食生活の改善によるところが多い。しかし、現在ではガン、心臓疾患、脳卒中、認知症が最大のリスク要因となり、これらが平均寿命の延びを抑えている。これらの病気はいずれも加齢により発症する。

出典: Our World in Data

加齢プロセスの解明

これらの病気を一つづつ解明して、治療方法を探る研究が続いているが、この研究は上手く進んでいるとは言い難い。その理由は、生物学的な加齢のメカニズムが理解されていないためで、病気治療は加齢のプロセスを抑えることでもある。Calicoはこのゴールに向かい、加齢という最大のリスク要因を解明するための研究を進めている。

血液一滴でガンを超早期に検知する技術、 臨床試験で好成績をマーク

血液検査でガンを早期に発見する技術「Liquid Biopsy」の技術開発が進み実用段階に入ってきた。ガンを早期に発見できると生存率が格段に向上する。後期ステージに比べ生存率が5倍から10倍向上し、ガンは治療できる病気となる。この技術の背後にはDeep Learningがあり、アルゴリズムがガンのシグナルを検知する。

出典: VentureClef

会社概要

GrailはMenlo Park(カリフォルニア州)に拠点を置くベンチャー企業で、Liquid Biopsy技術で業界のトップを走る。Grailは高精度のDNAシークエンシング技術を使い、血液中を流れる遺伝子の断片を検出する。検知した遺伝子断片をAIで解析し、それがガンであるかどうかを判定する。血液中を流れるガン遺伝子断片の数は希少で、また、その種類は膨大で、検知に高度な技術を要す。シークエンシングではIlluminaのDeep Sequencingが、ガン判定のプロセスではDeep Learningの手法が使われる。

ベンチャーキャピタル

GrailはIlluminaからスピオンオフし独立企業として運営している。ベンチャーキャピタルから注目され、大規模な投資を受けている。また、Bill GatesやJeff Bezosが出資していることでも話題となっている。今年Grailは香港に拠点を置くベンチャーキャピタルから大規模な投資を受け、この資金を元にアジアでの事業展開を進めている。Grailは香港で今年から、咽頭ガン(nasopharyngeal cancer)検知の医療サービスを始める。

大規模な臨床試験

これに先立ち、Grailは開発した技術を検証するために、大規模な臨床試験を実施した。臨床試験の目的は、大規模データを使いAIアルゴリズムを教育することと、教育したアルゴリズムが正しくガンを判定できることを確認することにある。実際に、血液サンプルからガン遺伝子の組織を検出し、高精度でガンをスクリーニングできるかを検証した。

ガンのシグナル

Grailは15,000人の被験者を対象に臨床試験を実施した。このうち70%がガン患者で、被験者から血液サンプルを採取し、cfDNAの手法でDNA断片を解析する(後述)。DNA断片の特徴を抽出し、ガンであるシグナルを把握する。同時に、ガンでないシグナルも把握する。これがガンを特定するデータベースとなり、製品開発の基礎技術となる。

臨床試験の結果

臨床試験では19種類のガンについて検知精度(Sensitivity)が測定された。検知精度は特異性(Specificity)が98%のポイントで測定された。この中で肺ガンについて、前期ステージのガンを51%の精度で検知できた。これは業界トップレベルの検知精度で、Liquid Biopsyの実用化が視界に入ってきた。一方、製品として提供するには、更に精度を向上させる必要があり、今後も開発は続く。

出典: Sysmex  

解析手法

Grailはcell-free DNA (cfDNA) と呼ばれる手法を使っている。これは血液中のがん細胞遺伝子(ctDNA、circulating tumor DNA、上の写真、赤色のらせん構造)を検知することでガンを特定する手法である。ctDNAはガン細胞から血管中にリリースされたDNAで、これを検出してガン発症をつかむ。膨大な数のDNA断片の中から数少ないctDNAを検出するために大規模データをDeep Learningの技法で解析する。

Deep Sequencing

血液サンプルはDeep Sequencingと呼ばれる高度なシークエンシング技術で処理される。シークエンサーはIlluminaのNGS (Next-Generation Sequencing、下の写真) が使われる。シークエンシングされたデータの量は膨大でこれをAIで解析する。Grailは大規模データを取り扱うIT企業でもある。

出典: Illumina  

事業開始時期

膨大な数のcfDNAからガン細胞から排出されたctDNAを検出するため、Deep Sequencingの手法でシークエンシングする。このため検査コストは高く一回の検査で1万ドル近くかかる。このためGrailは保険会社などと交渉し、スクリーニング試験に保険を適用することを計画している。Grailは2018年から香港で事業を開始するが、米国での事業時期は明らかにしていない。

ガンによる病死を激減させる

GrailはLiquid Biopsy研究でトップを走っている。Grailの特徴は血液検査で異なる種類のガンを検知でき、初期ステージのガンの検知精度が高いこと。市場に出ているLiquid Biopsyは特定のガン(大腸がん等)に特化し、後期ステージのガンの検知で使われる。Grailは初期ステージのガン検知を目指し、スクリーニング技術を一般に幅広く普及させ、ガンによる病死を激減させることを目標としている。

米国政府は23andMeの遺伝子解析による乳がん検査を認可、消費者はがん発症リスクを知り健康管理

アメリカ食品医薬品局 (FDA、Food and Drug Administration) は23andMeに対し、遺伝子解析で乳がん発症のリスクを検査することを認可した。これにより消費者は、乳がんを発症するかどうかを知ることができるようになった。FDAがこの手法を認可したことで、米国では個人向け遺伝子解析サービスが急拡大する勢いとなってきた。

出典: VentureClef

23andMeの遺伝子解析サービス

FDAから認可を受けたのはMountain View (カリフォルニア州) に拠点を置く23andMeというベンチャー企業で、個人向け遺伝子解析サービスを提供している (上の写真)。23andMeは、遺伝子配列の変異から被験者がどんな病気を発症するのかを予測し、米国医療市場に衝撃を与えた。しかし、FDAは2013年、予測精度が十分でなく、消費者が不要の手術を受けるなど危険性が伴うとして、業務停止命令を出した。このため、23andMeは医療解析サービスを中止し、人種解析サービスに特化して事業を進めてきた。

FDAから認可を受ける

その後23andMeは事業内容を改良し、2017年4月、FDAは10種類の病気に限り遺伝子解析サービスを認可した。ここにはパーキンソン病やアルツハイマー病が含まれており、消費者は病気を発症するリスクを把握できるようになった。これに続き、2018年3月、FDAは乳がんや子宮頸がんに関する遺伝子解析サービスを認可した。病院では乳がんのスクリーニングで遺伝子解析が使われているが、消費者は23andMeのサービスを使ってがん発症のリスクを知ることができるようになった。

BRCA1とBRCA2遺伝子

乳がん検査では「BRCA1」と「BRCA2」という遺伝子(下の写真)を解析する。BRCA1とBRCA2は共に、ガン発症を抑える機能を持ち、がん抑制遺伝子 (Tumor Suppressor Gene) と呼ばれる。BRCA1とBRCA2は傷ついた遺伝子を修復するためのたんぱく質を生成する。しかし、BRCA1とBRCA2がダメージを受けると、この修復機能が影響を受け、がん発症のリスクが高まる。特に、女性の乳がんと子宮頸がんの発症が高まる。男性にも関与ており、前立せんがんの発症リスクが高まる。

出典: Wikipedia

遺伝子変異とリスク

BRCA1とBRCA2の遺伝子変異ががん発症のリスクを高めるが、これらはAshkenazi Jewish (ユダヤ人のグループ) に多く見られる。このグループの40人に一人がこの遺伝子変異を持つとされる。また、この遺伝子変異を持つ女性の45-85%が70歳までにガンを発症するともいわれている。女優Angelina JolieはBRCA1の遺伝子変異が見つかり、予防のために両乳腺を切除する手術を受けたことを公表した。このニュースのインパクトは大きく、BRCA遺伝子変異と乳がんの関係が認識され、遺伝子検査への関心が高まった。

遺伝子解析の限界

BRCA1とBRCA2に注目が集まっているが、これらの遺伝子変異が検出されなければガン発症のリスクがゼロになるというわけではない。23andMeが試験する範囲は限られており、がん発症リスクをすべて網羅するものではない。BRCA1とBRCA2の遺伝子変異の数は1000を超えるが、23andMeはこのうちの三つを対象に検査する。また、がん発症はライフスタイルとも大きく関係しているが23andMeはこの要素は勘案していない。乳がん発症の原因は数多いが、23andMeはその中で代表的なBRCA1とBRCA2に特化してリスクを評価している。

解析結果をどう解釈すればいいのか

このように遺伝子解析は複雑で完全なものではなく、23andMeから受け取るレポートをどう解釈すればいいのか、消費者から戸惑いの声が聞かれる。これに対して、CEOであるAnne Wojcickiは、ブログの中で、解析結果の活用方法を述べている。23andMeの遺伝子検査は「病気を診断するものではなく」、また、「病被験者が検査結果を見て医療方針を決めてはならない」としている。つまり、検査結果の解釈については、病院の医師などに相談し、判断を仰ぐべきとしている。また、23andMeは、遺伝子解析専門のカウンセラー(Genetic Counselors)に相談してアドバイスを受けることを推奨している。

遺伝子解析専門カウンセラー

遺伝子解析専門カウンセラーとは馴染みのない名前であるが重要な役割を担っている。病院の医療チームの一員で、遺伝子疾病 (Genetic Disorder) に関し、患者にカウンセリングする職務である。サンフランシスコ地区では多くの病院で遺伝子解析専門カウンセラーを置いており患者をサポートしている (下の写真、大手病院Kaiser Permanenteの事例)。個人向け遺伝子解析サービスが急増する中、解析結果を解釈する仕事が増えている。カウンセラーは、遺伝子解析結果を被験者に分かりやすく説明し、必要であれば専門医を紹介する。

出典: Kaiser Permanente

病院の先生は否定的

病院の医師の多くは消費者が独自に遺伝子解析を受けることに対し否定的な考えを持っている。病院では家系に乳がんの病歴がある患者に限り遺伝子解析などでスクリーニングテストを実施している。この条件に該当しない患者が遺伝子検査を受けることは実用的でなく、また、心理的な負担が大きいとしている。

もし遺伝子変異が見つかると

医師の考え方とは裏腹に、多くの消費者が既に23andMeの遺伝子検査を受けている。今までは、BRCA1とBRCA2に関する解析結果は被験者に通知されなかったが、FDAの認可を受け、23andMeはその結果を会員に順次通知する。この結果、発がんリスクが高いと判定された被験者は、23andMeの指針に沿ってカウンセラーや病院の医師の診察を受けることになる。女性の場合は乳がんなどで、男性の場合は前立せんがんが対象となる。

解析と治療のギャップ

これから相談を受ける医師がどのように対応するのかは見通せないが、病院で詳細な検査を実施し、定期的にスクリーン検査を受けることなどが予想される。このように23andMeは遺伝子解析結果を示すにとどまり、その後の医療措置はカウンセラーや医師に任された形となっている。消費者としては両者の間に大きなギャップを感じ、サービスが完結していないとも感じる。

出典: 23andMe

未完のサービスであるが

未完のサービスであるが消費者の間で遺伝子解析サービスの利用者が急増している。23andMeで遺伝子検査を受け、アルツハイマー病を発症するリスクが高いと診断された消費者は、介護保険を購入する動きが急拡大している。病気のリスクを把握し、それに応じてライフプランを修正する人が増えている。消費者は自分の将来の健康状態を知りたいという欲求が強く、問題を抱えながらも、個人向け遺伝子解析サービスが急成長している。

AIが人の死亡時期を予測する、医師より正確で終末期医療で使われる

Deep Learningで人がいつ死ぬかを正確に予測できるようになった。アルゴリズムに医療データを入力すると、医師より正確に患者の死亡時期を算出する。AIに余命を宣告されるのは違和感を覚えるが、病院ではこれが重要な情報となる。

出典: Stanford Medicine

スタンフォード大学の研究

スタンフォード大学の研究チームは入院患者の余命をDeep Learningで予測する研究成果を発表した。論文「Improving Palliative Care with Deep Learning」によると、アルゴリズムは患者の余命を93%の精度で予測する。この研究成果は終末期医療を上手く運営するために使われる。現在は医師が終末期医療が必要な患者を選び出すが、余命を長めに推定する傾向が強く、多くの患者がケアを受ける前に亡くなっている。

Palliative Care

スタンフォード大学大学病院 (上の写真) は終末期医療を提供している。これはPalliative Care (パリアティブ ケア) と呼ばれ、余命一年以内の患者を対象とし、治療を進めるとともに本人の意思を尊重し、苦痛や不安を和らげる処置も取られる。Palliative Careは患者とその家族の生活の質を向上させることを目的にしている。

ケアを受ける患者

大学病院はPalliative Careを運営するものの、この治療が必要な患者を上手く特定できないという問題を抱えている。このケアが必要な患者とは余命が3か月から12か月の患者と定義している。このケアを受けるには前準備で3か月かかり、また、12か月を超えてケアを継続するには医師やナースの数が足らない。

医師による余命の算定

このため、担当医師が余命が3か月から12か月の患者を特定し、Palliative Careに移管する仕組みとなっている。しかし、多くのケースで担当医師は患者の余命を長めに予測する。そのため、患者の多くはPalliative Careを受けることなく死亡する。医師は患者の電子カルテのデータを参照し、今までの経験から余命を推定する。人間としての定めなのか、余命の算定は長めになる場合が多い。

患者データとアルゴリズム

このような背景のもとでDeep Learningによる余命算定の研究が進められた。アルゴリズム開発で、スタンフォード大学病院の患者データベース「Stanford Translational Research Integrated Database Environment」が使われた。これは患者の電子カルテ情報を集約したもので、アルゴリズム教育と検証に使われた。患者医療データをアルゴリズムに入力すると、死亡時期を算定する。具体的には、Deep Learningモデルは、患者が3か月から12か月以内に死亡するかどうかを判定 (Binary Classification) する。

アルゴリズム教育

アルゴリズム教育のために221,284人の患者のデータが使われた。この中には3か月から12か月の間に亡くなった患者(15,713人)と、12か月を超えて生存した患者(205,571人)が含まれている。これらのデータを使ってDeep Learningアルゴリズムを教育し、その結果が検証・試験された。

出典: Nigam H. Shah et al.

ネットワーク構造

アルゴリズムはDeep Neural Networkで、入力層と中間層 (18段) と出力層から成る。入力層は13,654のディメンション (13,654種類のデータを入力) で、出力層はスカラーで3-12か月の間に死亡する・しないを判定する。ネットワーク構造はトライアルエラーの方式で多くのモデルが試された。これはHyper-Parameter検索と呼ばれ、ネットワークの基礎となる構造 (ネットワークの段数やアクティベーションファンクションの種類など) を決めていく。

アルゴリズムの評価

完成したアルゴリズムは様々な角度から評価された。対象となる患者を判定する精度 (AUC) は0.93で (上の写真)、100人の患者を選ぶと93人が正しいということになる。また、評価指標として「Precision Recall」を示している。アルゴリズムのPrecision (精度) が0.9の時、Recall (範囲) は0.34をマークした。アルゴリズムの精度が0.9のとき、全対象患者の0.34をカバーするという意味になる。アルゴリズムは精度が高く病院で使えることを示している。

アルゴリズムの判定メカニズム

この研究ではアルゴリズムの精度だけでなく、アルゴリズムが判定した根拠を解析する試みが行われた。複雑な構造のネットワークを直接解析するのは難しいので、入力するデータのパラメーターを変更することで、アルゴリズムが判定した根拠を導き出した。つまり、アルゴリズムのブラックボックスを開けて、その仕組みを垣間見たことになる。

医学的な根拠は

入力データのパラメータを変更することで、患者の生存率を判定する要因を導いた。入力データの種類は、病状だけでなく、治療措置や検査回数など幅広い情報を含む。その結果、アルゴリズムが死亡時期を判定するときに重視した項目は、膀胱腫瘍、前立腺腫瘍、病理検体摘出措置、放射線検査回数などとなる。病気の種類で余命が決まることは直感的に理解できるが、アルゴリズムは病理検体が抽出されることやMRI検査などの回数から死亡時期を算出した。これ以上の説明はないが、MRI検査を頻繁に受けることは、ガンが転移していることの傍証になるのかもしれない。

米国でPalliative Careが広がる

米国内で多くの病院がPalliative Careの導入を進めている。2008年には病院の53%がこのケアを提供していたが、2015年には67%に増加している。Palliative Careを提供する病院が増えているものの、必要な患者の7-8%しかこのケアを利用していないという統計もある。このギャップは病院側のリソース不足に加え、上述の通り、担当医師が対象となる患者を正しく判定できないという問題がある。このため、Deep Learningなどテクノロジーの果たす役割が期待されている。