カテゴリー別アーカイブ: トランプ大統領

女性の服を脱がせるAIモデルが水面下で爆発的に普及、法規制が進むが被害が増大、AIがディフージョンモデルに進化し大量のコンテンツが生成される

女性の服を脱がせるAIツール「Nudification」が水面下で爆発的に広がっている。Nudificationとはヌードに変換するという意味で、早くから使われてきたが、AI技法が進化し使い方が容易になり、大量のコンテンツが生成されている。同意を得ない性的なイメージが殆どで、被害件数が急増している。連邦政府はヌード化されたコンテンツを掲載することを禁止する法令を制定し、AI規制の第一歩を踏み出した。しかし、Nudificationの使用を禁止するものではなく、効果は限定的で、多くの課題が積み残されている。

出典: Generated with OpenAI GPT-5

Nudificationとは

「Nudification」とはヌードイメージを生成する技法を指し、写真に写っている女性の服を脱がせるツールとして使われている。技術的な視点からは、AIモデルが女性の全体像を解析し、そこから衣服の部分を特定(Segmentation)する。次に、この部分(マスク)を含め、身体の構成(手足や胴体など)を推定する(Pose Prior)。更に、この基本情報を元に、AIモデルがマスクに肌や質感などをペイント(Inpainting)する。AIモデルは身体に関するデータを学習しており、高精度で身体を再現する。一般に、フェイクイメージを生成する技法は「ディープフェイク(DeepFakes)」と呼ばれ、Nudificationはこの主要コンポーネントとなる。

フェイクイメージ生成技法

マスク部分に肌をペイントする技法は、今までは「Generative Adversarial Networks (GANs)」というAIモデルが使われてきた。GANは二つのAIモデル、「生成ネットワーク(Generator)」と「識別ネットワーク(Discriminator)」で構成され、両者が競い合ってリアルなイメージを生成する(下の写真)。具体的には、生成ネットワークがイメージを出力し、識別ネットワークがその真偽を判定する。このプロセスを繰り返し、識別ネットワークが偽イメージを見抜けない段階に達し、リアルなイメージが完成する。この手法で人物や風景などのフェイクイメージが生成されてきたが、これが女性を裸にするツールに適用され重大な社会問題を引き起こした。

出典: Google

ディフュージョンモデルに進化

一方、GANを使うには技術を要し、また、その出力は完成度が低く、リアルなヌードイメージを生成するにはスキルを要した。今では、フェイクイメージを生成するための技法として「ディフュージョンモデル(Diffusion Model)」が幅広く使われている。ディフュージョンモデルとはアルゴリズムを教育する手法で、イメージにノイズを付加し、それを取り除くスキルを学ぶことでハイパーリアルな写真を生成する(下の写真)。

出典: Stable Diffusion

ディフュージョンモデルをNudificationに適用

ディフュージョンモデルは言葉に従って高精度なイメージを生成する機能を持つ。更に、入力された写真を編集する機能(Inpainting)があり、この技法がNudificationで使われる。新興企業Stable Diffusionはこの手法でリアルなイメージを生成し、Inpainting機能で写真のマスク部分を編集する機能を持つ(下の写真)。最新のディフージョンモデルは「ディフージョン・トランスフォーマ(Diffusion Transformer)」を搭載し、高品質な画像を大量に生成できるようになった。GPT-5などフロンティアモデルの基礎技術がNudificationで使われ、高品質なフェイクイメージが大量生産される時代になった。

出典: Stable Diffusion

Nudificationの事例

市場には数多くの種類のNudificationサイトやアプリがあり、ここで大量のコンテンツが生成されている。その代表は「CrushAI」というアプリで簡単な操作でヌードイメージを生成する(下の写真)。このアプリは香港に拠点を置く企業Joy Timeline HK Limitedが開発した。対象とする人物の写真をアップロードし、「Erase now」ボタンを押すと、AIモデルが衣服の部分を肌に書き換え、女性を裸にしたイメージを生成する。シンプルなインターフェイスで技術知識なしに使うことができ、市場で急速に利用が広がっている。非営利団体BellingcatがNudificationツールを追跡し、被害の状況をレポートしている。

出典: Bellingcat

MetaはCrushAIを提訴

CrushAIの利用が急拡大した背景には、ソーシャルメディアで広告を掲載し、利用者をサイトに誘導したことにある。CrushAIはFacebookやInstagramにアプリの広告を掲載し、ヌード化の機能をアピールした。これに対しMetaは、Joy Timeline HK Limitedは利用規定に反して広告を掲載したとして同社を訴訟した。Metaは同意を得ない性的なイメージを生成するツールを広告することを禁止している。

アメリカ連邦政府

社会でNudificationの被害が拡大する中、連邦議会は非同意の性的イメージを公開することを禁止する法令「The TAKE IT DOWN Act」を制定した(下の写真)。また、性的イメージを掲載するプラットフォームに対して、これを削除することを求めている。連邦政府はAI規制に消極的なポジションを取るが、性的な被害が拡大する中、対策に向けて一歩を踏み出した。一方で、この法令は個人が非同意の性的イメージを生成することは禁止しておらず、被害の拡大を食い止めることはできていない。特に、裸体のイメージで対象者を脅す「セクストーション(sextortion)」の被害が米国で急増している。

出典: Joyful Heart Foundation

ディープフェイクと表現の自由

AI技術は急速に進化し規制法はこのスピードに追随できない現状が改めて明らかになった。ディープフェイクは敵対国がアメリカの世論を操作する手段として使われるとして警戒をしてきたが、実際には、Nudificationによる被害が広がり、この対策が喫緊の課題となっている。アメリカは憲法修正第1条(First Amendment to the United States Constitution)で表現の自由(Freedom of expression)を定めており、国民は公権力によって規制されることなく、自由に思想や意見を主張する権利を持つ。有害なディープフェイクを規制する根拠となる考え方について議論が進んでいる。

米国政府は中国AIモデルの検証をスタート、DeepSeekは重大なセキュリティ・リスクを内包!!政府や企業に注意を喚起

米国政府は中国企業が開発したフロンティアモデルの検証を開始した。これはトランプ政権の「AIアクションプラン」に基づくもので、NIST配下の「CAISI(旧称AISI)」が安全試験を実施しその結果を公表した。DeepSeekが最初のケースとなり、報告書はジェイルブレイクなどサイバー攻撃への耐性が低いと評価した。一方、DeepSeekの性能は米国企業の最新モデルに及ばないものの、その差は小さいとしている。報告書は技術的な観点からモデルを評価するものであるが、米国政府は関連機関にDeepSeekの調達を控え、また、民間企業にはその運用で注意するよう呼びかけている。

出典: Center for AI Standards and Innovation

調査レポートの概要

この安全試験は国立標準技術研究所(National Institute of Standards and Technology、NIST)配下のAI標準イノベーション室(Center for AI Standards and Innovation、CAISI)で実施された。CAISIはAIモデルの技術開発支援と安全評価をミッションとする。トランプ政権はAIアクションプランで、国家安全保障の観点から、外国製のAIモデルを評価することをCAISIに求めており、今回の安全試験はこの最初のケースとなる。政権は中国製のフロンティアモデルを念頭に、これが米国や同盟国で普及するとセキュリティや情報操作で重大なリスクが発生すると懸念している。

評価対象モデル

安全試験では中国製AIモデルとしてDeepSeekの三つのモデル(R1, R1-0528, V3.1)が対象とした。Rシリーズは推論モデルで、Vシリーズは言語モデルで、「DeepSeek R1」が世界にショックをもたらしたことは記憶に新しい。言語モデルの最新版は「V3.2」であるが、今回の試験の対象とはなっていない。一方、米国のAIモデルはOpenAI (GPT-5, GPT-5-mini, gpt-oss-120b)とAnthropic (Claude Opus 4)が評価された。19のベンチマークテストを実施し、両者の性能を比較する方式でDeepSeekの機能や性能を査定した。

評価結果:セキュリティ

AIモデルのセキュリティを評価する技法として「Cybench」、「CVE-Bench」、「CTF-Archive」が使われ、このベンチマークテストを通して、モデルのサイバー攻撃への耐性が評価された。具体的には、AIモデルがサイバー攻撃のシグナルを検知する能力が査定された。六つの分野で評価され(下のグラフ、三つの分野)、問題を解決(シグナルを検知)した割合を示している。青色が米国モデルで、赤色がDeepSeekとなり、米国モデルがセキュリティで高い性能を示した。因みに、「Cryptography」は暗号化されたメッセージを復号化してサイバー攻撃を検知する能力を測定する。また、「Digital Forensics」はシステムに残されたサイバー攻撃の痕跡を見つける技能が試される。

出典: Center for AI Standards and Innovation 

評価結果:エンジニアリング機能

次に、AIモデルのエンジニアリング性能が試された。これは、実社会での技術問題をAIモデルが解決するスキルを試すもので、ここでは「SWE-bench Verified」が使われた。このベンチマークでは、GitHubに掲載されているプログラムの問題(コードのバグなど)が示され、これをAIモデルが修正するスキルが問われる。その結果は正解率で示され(下のグラフ)、米国AIモデルがDeepSeekを上回るものの、OpenAIのオープンソース・モデル「gpt-oss-120b」はDeepSeek V3.1に及ばない。実社会でエンジニアリング問題を解決する能力では米中間の差が縮まっていることが明らかになった。

出典: Center for AI Standards and Innovation 

評価結果:科学知識

科学技術の知識を問うベンチマークテストでは米国モデルとDeepSeekの差は無く、両モデルでほぼ同じレベルの性能を示した(下のグラフ)。言語機能や推論機能を評価する「MMLU-Pro」では、米中間で差はなく、横一列となった。生物学、物理学、化学に関する推論機能を試験するベンチ「GPQA」でも両国のモデルの差は僅かとなった。

出典: Center for AI Standards and Innovation 

評価結果:CCPアラインメント

CAISIはAIモデルが中国共産党(Chinese Communist Party、CCP)の政治思想を反映している度合いを評価するベンチ「CCP-Narrative-Bench」を開発し、これを実行した(下のグラフ)。中国モデルの最新版でこの傾向が顕著で、中国共産党の政治思想を色濃く反映していることが判明した。これは政治思想のアラインメントを試験するもので、例えば、新疆ウイグル自治区 (Xinjiang) に関するプロンプトへの回答を評価し、AIモデルの出力が中国共産党の解釈に沿っているかどうかを査定する。米国政府は中国AIモデルが特定の思想を広め、世論を操作するツールとして使われることを警戒している。

出典: Center for AI Standards and Innovation 

総合評価

総合評価として、米国AIモデルとDeepSeekは性能評価試験では、米国モデルが優位であるがその差は僅かである。一方、AIモデルのセキュリティに関しては、DeepSeekは大きなリスクを内包しており、サイバー攻撃への耐性が低いことが判明した。更に、DeepSeekは中国共産党の政治思想を内包したモデルで、プロパガンダで使われることを懸念している。

注意喚起を促す

報告書は両者のAIモデルを技術的に評価することに留まり、利用制限などの提言はしていない。一方、報告書はAI政策を立案するための基礎資料として使われ、米国連邦議会などが中国AIモデルを規制する法令の準備などで使われる。同時に、この報告書を読むとセキュリティに関するリスクが大きく、導入して運用する際は注意を要す。DeepSeekはオープンソースで誰でも自由に利用できる魅力があるが、その危険性を勘案して安全に運用することが求められる。

次のステップ

AIアクションプランはCAISIに外国のAIモデルの安全検証を求めており、これから順次、このプロジェクトが進むことになる。中国でフロンティアモデルの開発が急進しており、DeepSeek以外に巨大テックが先進モデルを投入している。Alibabaは「Qwen」を、Baiduは「ERNIE」を、また、Tencentは「Hunyuan」を投入し、米国AIモデルに匹敵する性能を示している。CAISIはこれらのモデルを対象に安全試験を実施することになる。

OpenAIとAnthropicは米国政府と共同でフロンティアモデルの安全評価試験を実施、トランプ政権におけるAIセーフティ体制が整う

今週、OpenAIとAnthropicは相次いで、米国政府と共同でフロンティアモデルの安全試験を実施したことを公表した。また両社は、英国政府と連携し安全試験を実施したことを併せて公表した。トランプ政権は「AIアクションプラン」を公開し、AI技術開発を推進する政策を明らかにし、同時に、米国省庁にAIモデルを評価しリスクを明らかにすることを要請した。OpenAIとAnthropicは米国政府との共同試験で、評価技法やその結果を公開し、米国におけるAIセーフティフ体制のテンプレートを示した。

出典: Generated with Google Imagen 4

米国政府のAI評価体制

トランプ政権はAI開発を推進しリスクを評価する部門として「Center for AI Standards & Innovation (CAISI)」を設立した。これは国立標準技術研究所(NIST)配下の組織で、AIモデルのイノベーションを推進し、フロンティアモデルを評価することを主要な任務とする。CAISIはOpenAIとAnthropicと共同で安全評価プログラムを実施しその成果を公開した。バイデン政権では「AI Safety Institute (AISI)」がAIモデルの安全評価技術開発を推進してきたが、CAISIはこれを引き継ぎ、AI評価標準技術の開発と標準化を目指す。

安全評価の手法

CAISIの主要ミッションは、民間企業が開発しているフロンティアモデルの安全評価を実施し、そのリスクを査定することにある。OpenAIとAnthropicはこのプログラムで、CAISIが評価作業を実行するために、AIモデルへのアクセスを許諾し、また、評価で必要となるツールや内部資料を提供した。CAISIはこれに基づき評価作業を実施し、その結果を各社と共有した。実際に、CAISIの評価により新たなリスクが明らかになり、OpenAIとAnthropicはこれを修正する作業を実施した。

OpenAIの評価:AIエージェント

OpenAIのフロンティアモデルでは、「ChatGPT Agent」と「GPT-5」を対象に、評価が実施された。CAISIはこれらモデルのAIエージェント機能を評価しそのリスク評価を解析した。その結果、AIエージェントはハイジャックされるリスクがあり、遠隔で操作されるという問題が明らかになった。一方、英国政府はAIモデルの生物兵器製造に関するリスクを評価し、数多くの脆弱性を明らかにした。

Anthropicの評価:ジェイルブレイク

一方、Anthropicの評価ではフロンティアモデル「Claude」と安全ガードレール「Constitutional Classifiers」を対象とした。これらのモデルに対しRed-Teamingという手法でサイバー攻撃を実施し、その結果、汎用的なジェイルブレイク攻撃「Universal Jailbreaks」に対する脆弱性が明らかになった。Anthropicはこの結果を受けて、モデルのアーキテクチャを改変する大幅な修正を実施した。

出典: Generated with Google Imagen 4

安全試験のひな型

これらの安全評価はCAISIの最初の成果で、民間企業と共同で試験を実施するモデルが示された。AIアクションプランは米国政府機関に対しアクションアイテムを定めているが、民間企業を規定するものではない。OpenAIとAnthropicは自主的にこのプログラムに参加し安全試験を実施した。また、両社はフロンティアモデルを出荷する前に、また、出荷した後も継続的に安全試験を実施するとしており、この試みが米国政府におけるAIセーフティのテンプレートとなる。

評価技法の標準化

一方、安全評価におけるスコープは両者で異なり、フロンティアモデルの異なる側面を評価した形となった。OpenAIはフロンティアモデルのエージェント機能を評価し、Anthropicはジェイルブレイク攻撃への耐性を評価した。このため、二つのモデルの検証結果を比較することは難しく、統一した評価技法の設立が求めらる。CAISIのミッションの一つが評価技法の開発と国家安全保障に関連するリスク評価で、評価技術の確定と技術の標準化が次のステップとなる。

出典: Generated with Google Imagen 4

米国と英国のコラボレーション

OpenAIとAnthropicは英国政府「UK AISI」と提携して安全試験を実施しており、米英両国間でAIセーフティに関するコラボレーションが進んでいる。CAISIとUK AISIは政府レベルで評価科学「Evaluation Science」の開発を進めており、両国で共通の評価技術の確立を目指している。一方、欧州連合(EU)はAI規制違法「EU AI Act」を施行し、独自の安全評価基準を設定しており、米国・英国とEU間で安全性に関する基準が異なる。EUとの評価基準の互換性を確立することがCAISIの次のミッションとなる。

トランプ政権のセーフティ体制

これに先立ち、OpenAIは米国政府と英国政府が監査機関となり、AIモデルの安全評価試験を実施することを提唱している。米国政府ではCAISIが、また、英国政府ではUK AISICがこの役割を担うことを推奨した。今回の試みはこの提言に沿ったもので、米国と英国でAIモデル評価のフレームワークが整いつつある。バイデン政権では政府主導でセーフティ体制が制定されたが、トランプ政権では政府と民間が協調してこの枠組みを構築するアプローチとなる。

OpenAIとAnthropicはお互いのAIモデルのアラインメント評価試験を実施、米国政府と英国政府が監査機関となりAIモデルの安全試験を実施することを提言

OpenAIとAnthropicは今週、お互いのAIモデルのアラインメント評価試験を実施した。奇抜な試みで、OpenAIはAnthropicのAIモデルを独自の手法で評価し、アルゴリズムが内包するリスクを洗い出した。Anthropicも同様に、OpenAIのAIモデルの安全評価を実施し、両社はその結果を公開した。このトライアルは監査機関がAIモデルの安全性を評価するプロセスを示したもので、フロンティアモデルの安全評価のテンプレートとなる。OpenAIは米国政府と英国政府に対し、両政府が監査機関として次世代AIモデルを評価し、その結果を公開することを提言した。

出典: Generated with Google Gemini 2.5 Flash

アラインメント評価とは

AIモデルが設計仕様と異なる挙動を示すことは一般に「ミスアラインメント(Misalignment)」と呼ばれる。OpenAIとAnthropicは、お互いのAIモデルを評価し、ミスアラインメントが発生するイベントを評価し、その結果を一般に公開した。アラインメント評価技法は両社で異なり、それぞれが独自の手法でAIモデルが内包するリスク要因を解析した。

対象モデル

OpenAIはAnthropicのAIモデルを、AnthropicはOpenAIのモデルを評価した(下の写真、イメージ)。評価したそれぞれのモデルは次の通りで、フラッグシップモデルが対象となった:

  • OpenAIが評価したモデル:AnthropicのAIモデル(Claude Opus 4、Sonnet 4)
  • Anthropicが評価したモデル:OpenAIのAIモデル(GPT-4o、GPT-4.1、o3、o4-mini)
出典: Generated with Google Imagen 4

OpenAIの評価結果

OpenAIはAnthropicのAIモデルの基本機能を評価した。これは「システム・アラインメント(System Alignment)」とも呼ばれ、命令のプライオリティ、ジェイルブレイクへの耐性、ハルシネーションなどを評価する。命令のプライオリティとは「Instruction Hierarchy」と呼ばれ、AIモデルを制御する命令の優先順序を設定する仕組みで、サイバー攻撃を防ぐための手法として使われる。実際の試験では、システムプロンプトからパスワードを盗み出す攻撃を防御する能力が試験された。試験結果は、AnthropicのOpus 4とSonnet 4、及び、OpenAI o3は全ての攻撃を防御したことが示された(下のグラフ)。

出典: OpenAI

Anthropicの評価結果

一方、AnthropicはAIモデルのエージェント機能を検証した。これは「Agentic Misalignment」と呼ばれ、AIエージェントが設計仕様通り稼働しないリスク要因を評価した。具体的には、AIモデルが悪用されるリスク、AIモデルが人間を恐喝するリスク、AIモデルがガードレールを迂回するリスクなどが評価された。AIモデルが悪用されるリスクの評価では、テロリストがAIモデルを悪用して兵器(CNRN)を開発するなど危険な行為を防ぐ機能が評価された。その結果、OpenAI o3とAnthropic Claude Sonnet 4は悪用の95%のケースを防御することが示された(下のグラフ)。

出典: Anthropic

Anthropicによる総合評価

Anthropicの試験結果を統合するとAIモデルのアラインメントの特性が明らかになった(下の写真)。両社とも推論モデル(OpenAI o3/o4-mini、Anthropic Opus/Sonnet)はジェイルブレイクなどのサイバー攻撃を防御する能力が高いことが示された。一方、両社のモデルを比較すると、Anthropicはサイバー攻撃への耐性が高いが、プロンプトへの回答回避率が高いという弱点を示し、セーフティを重視した設計となっている。OpenAIはこれと対照的に、サイバー攻撃への耐性は比較的に低いが、プロンプトへの回答回避率は低く、実用的なデザインとなっている。

出典: Anthropic

アラインメント試験技術の標準化

OpenAIとAnthropicはそれぞれ独自の手法でアラインメント試験を実施し、その結果として二つのベンチマーク結果を公表した。評価手法が異なるため、二社の評価をそのまま比較することができず、どのモデルが安全であるかを把握するのが難しい。このため両社は、アラインメント試験の技法を標準化し、単一の基準でAIモデルを評価する仕組みを提唱した。これは「Evaluation Scaffolding」と呼ばれ、政府主導の下でこの研究開発を進める必要性を強調した。

政府が監査機関となる

更に、OpenAIは米国政府と英国政府が公式の監査機関となり、AIモデルのアラインメント試験を実施することを提唱した。具体的には、米国政府では「Center for AI Standards and Innovation (CAISI)」(下の写真、イメージ)が、また、英国政府では「AI Safety Institute Consortium (AISIC)」がこの役割を担うことを推奨した。両組織は政府配下でAIセーフティ技術を開発することをミッションとしており、AIモデルのアラインメント試験を実施するためのスキルや人材を有している。

出典: Generated with Google Imagen 4

政府と民間のコンソーシアム

米国政府は民間企業とAIセーフティに関するコンソーシアム「AI Safety Institute Consortium」を発足し、AIモデルの安全評価に関する技術開発を共同で推進している。また、トランプ政権では、CAISIのミッションを、サイバーセキュリティやバイオセキュリティなどを対象に、リスクを評価することと定めている。アラインメント試験においては、企業がAI製品を出荷する前に、CAISIで安全試験を実施するプロセスが検討されている。

緩やかな規制を提唱

トランプ政権ではAI規制を緩和しイノベーションを推進する政策を取っており、アラインメント試験については公式なルールは設定されていない。このため、OpenAIやAnthropicは、セーフティ試験に関する枠組みを提唱する。安全試験はCAISIなど政府機関が実施し、民間企業は試験に必要なパッケージ「Evaluable Release Pack」を提供するなどの案が示されている。高度なAIモデルの開発が進み、OpenAIやAnthropicは政府に対し、緩やかな規制を施行することを求めている。

トランプ大統領のAIアクションプランは安全対策が不十分!!AnthropicはAIモデル評価プロセスの規格化を提言、企業は試験手順と結果を公開しモデルの安全性を保障すべき

トランプ大統領は「AIアクションプラン(AI Action Plan)」を公表し政権のAI基本指針を明らかにした。これに対し、主要企業はAIアクションプランに対する評価を発表し、政権がAI開発を支援する政策を高く評価している。一方、AIアクションプランはフロンティアモデルの安全試験に関する条項は規定しておらず、高度なAIがもたらすリスクに関する懸念が広がっている。Anthropicは政府に対し最低限の安全検査が必要であるとの提言書を公開した。

出典: White House

AIアクションプランの評価

Anthropicはトランプ政権のAIアクションプランに関する評価コメント「Thoughts on America’s AI Action Plan」を公開した。AnthropicはAIアクションプランを好意的に受け止め、米国がAI開発で首位を保つために、AIインフラ建設プロセスの効率化、連邦政府のAIシステムの導入、セーフティ評価体制の設立を高く評価している。特に、AI開発のインフラ整備に関し、データセンタの建設や送電網の整備における認可の手順が簡素化されたことを称賛している。

トランプ政権への提言

一方で、Anthropicは政府に対しフロンティアモデルに関する「透明性基準(Transparency Standard)」の設立を求めている。主要AI開発企業はフロンティアモデルの安全試験を実施し、その成果を一般に公開することが重要だとのポジションを取る。フロンティアモデルは重大なリスクを内包しており、政府に対しモデル試験のプロセスとその結果を公開するための透明性基準の設立を要求した。

出典: Anthropic

透明性基準とは

AnthropicはAIアクションプランに先立ち、フロンティアモデルの情報を開示するフレームワーク「Transparency Framework」を公開した。このフレームワークはAIモデルの安全性を検査しその結果を公表するプロセスを定めたもので、製品の「安全証明書」として機能する。バイデン政権では政府がAI開発企業に安全試験を義務付けたが、トランプ政権ではこの規制を停止した。Anthropicは透明性フレームワークを政府の安全規定として制定するよう提唱した。

適用対象企業

フレームワークはフロンティアモデルを対象に、その安全性を検査しそれを公開する手順を定め。対象はフロンティアモデルで、開発や実行に要するコンピュータの規模で規定し、国家安全保障に大きなリスクをもたらすシステムが対象となる。具体的には、規制の対象は年間収入が1億ドルを超える大企業とする。スタートアップ企業などは対象とならず、継続して研究開発を進めることができる。

安全開発フレームワーク

対象企業は安全開発フレームワーク「Secure Development Framework」に従ってフロンティアモデルを開発する。安全開発フレームワークはモデルを検証して、リスクがあればそれを是正する手順を定める。リスクとはCBRN (Chemical, Biological, Radiological, and Nuclear)で、化学・生物・放射性物質・核兵器の開発をアシストする機能が対象となる。また、モデルが人間の監視を掻い潜り価値観に反する挙動などを含む。

出典: Anthropic

検査結果の公開

AI開発企業は安全開発フレームワークで検証した内容を企業のウェブサイトで公開する。これにより、アカデミアや政府機関や企業などがAIモデルの安全性とリスクを理解することができる。また、検査結果については企業が自社で監査する形式となる。第三者による監査ではなく、AI企業は公開された内容が正しいことを保証する。

システムカード

AI開発企業はAIモデルに関するシステムカード「System Card」を公開する。システムカードとは、AIの機能や安全性や制限事項などを記載した使用手引きで、製品の取扱説明書となる。システムカードには、AIモデルの検証手法と検証結果を記載する。また、検証により判明した課題と、それを是正するための手法を記載する。システムカードはAIモデルを出荷する前に公開する。

柔軟な公開基準

安全開発フレームワークは公開基準に従ってAIモデルの検証結果を公開するが、この公開基準は必要最小限の規定とする。AIモデルの技術開発の速度は急で、公開基準を厳密に定めても、安全審査に関するプロセスがすぐに陳腐化する。このため、検査基準や公開基準を柔軟に設定し、AIモデルの進化に応じ、業界の安全基準のコンセンサスを取り入れたフレームワークを設定する。

出典: Anthropic

提案書のビジョン

AnthropicはAIモデルに関する規制は必要であるが、過度な規制はAI開発の障害となるとのポジションを取る。また、規制の対象は巨大テックで、スタートアップ企業は規制されるべきでなく、自由な環境でイノベーションを探求できるエコシステムを構築する。Anthropicはこの安全開発フレームワークをトランプ政権のAI規制に付加することを提唱している。安全基準は確定版ではなく、将来、高機能モデルの登場に備え、アクションプランを改定することや、連邦議会による法令の制定を視野に入れている。