Anthropicの外部評価機関として活動している非営利組織「METR」は報告書「Independent Assessment of AI R&D Acceleration at Anthropic in October 2026」を公開した。この報告書は、AnthropicはAIモデルの改良ペースを従来の約2倍に加速させており、その主因はAIを活用した研究である可能性が高いと指摘する。更に、AIモデルの機能進化が社会がリスクを管理能力を上回るペースで進んでいると警告した。

| 出典: METR |
報告書の概要
METRの報告書は、AIモデルの性能改良のペースが1年で約2年分の進展を遂げたと推定する。2025年10月以降、Anthropic社内のベンチマークの進捗ペースは1.9倍に加速している。その主因は「AIがAIを開発する」スキーマで、METRは現在の加速要因の約80%がAIの利用によるものとしている。一方で、AIモデルを教育するための計算資源の拡張が理由である可能性は無いと明確に否定している。また、AI開発の主導権は依然として人間の研究者であり、機能進化は主にAIが人間の作業を支援することによって生じている。
AIの貢献度
METRは開発ペースが1.9倍に加速したが、何が推進力なのかを多角的に検証している。過去のトレンドラインを超える「追加成長(Excessive Growth)」の大半(約80%)は、AIによる研究開発支援(AIによるコード生成やデータ前処理など)からもたらされたと暫定的に結論づけている。
AIの貢献度を可視化
報告書の中でMETRはAIの貢献度を可視化したグラフを示している(下の画像)。横軸は時間軸で、縦軸はモデルの能力向上を示す指標「AECI(Anthropic Epoch Capabilities Index)」となる。青色の線は2025年10月以前の成長ペースで、橙色の実線)は、2025年10月以降、社内ベンチマーク等で実際に観測された進展曲線を示している。灰色の破線は、研究開発に高度なAIが使われていない場合の推定値となる。加速要因は非AIによる追加成長(薄灰色領域)とAIによる追加成長(薄橙色領域)となる。METRは、追加成長の大半(約80%)は、AIによる研究開発支援からもたらされたと結論づけている。

| 出典: METR |
性能加速が意味すること
この報告書は高度なAIが研究者を支援して、さらに高度なAIを開発するというサイクルに入っているとしている。安全性評価や統制能力を上回るペースで技術進化が加速するリスクが現実のものになったことを示している。METRがこの報告書を公開した理由は、意思決定者への情報提供で、AIの能力が加速度的に進化し、リスクが予想を上回るペースで増大することを、一般市民、政策立案者、開発者へ提示することにある。
FAKE DATAのグラフ
グラフの背景に「FAKE DATA」との透かしがある通り、これは説明用のスケッチであり、実際のデータではないことを示している。Anthropicは機密保持のため実際の数値を使うことを許可せず、METRはデータをプロットしたものではなく、分析ロジックを視覚化した概念図として公開した。
METRとは
METR(Model Evaluation and Threat Research)は、外部評価機関として活動している非営利組織で、Anthropic以外にOpenAI、Google DeepMind、Meta、Amazonとも連携し、高度なAIのリスクの評価を行っている。METRは、高度なフロンティアAIがもたらす脅威や破滅的なリスク(人間による制御喪失など)を実証的に評価することをミッションとし、AI開発企業から独立して研究活動を展開している。

| 出典: METR |
活動の限界と報告書の意義
METRはAI企業からの資金提供を一切受け付けてなく、主に寄付によって運営されている。この報告書の作成ではAnthropicからの評価報酬の支払いはなく、システム資源(AIトークンなど)だけが無償で提供された。METR研究者はAnthropic社員と同等の扱いとされ、機密データセット、社内文書、研究者へのインタビューが提供された。一方で、非公開情報の開示可否はAnthropicが管理しており、METRが重要であると考えた根拠情報の多くを非公開化した(上述のFAKE DATAの部分)。これらの制約のなかで、METRはAIによるAI開発の自己加速の実態を、独立した外部評価機関として可視化し、AIセーフティ議論に客観的な評価基準を提供した。